【無料】排尿障害:三人寄ればどんな知恵?

司会「本日は、泌尿器科の先生方を3名お招きし、排尿障害に対する治療について広くご意見を伺いたいと思います。まずは各先生から自己紹介をお願いします。」

泌尿器科A先生(以下A)「私は大学病院に勤務している泌尿器科専攻医のRと申します。専門医試験を控え色々と勉強中です。」

泌尿器科B先生(以下B)「私は大学医局からの派遣で、市中病院に勤務しております。泌尿器腫瘍の臨床基礎研究に主に携わってきました。現在は一般泌尿器科臨床に従事しています。」

泌尿器科C先生(以下C)「私は大学を離れ、市中病院に就職しています。大学では、アンドロロジー関連の基礎研究を行っていました。B先生と同様、現在は一般泌尿器科臨床に従事しています。」

■排尿障害の1st choice

司会「排尿障害の治療に対して先生方のご意見を伺おうと思います。普段の診療の中で、みなさんはどのような考えで、治療方針を決めていらっしゃるでしょうか?」

A「前立腺肥大症の治療薬にα1 blockerがありますが、B先生・C先生は、1st choiceとして何を使われていますか?私は特に禁忌等がなければシロドシン(商品名:ユリーフ)を1stにして、服薬のアドヒアランスが悪ければタムスロシン(商品名:ハルナール)を処方する、という風にしています。膀胱刺激症状が強ければナフトピジル(商品名:フリバス)などを検討しますが、何か先生方のtipsやこだわりがあれば教えていただけないでしょうか。」

C「私は、1日2回の内服が必要なシロドシンではなく、内服が1日1回のタムスロシンかナフトピジルですね。たとえば前立腺縮小薬であるデュタステリド(商品名:アボルブ)は内服回数が1日1回で、過活動膀胱に対する薬の多くも1日1回となっています。治療の経過の中で、前立腺縮小薬や過活動膀胱に対する薬を併用することを考えた場合、飲み忘れがないように、内服回数は少なく内服のタイミングを同じにするようにしています。」

A「患者さんは高齢の方が多いので、1つの処方方法と言えますね。」

C「高齢者の方は、α1 blockerの内服にともなう血圧低下・立ちくらみにも注意が必要でしょう。ですので、血圧低下の副作用が他剤にくらべてやや多いシロドシンを初回から使用することは避けています。ナフトピジルを処方する際も、いきなり75㎎ではなく、まずは50㎎から処方することが多いです。」

A「添付文書にも『通常、成人にはナフトピジルとして1日1回25mgより投与を始め』と書いてありますね。」

B「男性患者さんの症状は尿線の細さや頻尿が多い印象です。そのためエコー検査で残尿が無いことや、前立腺肥大の程度は必ず測定するようにしています。PSA(前立腺特異抗原)も同様です。高齢者にはタムスロシン、勃起可能な人にはタダラフィル(商品名:シアリス)を出しています。α1 blockerの選択は、研修医時代に教わった方法を踏襲しています。ナフトピジルは私も頻尿にも効くからと言って処方しています。」

C「ナフトピジルの夜間頻尿への効果は、患者さんへの説明の際に『刺さる』印象です(笑)。」

A「タダラフィルを1stで出すことも結構あるのですね。」

C「勃起機能の有無にかかわらず処方しますが、初回から処方する事はないですね。一時期週刊誌記事によって、勃起不全治療薬のシアリスと成分が同じという情報が先行し、タダラフィルを名指しで希望して来る方が多く閉口しました。」

■タダラフィル・ミニリンメルトの処方について

A「タダラフィルを処方する場合、最初のスクリーニングや継続的なフォローとして、心電図は検査されておりますか?」

B「タダラフィル処方に関しては、問診で冠動脈疾患がなければ処方しています。定期的な心機能の評価はしていません。」

C「前立腺体積の測定は必須ですが、心機能の評価に関しては必須ではありませんね。」

B「最初の処方で改善が乏しければ、β3作動薬を追加しています。前立腺が大きければデュタステリド。夜間頻尿が強ければ排尿日誌を確認し、デスモプレシン(商品名:;ミニリンメルト)を試したこともあります。それでも頻尿ならボツリヌスを提案しています。」

C「ミニリンメルトは体液貯留に伴う低Na血症が怖くて高齢者にはあまり使わないのですが、どうでしょうか?」

A「ミニリンメルトは80代の患者さんに使ったことがあるのですが、1週間後の採血で低Na血症になっていて、ヒヤッとしたことがあります。幸い症状はなく、内服中止で正常値に戻り安心しました。」

C「デュタステリドを使用する際見かけ上のPSA値が低下するため、前立腺がんの診断に支障が出る懸念がありますが、先生方はどうされていますか?私は80代かつPSA1桁などの例では、前立腺がんの精査をする事なく使ってしまっています。前立腺がんが存在するとしてもラテント癌(死亡後の解剖で初めて見つかるがん)、もしくはT2以下の早期癌だと思うのですがいかがでしょうか。」

A「デュタステリドは初診時にPSAを測定し、癌の否定をおこなっています。80代後半などの高齢者であれば、PSA10台でも使っていますね。また、塩酸クロルマジノン(商品名:;プロスタール)を使用することもあります。」

■尿流量検査のタイミング

B「検査に話を戻しますが、皆さんウロフロ(尿流量検査)はどのような場面で行っていますか?私はルーチンでは行っていません。」

C「ウロフロの機械はありますが、尿を受けるタイプですので行っておりません。大学の時は簡単なトイレ型だったので、よくオーダーしていました。ちなみにわたしのQmax(最大尿流率)は60ml/secです。」

A「ウロフロは、前立腺肥大症の方には大体お願いしていると思います。排尿困難感がある方や、Qmaxが低い人などはその後定期検査としております。Qmax60(注:正常値15ml/sec)、いいですね(笑)。」

C「尿を容器に受けるタイプは容器洗浄の手間が大変なため、看護師さんからの評判が非常に悪いです。人によっては排尿時に排便してしまう人もいるので、その場合はさらに手間が増えてしまします。今の職場ではやらないですね。」

A「排便されるのは困りますね(笑)。」

B「ウロフロの結果が治療選択に大きな影響は与えないと考えると、看護師さんの手間があるとオーダーしにくいですね。数値的な客観性より患者さんの主観が大事な面もあると思います。ウロダイナミクスとなるともっと手が出ませんが、TURP(経尿道的前立腺切除術)の前には、排尿障害の主体が膀胱か前立腺かの評価にしたい、と実は思っています。」

司会
「まとめますと、
・排尿障害の1st choiceはα1 blocker
・患者背景に応じて、タダラフィル・デュタステリドを初診時から処方することもある
・尿流量検査は有用だが、検査の手間が問題
という事でしょうか。」

司会「以上で『排尿障害:三人寄ればどんな知恵?』を閉めさせていただきます。本日はありがとうございました。」


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