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[読書ログ]「逆ソクラテス」

感想

伊坂幸太郎の5つの短編集。
以前から、小学生を主人公にした短編集として噂になっていたので、ハードカバーを購入。
元々、伊坂は『オーデュボンの祈り』が出たときからのファンなので、もうデビューからずっと好きで、ほとんどの著書を読んでいる。

伊坂らしいユーモア、言葉の使い方、構成、気持ちいい読後感というのは顕在で、読み終わった後、ああ……うまいなあ……としみじみ思ってしまうような手練れの作品集だ。
 
しかも、表紙絵のjunaidaさんの絵が最高にかわいい。これだけで電子ではなく、紙で買っておきたくなる。

内容が素晴らしいことは言うまでもなく、ブラボーと拍手をしたくなる内容ばかりだが、小学生を主人公にする難しさも同時に感じられた。
伊坂文学の特徴的な語り口や語彙・単語の使い方、言い回しなどは、児童文学とは相性が悪いように思う。

つまり、本書は、主人公は小学生であっても、内容は現代文学という感じがあり、児童文学としての作品集ではなく、あくまで”伊坂幸太郎”としての短編集、という位置づけが妥当な感じがした。

そう思ってみれば、なるほど、伊坂幸太郎の世界観を保ちつつ、目線とメッセージ性を小学生というフィルターを通して描いている。絶妙なバランス感のなかで、包括原理のような、なにか母性的な作者側のまなざしを感じるような気さえする。
この、いつもとは違う、”挑戦(チャレンジ)”は、とてもよかった。
本書の言葉を引用するなら、「ギャンブルじゃなくて、チャレンジ」。このスタンスが本書をまっすぐに貫いているように思う。
     
それぞれの短編のオチは、軽やかなで爽快さがあり、これが本書の特徴であるというなら、本書の特徴をいちばんよく表しているのは、「アンスポーツマンライク」だろう。
 
「アンスポーツマンライク」のラスト三行は、きっと事あるごとに思い出すと思う。この三行に翼をつけ、空に押し出すためのエンジンになっているのはそれまでの物語に他ならないが、そういう物語に出会えるというのは、読者としても幸福なことなのだ。
 

つまり、要約すると、最高におもしろかった、ということである。

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