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[読書ログ]「ブルーラインから、はるか」

読んだ本はできるだけnoteで感想を残しておきたいので、さっそく。

「ブルーラインから、はるか」
作:林 けんじろう   絵:坂内 拓 


わたしは、数年前から週末にロードバイクに乗っている。ポタリングといって、目的も決めずにのんびりと走るのが趣味だ。

お気に入りのロードバイクは、乗ったらきれいに拭いて、家の中のサイクルラックにかけている。なかなかいいお値段なので、盗難防止というのもあるし、単純にフォルムやフレームが格好良くて、ときどき眺めていたくなるから、という理由もある。

わたしのような週末ライダー(月1ライダー?)でも知っている有名なサイクルロードがある。それがしまなみ海道だ。本州四国連絡道路のうち、尾道から今治を結ぶルートのことで、片道70kmほどある。しまなみ海道は、ロードバイク乗りならだれでも知っている、一度は走ってみたいサイクルロードであり、この作品の舞台でもある。
  
『ブルーラインから、はるか』は、小6の庫汰郎(コタ)と、小4の風馬がふたりだけでしまなみ海道をチャリで走る物語だ。コタはママチャリで、風馬はクロスバイク(ロードバイクとは形状などに違いがある。)で走る。
  
「ブルーライン」とは、サイクリングルートを示すもので、道路の端にひかれた青い線のことだ。しまなみ海道がブルーラインの発祥とも言われているらしい。


作品は、まさにひと夏の冒険というワクワク感と清々しさに満ちていて、読後感もとてもよかった。

前半は文章や表現の巧みさのためか、第三者視点の書き方のほうがしっくりくるかも?などと思っていたが、物語が進むにつれ、コタ視点の世界にのめりこんでいくように読めた。
特に後半のコタ視点での語りや、ふたりのやりとりにグッときてしまい、「いい…!とてもいい……!」と心の中で何度か叫んだ。
コタと風馬のような関係性の作品はなかなかないと思う。この設定の、この関係性だからこそ、築いて積み上げていくような手探りのやりとりにグッとくるのだ。

また、コタと親の関係、風馬と親の関係性の描き方と結末も良かった。親との関係性の問題の処理の仕方が個人的にとても納得感があり、リアルな少年の姿を感じられた。

それから、もうひとつ。
帰る(もどる)場所があるから、冒険できるのだということを、読んでいてぼんやりと思った。
これは帰る場所を美化する意味ではなく、たとえ、帰る(もどる)場所が必ずしも好きな場所ではなかったとしても、帰る場所があるから、行きてかえりし物語がうまれるという意味だ。
そうやって行ったり帰ったりをくりかえして、なにかを得て(あるいはなにかを失い)成長していく。
そして、この年齢のときに、行きてかえりしの経験をすることの、いかに重要なことか。

コタと風馬がそれを実感するのは、もう少し先のことだろうが、ふたりにとって、今はそんなことは関係ない。今この瞬間、ふたりで、しまなみ海道を一生懸命に走ること自体に、大きな意味があるのだ。
 

さわやかな青春ロードノベル。
ページを開くと、真っ青な空、熱い日差し、磯の匂いを感じる。まさに夏の定番児童書になりそうな、そんな作品だった。
   

ところで林先生。
次、尾道から出雲まで旅する物語って、いつ読めるんですかね?
いまから待ち遠しいです。 
    

   
  
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lahainanoon さま
ヘッダーで写真をお借りしました。ありがとうございました。


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