安倍首相に拉致問題が解決できない本当の理由

拉致被害者問題と安倍首相

横田めぐみさんの父である、横田滋さんが亡くなりました。

心からご冥福をお祈りします。

1977年に、中学一年生の娘さんが拉致されてから42年間、生きて再び相まみえることができずにこの世を去る悔しさは如何ばかりだったのでしょうか。

滋さんの死去を受けて、安倍首相は次のように話しました。

滋さんが早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日が来るようにという思いで今日まで全力を尽くしてきたが、そのことを首相としてもいまだに実現できなかったこと、断腸の思いであるし、本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。

確かに、安倍首相には最大の責任があります。ごく単純に言って、2002年の拉致被害者の帰国以降、ほとんど何の進展も見られません。その間の17年あまりのうち、ほぼ半分が安倍首相(第一次・第二次政権)の任期だからです。

彼は拉致問題を利用しただけで、実際には解決する意志がなかった、という見方をする人もいます。しかし、私の見立ては別です。

そもそも、意志や能力とは別に、安倍晋三が首相の座に着いている限り、拉致問題は絶対に解決できないのです。その事を、本記事では説明したいと思います。

2002年、国交正常化交渉が帰国拒否で頓挫した

2002年のことを思い出してください。9月、当時の小泉首相が北朝鮮を電撃訪問し、これまで拉致を認めてこなかった北朝鮮が一転して5人の拉致被害者の生存を認めます。そして、日朝国交正常化交渉の開始を前提に、日朝平壌宣言を発表します。

こうした急激な政治的な動きの背景には、1年間におよぶ外務省の交渉と、ブッシュ政権の対テロ戦争にたいする北朝鮮の危機感などがあったと、小泉元首相は証言しています。

このとき、拉致被害者問題は、確かに一挙に解決の方向に動いたと言えます。

しかし、この流れが変わる出来事がありました。10月、一時帰国した拉致被害者5人を、世論の高まりや家族会の要請もあり、日本政府が北朝鮮に帰すことを「拒否」したのです。

それから17年あまり。日朝国交正常化交渉は完全に頓挫し、被害者の家族が2004年に来日して以降、拉致被害者問題は何一つ進展を見せていません。

国交正常化だけが本当の解決

このように振り返ると、一時帰国の約束を一方的に反故にしたことが、事態を最悪の方向に転換させた。そう結論づけざるを得ません。

やはり王道は、北朝鮮と日本の双方が、誠実に過去に向き合って過ちを認め、信頼関係を築いていくことでした。その先に、国交正常化がある。そうすれば、他の被害者も家族も、互いに自由に行き来し、家族で話し合って自分の生活の場を選択できるようになったはずです。

逆に国交が断絶したままでは、日朝両国に家族がいる被害者が、どちらかの家族と引き裂かれざるを得なかったのです。

もちろん、北朝鮮に戻りたくない、戻ったら二度と会えないかも知れないと危惧する御家族の気持ちは十分に理解できるものです。被害者が5人だけなら、外交上の信用失墜と引き替えに、その選択も考える余地はあるかもしれません。

しかし、5人以外にも拉致被害者が存在する以上、その軽挙によって、他の被害者が帰国する途が閉ざされるというのは、当時からして自明の事ではなかったでしょうか。

あのとき、日本政府が北朝鮮との約束を守って、日朝正常化交渉を進めていっていたら、もっと多くの拉致被害者とその家族が救われたでしょう。そう思うと悔やまれてなりません。

最大の阻害要因は、安倍首相の不誠実な人格である

被害者の帰国から17年あまり。拉致被害者問題を政治的目標として掲げてきた政治家が、そのうちの半分以上の期間、総理大臣を務めています。

たとえば、2012年、二回目の首相に返り咲いた直後に、安倍は家族会と面会し、次のように決意を話しています。

もう一度首相に就いたのも、何とか拉致問題を解決しなければとの使命感からだ。必ず安倍内閣で解決する。(毎日新聞 2012/12/28

しかし、それから7年半、成果は何一つとして表われていません。繰り返ますが、これは安倍首相が解決する意志がなかったからというより、安倍には解決不可能だったからだ、と私は考えています。

北朝鮮との国交正常化交渉において、北朝鮮への帰国をさせないという政府方針を主導したのが、当時、内閣官房副長官だった安倍晋三だったということになっているからです。

安倍自身、著書『美しい国へ』で次のように書いています。

マスコミや政界では、五人をいったん北朝鮮に帰すべきという意見が主流であった。しかし、ここでかれらを北朝鮮に戻してしまえば、将来ふたたび帰国できるという保証はなかった。
十月二十三、二十四日の二日間にわたって、官邸のわたしの部屋で協議をおこなった。さまざまな議論があった。
「本人の意志として発表すべきだ」、あるいは「本人の意志を飛び越えて国家の意志で帰さないといえば、本人の意志を無視するのはおかしい、とマスコミに批判されるだろう。
家族が離ればなれになれば、責任問題にもなる」という強い反対もあった。
しかしわたしたちは、彼らは子どもたちを北朝鮮に残しているのだから、彼らの決意を外に出すべきでない、と考えた。
何より被害者が北朝鮮という国と対峙しようとしているとき、彼らの祖国である日本の政府が、国家としての責任を回避することは許されない。
最終的にわたしの判断で、「国家の意志として五人を帰さない」という方針を決めた。
ただちに小泉総理の了承を得て、それは政府の決定となった。(強調は筆者)

この点について、拉致被害者の家族から異論が出ています。その真偽はさておき、安倍晋三が、「北朝鮮に帰さないという決定を自分が行った」と主張していることこそが、大切なのです。

北朝鮮の側から考えてください。両国の未来のために、互いの信頼に基づいて被害者を一時帰国させたところ、外交上の約束を一方的に反故にされたのです。拉致被害者を奪還するために「国交正常化交渉」を餌にした、と考えることさえできます。

安倍は、外交の場面においてさえ、このような稚拙な詐術を是とする政治家である。その事実を北朝鮮政府は真摯に受け止め、日本国民はそれを見過ごすどころか容認し賞賛したのです。

安倍晋三は、その場しのぎで平気で嘘をつく人間だということは皆さん周知の通りですが、北朝鮮政府はそのとき、安倍の人間性の本質に直面せざるを得なかったのです。

これでは、北朝鮮からすれば相手の言葉を一切信用出来ません。したがって、仮にどのような好条件を出されたとしても、履行されないリスクを考慮に入れると、受け入れることはできません。したがって、安倍首相が相手である限り、一切の交渉の余地はありません。

安倍は先の著書で「相手が作った土俵で戦えば勝てない」と主張しました。しかし、安倍は、最低限の誠実さを欠いたが故に、外交交渉が成立する土俵を完全に掘り崩してしまったのです。

その人間が、その後長きにわたって、日本の総理大臣をやっているワケです。安倍首相のやる気や交渉カードの問題ではありません。

真の拉致問題解決の最大の阻害要因、それは安倍首相の不誠実な人格なのです

だから、安倍首相が拉致被害者問題を本当に解決したいと考えているなら、何一つ問題を進展できなかったことを被害者と家族に真摯に謝罪し、自ら退陣すべきなのです。


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