【無料】膿も淋(したた)る良い男⁉︎性感染症としての尿道炎、専門医の治療選択肢

尿道炎の治療は、服薬コンプライアンスの問題からもしっかりとしたアプローチが必要な疾患です。女性においても、男性の尿道炎治療は重要です。パートナーの尿道炎から性感染症にかかり、PID(骨盤内感染症)や不妊にもつながることも。

今回は性感染症専門医が考える、(男性)尿道炎の治療について説明します。

尿道炎は淋菌性かそれ以外かに分類される

性感染症による尿道炎は、古典的には淋菌(Neisseria gonorrhoeae)性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類されます。特にクラミジアが分離される非淋菌性尿道炎は、クラミジア(Chlamydia trachomatis)性尿道炎と呼び、区別することが一般的です。

治療は原因となる微生物によって異なるため、分離・同定しましょう。

尿道炎は時間・痛み・分泌液で見分けて染色・培養・核酸検出法で確定診断

淋菌性尿道炎とクラミジア性尿道炎は、以下の基準で大まかに区別が可能です。

ただし症状の軽い淋菌性尿道炎もあり、以下の検査を用いて確定診断します。

  • 染色

  • 培養

  • 核酸検出法(TMA/SDA/PCR)

治療のポイントは初診日にまとめて治療、しかし唯一の経口が薬販売中止に

オーラルセックスの増加に伴い、咽頭部への淋菌やクラミジアの感染・滞留が問題となっているため、咽頭にも効果のある治療法を使用しましょう。淋菌感染症の20~30%はクラミジア感染症も併発しているため、両方に効果のある治療を検討することも重要です。

さらなるポイントや近年起きた事件について解説します。

STIs治療は受診日が勝負

STIs(Sexually transmitted infections:性感染症)診療の注意点は「フォローの外来に来ないケースが多い」ということです。患者さんは症状に驚いて来院しますが、薬がある程度効いてしまうと通院を中止する可能性もあります。受診日に完結するような治療を検討することが重要です。

淋菌の耐性化に注意

淋菌感染症を経口抗菌薬のみで治療することは推奨されず、確実に効果のある薬剤は、セフトリアキソン(CTRX:商品名ロセフィン)とスペクチノマイシン(SPCM:商品名トロビシン)の2種類だけです。咽頭感染症にはSPCMの単回投与では効果が低いため、CTRXの単回点滴投与が推奨されています。

唯一の経口薬と、販売中止

2009年、アジスロマイシン水和物シロップ剤(AZM:商品名ジスロマックSRドライシロップ成人用2g)が淋菌性尿道炎および淋菌性子宮頸管炎に対する経口薬として、唯一適応を取得しています。治療失敗・耐性菌の出現というリスクも高く批判もあるのですが、AZM2gはクラミジア感染症にも効果があるほか「経口・単回」投与で治療が済むことから使用されていた製剤です。そのため、2019年10月ジスロマックSRの販売中止発表は私の中では大きな出来事でした。

尿道炎の今後の治療

今後、(男性)尿道炎の治療はどのようにおこなうべきでしょうか。

  • 染色・培養・核酸検出法による確定診断が重要

  • 治療コンプライアンス・通院フォローの問題

  • 淋菌・クラミジアの複合感染

  • 多剤耐性淋菌の存在

以上を念頭に置くと、私の治療選択肢は以下の通りです。

  • 診断確定のための検査をおこなう

  • 初回受診時にCTRX1gの単回投与をおこない、淋菌に対する治療をおこなう

  • 淋菌治療と同時に、非淋菌性尿道炎の混合感染を考慮した経口抗菌薬の処方をおこなう(マクロライド系 / ニューキノロン系 / テトラサイクリン系)

  • フォローアップ受診をお約束頂く

STIsの治療では、パートナーの検査・治療も重要です。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)では、25歳以下の性的活動のある女性には毎年のスクリーニングが推奨されるほどです。無症状であっても注意しなければなりません[1]。

尿道炎治療におけるよくある質問

ここでは、尿道炎治療において患者・医療関係者からよく聞かれる質問3つを説明します。

点滴と内服の併用はOK?

私の経験では差し戻しはありません。ただし、指摘された場合には症状詳記を記載する必要があるでしょう。

抗菌剤の予防内服は効果があるの?

多剤耐性菌出現の原因になりますし、Pubmedなどで検索した限りでは、HIV患者・妊婦などを除いて、予防内服が効果を示すような報告はありませんでした。基本的なことですが、以下のことを守りましょう[2]。

  • コンドームを使用する

  • セックスパートナーを減らす(不特定多数の方と性行為をおこなわない)

  • HBV/HPVワクチンの接種と定期健診をおこなう

  • アルコール・薬物の使用下で性行為をしない

点滴と内服で必ず治るの?

淋菌は、2009年にCTRXに対する耐性株も報告されています。[3] また、耐性菌のみならず抗生物質の効かないトリコモナスやカンジダ、抗生物質に対して難治性のマイコプラズマ尿道炎の可能性もあるため、初回治療で治らない可能性も。パートナーの治療にも関わることですので、感染を疑う行為については詳細に話してもらえるよう努力しましょう。

ガイドラインを参考に、正しいSTIs治療を

今回説明した内容は尿道炎治療の一部でしかありません。日本性感染症学会編集の性感染症診断・治療ガイドラインや、最新の論文を参考にしたうえで、性感染症治療に臨んでください[4][5]。

【参照】
[1] CDC: Pelvic Inflammatory Disease (PID) – CDC Fact Sheet
https://www.cdc.gov/std/pid/stdfact-pid-detailed.htm
[2] CDC: How You Can Prevent Sexually Transmitted Diseases
https://www.cdc.gov/std/prevention/default.htm
[3] Ohnishi M, et.al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother. 2011 Jul;55(7):3538-45
[4] 日本性感染症学会:性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016 P8-9, P51-63
http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2016.pdf
[5] 日本性感染症学会:性感染症 診断・治療 ガイドライン 2020 P2-3, P53-64


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