[読書ログ]「もりのかくれんぼう」
作: 末吉 暁子
絵: 林 明子
出版社: 偕成社
あらすじ
感想 ※ネタバレあり注意
うまい。うますぎる。本を閉じた後、思わず唸る。
絵は林明子さん。やっぱりこの手のお話にぴったりな素敵な絵だ。
物語は、末吉暁子さん。「ざわざわ森のがんこちゃん」はよく読んでいたし、アニメも見ていて好きだった。
公園で遊んだ帰り道、けいこはかくれんぼがしたかったのにできずに拗ねている。お兄ちゃんの後を走って追いかけているうちに、知らない森に迷い込んでしまう。
枝や木の葉と同じ色をした男の子に出会い、森の動物たちも含めて、かくれんぼをする。
この男の子を生みだしたこと、そして出会い方が見事。
かくれんぼうという名の男の子は、かくれんぼに適した、森の保護色になっている、人間のかたちをした、人間ではない男の子。
ふつう、ここは動物たちだけで展開させてしまいそうになるが、男の子の存在で、森自体がファンタジーの世界であり、そこに入り込んだのだと気づかされる。
さらに見事なのは、ファンタジーのなかの世界観の設定。
かくれんぼのおにを決めるときにじゃんけんをするが、同じ人間の世界ではないから、ふつうのじゃんけんではない。
その後、絵の中で森のどうぶつたちが隠れているのをけいこが見つけていく。
読者参加型で、絵を見ながら、どこに動物がかくれているか探すのも楽しい。
けいこがかくれんぼうという男の子と一緒にしばらくかくれていると、声がする。そっと顔をあげると、団地にいて、お兄ちゃんが目の前にいる。
ファンタジーから現実に戻ってくる描写。
だけど、手にはしっかりと木の枝を持っている。ファンタジーの世界で拾った枝という断定はないが。
だが、ファンタジーの世界の片鱗を、実は本当にあった世界なのではないか、という不可思議さを演出する道具として、よく機能している。
団地ができる前は森だったという設定も、余韻を感じさせるに十分だし、なぜ団地だったのか、という理由付けにもいい。
読んだ後、家の周囲をあちこち歩き回ってみたくなる、そんな話だった。
団地じゃなくていいから、あちこち歩きまわってみよう。歩き回っていたら、きっとどこかの曲がり角で、生垣の下をくぐって、またあの森にたどり着けるかもしれない。
そんな気持ちにさせる余韻のあるエンディング。
不思議な話だったね、で終わらない。
好奇心を刺激するような雰囲気があって、それがとても良かった。
スタンダードな、「行って帰ってくる」構成でありつつも、要所要所で斬新なアイデアが光る。
このアイデアの質の高さが、テクニックなのだろうと思うが、このテクニックがあるから、陳腐にならない。
丁寧な描き方と展開で、ちょっと文章が多めに思ったが、物語として、絵本として、すばらしい作品。とても、よかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?