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[読書ログ]「くんちゃんのだいりょこう」ドロシーマリノ

「くんちゃんのだいりょこう」
作:ドロシーマリノ
訳:石井桃子

※ネタバレあり

冬ごもりの季節を前に南へ向かう渡り鳥を見て、こぐまのくんちゃんは、自分も南の国へ行ってみたくなり、鳥を追いかける。
帰り道の印である丘のてっぺんに行くと、お母さんにさようならのキスをしてこなかったことを思い出す。キスをして丘に上ると「双眼鏡がいるな」と思いつき、家に取りに戻ってお母さんにキスをして丘に上る。双眼鏡を使うと湖が見えたのでつりざおを持ってくる。つりざおをつかっていると喉が渇いたので水筒を持ってくる。行ったり来たりを繰り返していると疲れてしまって家に帰ってすべて物をもとに戻して眠ってしまうというおはなし。

知り合いのママさんが激推しだった本作。
くんちゃんのかわいらしさの描写は少し大人向けのような気もするが、行っては帰るの繰り返しとなかなか目的を達成できないおかしさが、面白さになるのだろう。

この繰り返し技法、結構大事な要素だなと感じる。
この繰り返しって、たとえば母親が家族でどこかに出かけるときに、あ!あれわすれた!これわすれた!と家に戻ってなかなか出発できない感じに似ているなと思ったが、絵本や童話で母親が主人公になるおはなしはみたことがないが、それもまた理由がありそうだ。

絵本を買う大人側からもくんちゃんはかわいく魅力的だ。”子供らしさ”があり、お母さんにさよならのキスを忘れてしまってキスをしに戻ってきたりするような表現が愛おしさを感じさせる。大人への魅せ方と子どもへの魅せ方のバランスが完璧だからこそ、長く愛される物語なのだと感じた。

また、くんちゃんの行動表現として、小さく見えなくなった小鳥を追いかけずに、双眼鏡で眺めたり、追いかけきれないことを嘆いたりしない、そういった描写を入れないのはいいなと思った。

大人は世界の広さを知っているから、泳いでいけないことを分かっているし、ボートや別の方法で行けることもわかっているけれど、それを描かない。見える範囲でやれることをやろうとする姿を見守るかたちで書くことで、こどももそれを楽しいと感じさせるのはさすが。

それにしても、海外絵本の翻訳はほとんど石井桃子さんだと気づく。こういう気づきも大事にしていきたい。

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