空石積みをしてみてどうでしたか?
2017年の夏に、空石積みの修復の企業研修をお試しでやっていただいた土木のデザイン事務所、EAUの皆様に石積みの研修を振り返っていただきました。
○振り返ってみて
金子:まず、石積みが楽しかったかどうかお聞きしたいのですが、どうでしょうか。
安仁屋:全体としては楽しかったと言う感情が残っているよね。
田中:想像以上に石が重たくて結構きつかった。
金子:当初のイメージよりもきつかったですか。
田中:こんなに大きい石で大丈夫かと思った。作業した工区の石は想像の3倍くらい大きかった気がする。
金子:イメージしていたよりも肉体的に厳しかったですか?
安仁屋:きつかったけど、それは皆が単純に運動不足だからということなのかもしれない。(笑)
田邊:あと単純に真夏の昼間にやったのがきつかった。そういう意味では涼しい季節をお勧めします。(笑)
○考え方への影響
金子:普段のデザインのお仕事は設計だと思うのですが、石を積んだことで設計の仕事に影響したところはありますか?
田邊:とりあえず施工業者さんに積めないと言われたら、やりましょうと言えるようになった。僕は積めますみたいな。半ば冗談ですけど。(笑)
安仁屋:普段設計している私たちは現場を見る事はあるけれども、実際に体を動かして施工する事はほとんどないので、そういう意味では図面を描くときの考え方が変わった。理解しながら描くことができる。でもそれよりも、高開さんや真田さんの思想とか、風景の裏にあるものを感じながら2日間、一緒に時間を過ごしたことの方が設計するときの考え方に影響している。
金子:思想についてもう少し詳しく教えてもらえますか。
安仁屋:石積みを大事にしたいという思いが前より強くなった気がする。あとは、石積みを見る目が備わったので、風景の見方が変わった。あとは石を積むこと自体も面白いけど、石を積むことでそこの地域のことを深く考えることができる。そういう風に地域に直接関わるきっかけをつくるのも石積みの面白いところだと思う。農家民宿のきのこの里で食べた地元のご飯は凄くおいしかったし、星空がすごく綺麗だった。そういう体験も含めてその場所を深く知ることができたところはすごくよかった。そういう豊かさを生で感じることができたことは石積みをする意義として大きいと思う。
○都会に住む人が石を積む意味
金子:地域の人が石積みを修復する意義は分かりやすいけれど、都会の人が都会でフットサルをする代わりに田舎に行って石を積むというのはどういう意味があるのかと田邉君が前に言っていましたが、その辺りはどうでしょうか。
田邊:都会に住む人に向けて、チームワーク形成のために石積み体験を勧めるのは難しいと思っている。だけど、地域を知るための入り口として、単なる観光ではなく、石を積むということを通してとより理解するといった効果はある。しかも、それ自体が直接的に誰かの役にたっているのも面白い。石積みの体験合宿は都会の人が地域の人と関わり、深く理解するためのツールとして有効だと思う。
○チームワークとしての石積み
金子:石を積んでいてメンバーの新たな一面を見つけることはできましたか?
安仁屋:我々は小さいチームでそれなりの個性を理解しているつもりだったから、新たな発見は無かったね。けど、らしさがでていた。こいつは場面は変わってもポジションは同じだな、みたいな。意外というよりかはやっぱりねと言う感じ。だから、メンバーの結びつきや理解がより深まると言う効果はあると思う。安田くんはめっちゃ頑張るけど服が汚れないというのは意外だったね。それは性格とは関係ないけど。(笑)我々みたいに小さなチームではないところだとよりメンバーの理解が深まるかもしれない。
○企業が取り組むメリット
安仁屋:アグリツーリズムが最近流行っているじゃないですか。体験型の観光とか。そういう意味での地域を知る手段として石積みが成り立つのではないかと思う。石積み学校としてそのあたりを謳うといいんでしょうね。単純に楽しかったと言う感じは皆が持つと思うんだけど、どうなんだろうな。
田中:地域の石積みを保存するために人を集めて学校形式でやるというのは有効だと思う。
安仁屋:社員研修としては、こういう効果もありますよ、と一石二鳥のような感じで謳えるといいんだろうね。メンバー間の理解が深まることと地域の石積みを保存することができることとか。設計の仕事に生かされたかという効果は、違う職種の人にはアピールにならないかもしれないけど。
○石積みは文化系か体育会系か
金子:ぼんやりした話ですが、仕事の内容とは関係なく自分の働き方とか生活を見直すきっかけになりましたか?
田邊:運動不足とか、そういう話ではなくて?(笑)
田中:頭では分かっていたけれども体では分かっていなかった。フィットネスと言うレベルではなかった気がする。
田邊:あんなに汗だくになることは無いですからね。
安仁屋:田邉君は体を動かすことから1番程遠いところにいる感じがするんだけれどもどうだった?
田邊:中学の部活でランニングした時以来に全身汗だくになりましたね。久しぶりというか体験したことがないレベルで汗をかいた。
安仁屋:まじか。
田邊:石を積むときは長袖長ズボンを着るじゃないですか。汗が服に吸い込まれるあの感じはちょっと体験したことがない。
安仁屋:なるほど。それを経てやっぱり汗を流すのは気持ちいいな、よし、これから定期的に石を積むぞ!とは思わないわけでしょ。そこまでの変化は無いわけでしょ?
田邊:全くないです。(笑)
安仁屋:体育会系か文化系かというところまで揺さぶるような経験ではないんだな。やっぱり自分は文化系かな、みたいに再認識するという。(笑)体を動かすことは人によって好き嫌いがあるだろうから、体を動かすと言う側面ではなくて思想的な側面の変化のほうが大きいんじゃないかな。でもそれも響く人と響かない人がいるかもしれないけれど。
○体を動かすことから見る働き方
安仁屋:あとは、石積みの具体的な技術で奥が深いと感じることがたくさんあった。例えば大きい石は近くに置くとか、転がして動かすとかなるべく省力化するテクニック。石積みに使う道具の種類もたくさんあって目的毎に使い分けている。今の土木技術の効率性とは違う効率性がある。実際に手を動かすことがモノをつくるときに大事だと昔から思っていたけれどもそれが再認識された。
田邊:石積みの作業は働く時間の考え方とか、休憩の取り方が普段のオフィスワークとかなり違う。同じ効率の話をしているんですけれども、石積みをする人たちは長い時間、体に負担をかけずに作業をするためにどうしたらいいのかという使い方をしている。一方で僕らはどちらかというと働く時間から動きを考えている。朝の何時から夕方の何時まで働くという世界で生きているから、そういう価値観に縛られて働いているというのがよく分かった。その結果汗だくになるという罰ゲームが待っている。(笑)
安仁屋:罰ゲームではないけど。(笑)確かにオフィスワーカー感覚で日中に屋外で働くと、かなり暑い。
田中:蛍光灯でコントロールされた明かりの中で働いていると日が出ているときに働くのがよいのではと考えてしまうけど。
○頭も体も動かすこととは
金子:田中さんは以前にオフィスワークは機械が複雑なことをしているけれど、石積みは道具を使い分けたり石の置き方をその場で考えたり作業自体がすごく複雑だと言うことを書かれていましたが、それに関して何かありますか?
田中:石積みは手作業なんだけれどもすごく高度なことをしていると言うことなのかな。一見レベルが低いことをやっているように見えるけれども、人間が受け持つ機能が多様な感じがした。パソコン仕事は人間が高度な事をしているように見えて実際はマウスを動かしているだけ。
安仁屋;そうか。それはそうかもしれない。
安仁屋:人間の体のポテンシャルを使うという点ではパソコン仕事はかなり退化している。目と手だけで考えているから。
田中:目で見てクリックする。目で見て動かしていてやっていることは同じくらい高度なんだけれども
石積みはもっとダイレクト。
田邊:これからは視線と口だけでパソコンを操作できるようになりますよ。
安仁屋:それはスゲェなぁ。だから模型を使った仕事がなくなっていく。
田中:そういう意味でどっちが良いとか悪いとかでは無い。
安仁屋:ちょっと話がずれるけど建築家の内藤廣さんがパソコン作業は見るフィールドと手を動かすフィールドがずれているからおかしくなるとおっしゃっていた。本来は描くときに手を動かしているところと見ているところが一緒だよね。それがずれているから人間の感覚としておかしいと。だけれども口と目で操作できるとなると話が変わってくるね。でも実際五感を使いながらやる石積みと、パソコンの前だけで1人で作業するのは全然違うかな。感覚と体をリンクさせながら使っていると言うところで。
金子:パソコンって仮想の世界で作業しているので偏ってますもんね。
安仁屋:こんなインタビュー記事まで載るんだ。抽象的な話になっちゃったけど。
金子:でも読み物として面白いと思うんですよね。
安仁屋:石積んでめっちゃ楽しかったですだけではうさんくさいもんね。(笑)
金子:今日はありがとうございました。
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