肺癌術後もICI ―術後補助化学療法のアテゾリズマブ(IMpower010試験)―

肺癌の薬物療法は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場により、大きく進歩しました。近年でも続々と有効性が報告されているICIですが、その活躍の舞台は周術期にまで広がってきています。2022年5月にはアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)の術後補助化学療法としての使用が保険承認されました。

本記事ではその承認根拠となったIMpower010試験の結果と、術後補助化学療法におけるアテゾリズマブ使用の注意点について解説します。

エビデンスの少ないNSCLCの周術期治療

周術期における薬物療法は、主に再発率の低下を目的としておこなわれます。非小細胞肺癌(NSCLC)では周術期薬物療法の選択肢が少なく、新しいエビデンスもなかなか台頭してきませんでした。

術前補助化学療法は、放射線治療との併用で一部の病期を対象におこなわれるのみです。術後補助化学療法は、テガフール・ウラシルとCDDP/VNRの投与がガイドラインで推奨されています。ただし、その根拠となった試験はそれぞれ1990〜2000年代初頭に報告されたもので、今では比較的古いエビデンスです[1][2]。

この状況に一石を投じるべく、JIPANG試験という第Ⅲ相試験がおこなわれました[3]。JIPANG試験は、進行期非扁平NSCLCの標準治療であるCDDP/PEMを術後補助化学療法として用い、CDDP/VNRと比較する試験です。しかし、この試験ではCDDP/PEM療法の優越性は証明されず、新しいエビデンスの登場は叶いませんでした。

IMpower010試験結果の概要

進行期NSCLCの薬物療法は殺細胞性抗癌剤から分子標的薬、そして免疫チェックポイント阻害薬(ICI)へと開発が進んできました。周術期においてもICIへの期待が高まり、複数の臨床試験がおこなわれています。そのなかで、IMpower010試験において術後補助化学療法のアテゾリズマブの有効性が示され、周術期ICIの先駆けとなりました[4]。

本試験の概要は以下の通りです。

  • 対象:PD-L1発現率1%以上のIB期-IIIA期NSCLC

  • デザイン:多施設共同前向きランダム化比較試験、第Ⅲ相、非盲検

  • 結果:Ⅱ-Ⅲ期での無病生存期間(DFS;disease free survival)のハザード比 0.66(95%信頼区間 0.50-0.88、p=0.0039)、24ヶ月時点での無再発率 74.6% vs 61.0%

  • 主な有害事象:皮膚障害、甲状腺機能異常、肝機能上昇、発熱、関節痛など

本試験の結果を受けて、術後補助化学療法としてのアテゾリズマブが2022年5月に保険承認されました。

術後補助化学療法のアテゾリズマブ使用上の留意点

実地臨床での使用に際して留意するべき点は以下の4つです。

  • ①PD-L1発現を確認するためのコンパニオン診断薬がベンタナ OptiView PD-L1 (SP263)に規定されていること

  • ②術後のプラチナ併用化学療法を施行した後に投与をおこなうこと

  • ③免疫関連有害事象(ir-AE)の発現に注意すること

  • ④ドライバー遺伝子陽性例への適応

PD-L1評価のコンパニオン診断薬は複数ありますが、本治療をおこなうためにはSP263抗体を用いて陽性を確認することが必要です。ただし、2022年6月に最適使用推進ガイドラインが改訂され、22C3抗体による評価も用いることができる旨が追加されました。

本治療は、プラチナ製剤による術後補助化学療法をおこなった後にアテゾリズマブを投与するスケジュールです。アテゾリズマブ1200mgを3週間隔で投与し、投与期間は1年間と規定されています。

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