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[読書ログ]「ローベルのおじさんのどうぶつものがたり」

作: アーノルド・ローベル
訳: 三木 卓
出版社: 文化出版局

あらすじ

20のおはなしがそれぞれ色々な動物達を主人公にして語られています。それぞれの動物の特性を生かした、ちょっと偏屈、ユニークなキャラクターが沢山出てきます。最後のローベルおじさんの一言が、またピリッと効いています。読み応えのある絵本です。子供達には一日一話ずつどうぞ・・・。(絵本ナビより)

感想

見開き2ページに1つのおはなしと1つの絵。
端的でさっくりと読めてかわいくて分かりやすい。
訳は三木卓さん。ローベルとのタックは相性がいいというか、好きだなあと毎回思う。
おちゃめでちょっと抜けてるキャラクターの雰囲気の訳がすごく素敵。

物語の最後に一行、ローベルおじさんからのコメントが書いてある。

これが、現代版のイソップ物語のように、現代的でシニカルな印象を持たれるようで、この一文の解読のために、対象年齢が高学年向けでは?という声も見つけた。
この絵本の論点は、この構造と一文にあると思う。

個人的には邪魔には感じなかった。
ローベルおじさんはこう言っているけれど、そういう読み方もあるよなあという切り口の問題で受け止められた。


たとえば分かりやすいのは、「クマとカラス」というお話。

クマは持っている一番いい上着とチョッキと山高帽をかぶって、
「町のれんちゅうはおどろくだろうぜ。なにしろ、おいら流行のせんたんをいってるんだから」と言う。

そこにカラスがやってきて、自分は町をみてきたけど、流行はもっとちがっていて、フライパンをかぶって、ベッドのシーツをまきつけ、紙袋に足をつっこんでいるという。
クマはそれを実践して町に出て笑いものにされてしまう。

そうしてローベルおじさんからの最後の一文として、
「欲望が強いときは、だまされやすいものです」
と書かれている。

わたしは、流行という人の評価や時代の好みによって作り出されるものに憧れるクマは自分というものをしっかりと持っていなかったから、こんなへんてこりんな格好を鵜呑みにしてしまったのだと読み取った。

だまされる、ではなく、自分以外のものにすがりたい欲求について書かれているな、と感じた。

20もの話を原稿用紙2~3枚の文量で書けるのは、本当にすごい。過不足なく書けるのは状況説明は絵でしてしまう部分があるというのも大きそうだ。

また、偉そうなのはライオンで、アヒルをだますのはキツネで、めんどりを食べようとするのはオオカミで、ラクダはバレリーナという動物へのイメージも西洋と東洋でそんなに違いがないように思うのもおもしろい。


個人的には、「メンドリとリンゴの木」「アヒルとキツネ」が話の流れ、言い回しが好きだった。

10月のある日、1わのメンドリがまどから外をのぞいていました。メンドリはうら庭にはえている1本のリンゴの木を見ているのでした。
「さあておかしなこと」とメンドリはいいました。「昨日まであそこには木なんてはえてなかったわ。ぜったいよ」
「われわれのなかには、すぐにそだつものもあります」と木はいいました。
メンドリは木のねもとを見ました。
「こんな木はじめてよ」とメンドリはいいました。「毛のはえた10本のゆびがある木があるなんて」
「われわれのなかには、そういうのもあります」と木はいいました。

本文「メンドリとリンゴの木」より引用


「われわれのなかには、そういうのもあります」がこのあと何度か続く。
この言い方がくせになる。

ほかにも「年よりのかわいそうな犬」の言葉の使い方もよかった。

まずしい野良犬が金の指輪を拾って、持ち主にとどけると、御礼にお金でふくれた財布をもらう。

犬はあたたかな毛皮の上衣を買いました。そこのあつい、いいくつを買いました。
たくさんのお金がのこりました。犬はそれを、すみごこちのいい小さな家を買う、ローンの頭金にしました。すぐにその家にうつり、もう二度と公園でねるようなことはありませんでした。
――――――――――――――――――――
のぞみがかないかかっているときには、あわててはだめです。

本文「年よりのかわいそうな犬」より引用


ローンの頭金ってのがまた可笑しい。
犬がお金ができると、毛皮の上衣を買っちゃうところや、人間の使う道具を買いそろえるところもユーモアだ。

身に余るお金を持ってしまうと、犬らしい(自分らしい)身の丈にあった生活をしない、というところは、もしかするとシニカルなのかもしれない。

でも、やっぱり家のローンの頭金にしてしまうのは最高だった。

このへんのおかしさは子どもでも十分楽しめると思う。


本の形式的にも、できれば、一日一作、お母さんから読み聞かせてもらい、会話しながら読むのがいいと感じた。

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