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[読書ログ]「せんたくかごのないしょのはなし」

著: こがしわ かおり
出版社: あかね書房

あらすじ

せんたくのお手伝いをしていたサボン。
くつ下を探して、せんたくかごをのぞいていたら、つむじ風が吹いて飛ばされてしまった。
気がつくと、せんたくかごをかぶっていたサボン。
かごのあみ目からいつのまにか抜け出して見えてきたのは、楽しそうにはたらく小さな者たち…。
せんたくかごが大好きな子が、不思議な世界を訪れる絵童話。
見えない優しさに気づくきっかけになるお話です。

絵本ナビHP「出版社からの内容紹介」より引用


感想 ※ネタバレあり注意

最新の絵本というものに興味があり、手に取った絵本。
初版発行は2022年7月30日。
図書館にも新刊として入っていたので、読んでみた。

感想を書いていいか悩んだが、自分に正直になって書いておくことにする。
個人的には今の自分には、あまりピンとこなかった、というのが第一印象。


これは、いわゆるファンタジーの世界へ行って帰ってくる作品。

天気のいい日に洗濯をしていると、突然風が吹いて、ママは飛ばされていってしまう。
サボンはせんたくかごのふちをにぎっていると、いつの間にか風がやむ。
気が付くと、サボンはせんたくかごをかぶっていて、せんたくかごの内側から外をじーっと見ていると、せんたくかごの網目がだんだん大きくなり、別の世界に入っていく。

ファンタジーの入り口に入るために、まず大人を場面から退場する必要があって、風を吹かせたのだろうと思うのだが、ママが飛ばされていなくなってしまうというのは、話としては面白いけれど、あまりにもファンタジックすぎる気がした。
ファンタジーの世界との境界線があいまいになってしまっていて、不思議な世界に迷い込んだインパクトが足りない気がする。

わたしも小さい頃はせんたくかごを被って遊んでいた子どもだったが、自発的にせんたくかごを被って遊んでいた。
大きなかごというものは、何でも帽子みたいにかぶってみたくなるもので、被ることでそれの大きさを認識したり、面白さを発見するように思う。

せんたくかごの内側から向こう側を見る、という着眼点はとっても素敵だ。だが、はたして冒頭での大人の登場は必要あっただろうかと思ってしまった。

たとえば、ママが背中越しに目を離しているすきに、空になったせんたくかごを被ってみると異世界だった、のほうが、自然だと思ったのだが、どういう理由があってこの冒頭にしたのか、気になる。

後半で、洗濯を手伝いながら、そういえばママはどうしただろうか、と思い出す。だが、ママを救い出したり、助けることもなく、せんたくの世界の住人たちに「つむじ風さんに任せておけば大丈夫」、と言われる。

このファンタジーの世界の住人たちとの信頼関係がないままに、信じ切るサボンを描くことに、若干リアリティの不足を感じる。
(自分が疑う目を持つ大人になってしまったからかもしれないが)

ファンタジーの世界のなかで、ママの状況に触れる必要性はあっただろうか。最初にママの心配をするものではないだろうか。
ママは大丈夫かな、ではなく、家に帰れるかな、ママに会えるかな、という不安ではないだろうか。
あるいは、帰ってきたときに、ママに会えてほっとする、という緩急でもよかった気がする。

また、サボンという主人公の名前にも違和感がある。
最初、主人公は妖精か何かかと思っていた。だが、読み進めていく中で、人間だということが分かる。
サボンというネーミングは、洗濯から連想する単語なのだろうが、まさにせんたくの世界に入るために生まれてきたような運命的な名前なので、”偶然”このファンタジーの世界に迷い込んでしまったような感覚をわたしは感じなかった。

もちろん、良い点もたくさんある。
この作品の良い点は、せんたくかごを被ると異世界だった、というファンタジーの世界の入り口のアイデア。
これは思いつきそうで思いつかない。

あとは、ファンタジーの世界の描写力。別世界の描き方が、作者が楽しんでいるような雰囲気がこちらに伝わってくる。

そこはひろーいへやでした!
たかい てんじょう、 つかいこまれた きの ゆか。
やねまである、おおきな まどからは、
さんさんと おひさまの ひかりが さしこみ、
へやじゅう もうもうと ゆげが たちこめています。

本文より引用


短い文章で、わかりやすく、絵も可愛らしく優しげで良い。
ファンタジーの世界で洗濯にトライしてみる、という点も読み手をわくわくさせる。
全体的にふわふわあったかい色彩と、描き方なので、晴れた日のあったかい洗濯ものの雰囲気にぴったりで、読後感もいい。


正直に書いてしまったが、自分の読み解き方の足りなさを感じる。
数年後に読みなおして、またあたらしい発見をしてみたい。
今後、他の方のレビューも読んで理解を深めていきたい作品。


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