なぜ「検察庁法」で世論が動いたのか +追記

はじめに

本エントリーは、3日間だけ無料公開していた「桜を見る会で野党はどのように失敗したのか?」の続きです。

検察庁法改正案の問題点

5月8日からTwitterに突如表われたハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」が、ツイート総数500万を超え、トレンド1位になりました。今回は、これまで政治的発言を控えていた多くの芸能人(きゃりーぱみゅぱみゅさんや小泉今日子さんなど)が声をあげたという点で、非常に特異なものであったと言えます。

検察庁法改正案の問題点に関しては、正確かつわかりやすい解説が色々ありますので、そちらをご覧ください。たとえば、

とか

とかオススメです。

法案の新旧対照表を読めばわかりますが、今回の検察庁法の改正案は、多くの論者が指摘しているように、内閣が恣意的に検事総長、次長検事又は検事長に関して、内閣が恣意的に(人事院を通さず)定年を延長したり停止したりできる、という点が問題だということは確認しておきます。

なぜ検察庁法で世論が動いたのか

今回の私の記事は、別の角度からです。

なぜ、「検察庁法改正案」という比較的わかりにくい問題が、ここまで大きな問題として世論を動かすに至ったのか、そこを整理しておきたいのです。

2020年1月17日、内閣法制局は、「(黒川検事の)勤務延長が必要になったので、解釈変更をしたい」と(政権から)相談を受けました。

その直前には何があったのでしょうか。

2020年1月14日、先のブログで紹介した、上脇博之教授ら法学研究者による、背任罪による安倍首相の刑事告発です。桜を見る会の主催者である安倍晋三は、国のために予算の範囲内で事務を遂行するという任務に違背し、自分の支援者たちをもてなすために予算を大幅に超過して、結果として1億5121万5000円の損害を与えた、というものです。

この告発状、ぜひ全文を読んでいただきたいですが、不明な要素がなく、非常に簡潔かつ強固な論理構成です。

背任罪の構成要件である、
①他人のためにその事務を処理する者
②図利加害目的
③任務違背行為
④財産上の損害
の4点を、疑う余地なく満たしています。

言い換えれば、司法が正常に機能する限りにおいて、安倍晋三は有罪を免れることはできません。

で、前回の記事にも書いたことですが、安倍首相の弱点は、「収監・尋問される」という深層心理の恐怖心です。それが安倍首相の政治的原動力でさえあると同時に、実は、安倍政権最大の弱点でもあるのです。

上脇教授らの刑事告発は、安倍政権の中において、そのジューシーな急所を突いた、といわばまさにそのように考えられるワケであります。

で、恐怖心に駆られた安倍が放った一手が、「黒川検事長の定年延長」でした。でも、これはまさに「禁じ手」です。なぜなら、検察庁法には、明確に次のように書かれているからです。

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。


詳しくは他の人に譲りますが、公務員定年延長は検察官には認められないというのがこれまでの政府答弁であり、その解釈変更を口頭決済で行った、しかも議事録や書類が現在のところ一切提出ができない状況で、この解釈変更自体が違法であるという見方が法クラスタでは極めて濃厚です。

前回記事に引き続き将棋の比喩で言えば、王手をかけられて焦った安倍首相が放った防御の手が、二歩(同じ列に歩を2つ打つ)という反則手だったという状況だったのです。ちなみに将棋のルールでは、二歩を打ったら即負けです。

で、それを後付けで正当化するために、検事長法の改正案を出してきた。言い換えれば、「それ、二歩じゃん」って言われたら、「二歩はオッケーってルールにしたら良いんだろ?」って、無理矢理ルール変更するような愚行です。

それに、世論が反応した。「ルールを変えてまで強引に法改正を進めようとするのは、やっぱ怪しい、なんか悪いことやってるんじゃないの?」と。

有効な戦術とは

整理します。

①上脇教授らは、刑事告発によって、安倍首相の恐怖心をうまく突いた。

②焦った安倍は、子飼いの検事長の定年延長という、違法な一手を放ってしまった。

③自分の放った禁じ手を事後的に正当化するために、強引にルール変更を進めようとした。

④その安倍政権の動きに、「やっぱ安倍怪しいやん、いいかげんにしろ」と世論が大きく反発した。

このように整理すると、前回記事に描かれたとおりのシナリオで、世論が動いたと言えます。

こう見ると、安倍政権倒閣を遂行するための戦略も、おぼろげながら見えてきます。我々が責めなければならないのは、③の「ルール変更」である検察庁法改正案よりも、②の定年延長の違法性です。ルール変更は、その手前の違法性を覆い隠すための隠れ蓑だとさえ言えます。

二歩を放ったのは、黒川検事長ではなく安倍首相です。黒川氏は、自分の意志で検事長の座に居座っているワケではありません。

法的根拠がない黒川弘務氏に、現在に至るまで検事長モドキの仕事をさせ続けているのは、安倍首相です。その行為の違法性は、法改正によって消え去りはしません。定年延長について、安倍首相の政治的責任と刑事責任の両方が問われなければならないのです。

その意味で、5月13日からTwitterトレンドに上がっているハッシュタグ「#検察に安倍首相の捜査を求めます」は、非常に有意義な流れだと思われます。

最後に

というわけで、非常にしつこい中において申し訳ございませんが、みなさん是非、この記事を読んでみてください。


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追記

皆様に記事の誤りについて謝罪しないといけません。

私は前回の記事で、「逮捕・収監される」という恐怖心を突けば、安倍がリアクションして、世論が大きく動くという可能性について書きました。

実際、朝日新聞の最新の世論調査では、内閣支持率は8ポイントも下がりました。

ここまでは合ってました。私、こう書いたのですが、これが浅かった。

これは推測ですが、「これは私を貶めようとする陰謀だ」ぐらいのことは言うでしょう。少なくとも、いたく狼狽し、激昂し、精神的に大きなダメージを与えることは確かです。

狼狽したのは確かですが、安倍ちゃんが痛いところを突かれたときの、もう一つのパターンを完全に失念していました。そう、条件反射で、その場しのぎの嘘をついてしまうというアレです。

5月14日、安倍首相は片山さつきの動画チャンネルに出演して、「黒川さんとは2人きりで会ったこともない」と言ったのです。

で、当然、すぐに首相動静をみんな調べるわけですよ(笑)。

なんでこう、すぐバレる嘘付いちゃうかなあ。

あと、同じ番組で、こういうやりとりがあったとか。

櫻井「じつはその、政府高官に私ちょっといろいろ取材をして聞いたらですね、黒川さんの定年延長の問題も、それからあの全部これは検察、つまり法務省の側から持ってきたものを、官邸がただ了承しただけだと聞いたんです。これ、かなり詳しく聞いたんですが、それは本当なんですか?」
安倍「それはまったくそのとおりですね。あの、まさに、この検察庁も含めて法務省が『こういう考え方で行きたい』という人事案を持ってこられてですね、それを我々が承認をするということなんです」
(Litera 窮地の安倍首相が櫻井よしこの「言論テレビ」に逃げ込み嘘八百!「定年延長も検察庁法改正も法務省が持ってきた」「黒川と2人で会ったことない」)

翌15日には、国会でもこんな答弁があったとか(笑)。

内閣の恣意(しい)的な人事が行われることはなく、自らの疑惑追及を逃れることが改正の動機の一つといったご指摘も全く当たらない

https://www.sankei.com/politics/news/200515/plt2005150015-n1.html

もうね、ここまで必死に否定すると、一周回ってかえって正直なぐらいですよね(笑)。

てか、なんで「黒川氏と二人で会ったことない」って嘘をついちゃったんでしょうね?すぐバレるのに。

なんの目的で・・・ってそりゃあ、「疑惑逃れ」のため以外考えられないじゃないですか。

あれれ?じゃあやっぱり、検察庁法改正も疑惑逃れでは??

まあ、だから、検察庁法改正よりも、疑惑追及のほうが本筋ということでもありますよね。

筋論で言えば、検察庁法改正案を審議する前に、黒川検事長の定年延長についてその違法性が問われるべきなのです。逆に言えば、首相は自らの責任において、定年延長の合法性と必要性を、国民に対してつまびらかに説明する義務を負っています。

まあ、黒川氏と二人であったことはないというのは明らかに虚偽なので、野党議員の皆さんは、国会でガンガン質問しちゃってください。「嘘つき」ぐらいのことは言ってもいいと思いますよ。

で、逆ギレしたりさらなる嘘を重ねるようであれば、安倍首相の証人喚問を要求すればいいんです。今なら世論も大きく後押ししてくれるでしょう。今こそ野党議員は覚悟を決めてください。


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