#卒業生インタビュー#02坂巻匡彦さん#電通#2004卒
坂巻匡彦(さかまき ただひこ)
(株)電通
電通ビジネスデザインスクエア 変革デザイン第1グループ
チーフ・デザイン・ディレクター
2004年 千葉大学大学院修了
2004年 KORGにプロダクトデザイナー/商品企画として入社
2017年 電通入社
こんにちは!千葉大学デザインコース企画班の柴崎です☀︎
今回インタビューするのは、現在プロダクトデザインの授業の非常勤講師をしてくださっている坂巻先生。私も3年生の頃にお世話になりました。
KORGで楽器のプロダクトプランナーとして経験を積んだ坂巻先生が、新規事業コンサル職に移った経緯、そしてデザイナーとしての経験がどのように活かされているのか、"潜り"ます!
このnoteでは、千葉大学デザインコースの専門分野である4本柱(プロダクトデザイン・コミュニケーションデザイン・環境デザイン・トランスポーテーションデザイン)の話が出てきます。それぞれの柱の詳細は下記のnoteでチェック!
☞目次
・カタチから企画へ
-現在取り組まれていることはなんですか?
-なぜプロダクトデザイナーから商品企画に?
-なぜ電通に転職したんですか?
・デザインはツールの1つ
-デザインで大切にしていることはなんですか?
・駄目人間だった学生時代
-どんな学生でしたか?
- 印象に残った授業はなんですか?
-卒研のテーマはなんですか?
-学生時代の自分へのアドバイスお願いします!
カタチから企画へ
──現在取り組まれていることはなんですか?
今の仕事は、「企業の本質価値を再定義して、その本質価値に基づいた一貫性のある企業活動を支援する」ことをやっているよ。
電通って言うと広告の会社だって学生のみんなは思うだろうけど、お客様の課題はもっと複雑で多岐にわたっているから、「良い広告を作ります!」だけでは課題を解決できなくなってきているんだ。
僕はメーカーに13年もいたから、その経験を活かして、事業レベルでのプロダクト開発とかサービス開発を担ったりしているんだ。
──難しいですね……。具体的に教えてください。
今までテレビだけをずっと作ってきたんだけど、テレビが売れなくなって困っている会社を例に話をするね。
その会社から僕たちに相談があったとして、まずはその会社がテレビを通じてユーザーに提供していた価値を深堀りすることから始める。ここでいう価値とは、画面が大きいとか、使いやすいとか、そういう機能的な価値じゃないんだよね。
ユーザーは何のためにテレビを見ているか、テレビの存在意義とは、とか意味的な価値のことを考える。
──何のためにテレビを見ているのかって、ニュースとかバラエティとか番組を見るためですよね。
そうだね。でも、そこから更に踏み込んで考えるんだ。例えば、ニュースやバラエイティを見ると、どんな良いことがあるだろうって。ニュースにしてもバラエティにしても、社会全体の空気みたいなものを如実に表していたんだと思うんだよね。だから、かつては社会の変化を感じるためにテレビを見ていたけど、その目的であれば、ニュースアプリとかTwitterとかの方が便利になって、テレビじゃなくてスマホを買うようになった。こんな感じで仮説を作っていくんだよ。
テレビを作っていた会社の話に戻すと、その会社はテレビというプロダクトを通じて、社会の変化を伝える助けをしていたのが本質的な価値だと言える。その価値を元にして今何をするべきかを考え直すんだ。
ただのテレビを作るだけじゃなくて、雑誌もテレビもSNSも含めた世界中のメディアから、社会の変化を知るために必要なモノを自動的に表示し続けてくれるダッシュボードみたいなテレビがあってもいいかもしれない、とかね。
これは、あくまで例だからツメが甘いんだけど、実際はユーザー調査をして受容性を確認したり、事業性や実現性を検証して、進めていくんだよ。
──デザインというよりも発明みたいですね。
そうかもね。新しい意味を発明しているのかもしれないね。
──なぜプロダクトデザイナーから商品企画に?
KORGにプロダクトデザイナーとして入社したんだけど、人から頼まれたものをデザインするだけの仕事が面白くなくて。それに、企画担当の人が考えたアイデアよりも、自分が考えているアイデアの方が面白かったんだよね(笑)。
デザインが持っている新しいものを見つける力はもっと幅広く使えるんじゃないかって思って、2ヶ月くらいでプロダクトデザイン部から商品企画室に異動したんだ。
人を観察したり話を聞いたりして、新しい切り口を見つけて、新しい何かを作っていく、まさにデザイン思考みたいなアプローチで企画することを実践してた。商品企画を10年くらいやったけど、ヒット商品をいくつも作ることができたから、自分のやり方は間違ってなかったと思うよ。
プロダクトデザインの良し悪しを計測するのは難しくて、自分の美意識と消費者の理解の間で悩むことになりがちだけど、商品企画は良いものは売れるし、良くないものは売れない。良し悪しが明確なのが、自分の性に合ってたんだよね。
──なぜ電通に転職したんですか?
もっと色んなコトをしたくなったからかな。
KORGでのキャリアは、カタチを考えるデザイナーという役割から始まったんだけど、商品のあり方を考える商品企画になり、事業のあり方を考えるジェネラル・マネージャーになって、視野がどんどん広がっていったんだよね。
視野が広がっていくのが、すごく心地よくて。じゃあもっといろんな会社のあり方を考えるようになったら、もっと心地よいんじゃないかなって思って、電通に転職することにしたんだ。
──電通に転職されてどうですか?
色んなクライアントのプロジェクトに関われて楽しいよ。学ぶことが多くて大変だけど、飽きることはないかな。視野も圧倒的に広がったから、満足だよ。
デザインはツールの一つ
──デザインで大切にしていることは何ですか?
デザインという手法を本当に使うべきかどうか、を考えるようにしているよ。
僕は新しい何かを見つけるためにデザインを使うんだけど、デザインって万能じゃなくて、むしろ欠点が多いんだよね。
共感をベースに発想するから今までにない新しい切り口が見つかるけど、それが他の切り口に比べて優れている理由を説明することが難しい。新しいプロダクトデザインをするくらいなら、新しいってことだけで説得できることも多いだろうけど、新しい事業を考えるときは動くお金も大きいから最良の答えだってことを説明できないとクライアントに納得してもらえないんだよね。
だから、色んな手法と組み合わせてデザインを使うようにしていて、デザインの出番はなるべく少なくなるようにしているよ。
──デザイン以外にどういう手法があるんですか?
大雑把に分けると、いわゆるコンサルっぽい人が使うロジカル思考、マーケターが使うマーケティング思考、デザイナーが使うデザイン思考かな。ユーザーの扱い方が全然違うよ。
ロジカル思考はユーザーのことは考えなくて、できる限り定量的な事実ベースの情報を網羅的に集めて、最も良い選択をし続けることで答えを出す方法。
マーケティング思考は消費者とか生活者とか大きな集合として人を捉えて、必要に応じてセグメントととして分割していく。人の気持ちも考えるけど、アンケートとかを多用して定量化するのが基本。
デザイン思考は人の気持ちを大切にするために、数人程度の少ないユーザーを対象にして、その人さえ気がついてない新しい何かを見つけるアプローチだね。
ちょっと極端だけど、それぞれの特徴はこんな感じかな。
新しい何かを見つけるときに、人について考えるのって絶対に必要なことなんだけど、人って不確実性の塊だから、深く理解しようとすると手間がかかり過ぎるんだよね。最良の答えであることを説明するには、MECEであることが求められるんだけど、人の気持をMECE(*)に扱うのは殆ど無理。
※MECE(ミーシー)
:「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略で、「モレなく、ダブりなく」という訳である。
ロジカル思考やマーケティング思考で大まかにあたりを付けて、一番深堀りする必要があるときにデザインを使うようにしている。デザインはツールの一個だと思っているから、ツールにこだわらずに、適材適所で使い分けることが大事だと思っているよ。
駄目人間だった学生時代
──どんな学生でしたか?
ダメ学生だったね(笑)。ずーっと遊んでて、学部で卒業した時は成績が下から二番目くらいだった(爆笑)。ライブ行って、クラブ行って、朝起きられない駄目人間だったよ。
──すごいですね(笑)。4年の時もですか?
3年生の終わりに就活の時期になってさすがに焦って、真面目に学校に行き始めたよ。
就職活動のために作品集を作ろうとしたんだけど、見せられる作品がないことに気がついて、途方に暮れたね。大学院に行って、遅れを取り戻そうと思ったんだけど、成績が悪すぎるから進学も難しいことが分かって、八方塞がりだった。
絶望しているときに、たまたま一号棟の入り口で、入りたかった研究室の先生を見かけて、勇気を出して「心を入れ替えて真面目にやるので、研究室に入れてください。」ってお願いしたら、OKしてもらえたんだよね。その後からは、ちゃんと研究室に通って頑張ったよ。
──その先生には気に入られてたんですかね。
面白かったんだと思うよ。授業に全然来ない生意気な学生が、本当に困った顔してお願いしていたわけだしね。
そのときに先生は「いいよ。鍛えてやるよ。」って言ってくれたんだけど、本当に厳しく鍛えてもらったから、気にはかけてもらってたんだと思う。
ただ厳しすぎたから、今でも先生に会うと呼吸が浅くなるくらいに緊張する(笑)。そんなこと普段ないんだけど、息が上手く吸えない過呼吸状態みたいになるんだよね。(アハハハ)
軽いトラウマみたいな症状が出てるけど、今の自分があるのはその先生のおかげだから、感謝してる。
──今でも覚えている授業はなんですか?
SEIKOのウェアラブルの授業だね。
※千葉大学デザインコースの実技授業では、企業に勤めている現役デザイナーの方々を授業の講師としてお招きし、より実践的な講義を行ってもらっています。
当時は結構ハードで、新しい商品案・デザイン案を毎週100案持っていって、先生からOKもらえたら初めて次に進めるっていう授業で。
2年生の時に一回この授業を受けたんだけど、「こんなことやってたら遊ぶ時間がなくなっちゃう」って思って、単位を落としたんだよね。でも、3年生で心を入れ替えて、ちゃんとやらないといけないって決心して、頑張って取り直したんだよね。
その授業でアイディエーションの力は鍛えられたね。毎週100案出し続けたから、アイデアを出すコツみたいなものが分かってきて、アイデア出すのに全く困らなくなった。社会人になってからもずっと役に立っているスキルだから、その授業には本当に感謝してる。
──卒研のテーマはなんですか?
音を鳴らすと自動的に録音して、リズムとかメロディを作るプログラミング装置を作ったよ。低い音鳴らしたらバスドラム、高い音鳴らしたらハイハットの音が返ってくるって感じで。
今だとiPhoneとかがあるから普通になってるけど、20年前の当時では結構面白くて、音楽雑誌のプログラミングコンテストに送ったら賞をもらったよ(笑)。
──作品の資料って残ってたりしますか……?
あるかな……。データ消えちゃったから、ないと思うけど、ググってみるわ。
(探すこと数分……)
【見つかりました!】
当時の意匠展のパンフレットから拾ってきていただきました。20年前の貴重な資料です!
これがプログラミングの画面だね。復帰させたら動くんじゃないかな……。復帰させてみようかな。
──ぜひ聞いてみたいですね!
頑張るけど、期待はしないでね(笑)。
──学生時代の自分へアドバイスお願いします!
もっとちゃんと学校に行こう!(笑)。
当時は勘違い野郎だったから、学校では学ぶことなんてない、自由に遊んで優れた感性をもつ面白い人間になるんだ! って思ってたんだよね。
当たり前の話だけど、面白い自分になることと学校に行くことは相反することではないし、遊んだからって面白い人間になれるわけでもないよね。学校も遊びも全力でやるべきだったってつくづく思うね。
3年生までは半分以上の授業に出てなくて4年生から大変な思いをしたから、1年生からコツコツ通っても良かったよね。せめて半分くらいは参加するべきだったかな(笑)。
”本日は貴重なお時間いただきありがとうございました!”
前半では、坂巻先生がKORGと電通での経験を通してして感じた”デザイン”の立ち位置の貴重なお話を聞くことができました。
デザイナーにできること・求められることは何なのかというお話を聞いて、自分が社会に出た時に今まで学んできたことがどう活きていくのか少し未来のことが見えた気がします。
後半は破天荒なお話がたくさんで前半とのギャップがすごかったですね(笑)。まだまだいろんなお話を聞きたいなと思いました。いつか飲みに行きたいです!
もっと深く潜りたい方はぜひ意匠展へ
日程:2022年3月18日〜20日
場所:千葉大学墨田キャンパス
デザインコース一同、皆様にお会いできることを心待ちにしています。
(インタビュー・編集:柴崎真里)
次回は……?
千葉大学デザインコースの第3回卒業生インタビュー!
2017年卒でサービスデザイナーの鈴木祐太郎さん!趣味は映像制作なんだとか。お楽しみに!😆
意匠展サイト
【HP】http://ishouten.com
【Twitter】https://twitter.com/ishoten2022
【Instagram】https://www.instagram.com/ishoten_2022/?hl=ja【Facebook】https://www.facebook.com/ishoten2022/
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