今話題のエンハーツの注意すべき有害事象 -薬剤性肺障害-

今話題のエンハーツの注意すべき有害事象 -薬剤性肺障害-

エンハーツ(一般名:トラスツズマブデルクステカン)は、抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:ADC)という新しい作用機序の治療薬です。現在、乳癌・胃癌の治療に適応を取得しており、今後は他癌腫への適応拡大が期待されています。高い治療効果が報告されていますが、薬剤性肺障害の頻度が高いことが特徴です。

本記事では、エンハーツを使用する際に注意を要する薬剤性肺障害について解説します。

ASCO2022でも拍手喝采!エンハーツ

抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:ADC)という薬剤をご存じでしょうか。ADCは、癌細胞へ特異的に結合する抗体製剤と、殺細胞性活性を有する薬剤が結合した構造をもつ治療薬です。

殺細胞性活性を有する部分はペイロード、結合部位はリンカーと呼ばれます。癌細胞内へ薬剤が入り込んだ後にリンカーが切れることで薬剤が効果的に放出され、高い抗腫瘍効果を発揮します。造血器腫瘍・乳癌・消化器癌・肺癌などで開発が進んでいる期待の新治療です。

エンハーツは抗体として抗HER2抗体のトラスツズマブ、ペイロードとしてトポイソメラーゼⅠ阻害薬のデルクステカンをリンカーで結合した構造の薬剤です。2022年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でHER2低発現乳癌を対象としたエンハーツの効果が報告されました[1]。エンハーツ投与群での無増悪生存期間は、標準治療群と比較して約2倍の延長が得られたという驚愕の結果で、発表会場では拍手が巻き起こりました。

薬物療法のピットフォール -薬剤性肺障害の診断から治療まで-

優れた治療効果に期待が高まるエンハーツですが、薬剤性肺障害の発現頻度が多いことが特徴とされています。薬剤性肺障害はどのような薬剤でも起こる可能性があり、治療の中断や予後への影響が大きい有害事象です。

新規の呼吸症状や胸部異常影を認めた場合に鑑別となりますが、その診断は容易ではありません。薬剤性肺障害は除外診断、つまりその他の可能性を除外してはじめて診断に至る病態です。特に悪性腫瘍に対して薬物療法をおこなっている場合、以下の病態を鑑別する必要があります。

  • 肺野の感染症(COVID-19を含む)

  • 肺水腫

  • 放射線性肺臓炎(放射線による照射歴がある場合)

  • ニューモシスチスカリニ肺炎

  • 原発巣や肺転移の増大や癌性リンパ管症

  • 既存の間質性肺疾患の急性増悪(既往がある場合)

薬剤性肺障害の発現リスクが上昇する臨床的な因子としては、高齢・重喫煙歴・パフォーマンスステータスが低いことなどがあげられます[2]。背景肺に間質性肺疾患を有している症例では薬剤性肺障害の発現リスクがかなり高くなることが報告されており、特に注意が必要です[3]。また、薬剤性肺障害の発現頻度には人種差があり、日本人では発現頻度が高いことも報告されています。

薬剤性肺障害の重症度は「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」での重症度分類またはCTCAEグレードに準じて評価します[5]。対応・治療も表の通り推奨されています。

診断時の重症度・グレードにかかわらず、びまん性肺障害(DAD)パターンを呈する場合は致死率が高く治療反応性も乏しいことが予想され、重症に準じた対応を検討します。

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