坪内隆彦「地位協定改定なくして主権回復なし」(『維新と興亜』第5号、令和3年2月)
在日米軍による低空飛行が繰り返されている。昨年十二月二十八、二十九日と今年一月六日に、沖縄県諸島の座喜味村や渡嘉敷村周辺で、米軍機による低空飛行が相次いで目撃された。二月に入ってからも、沖縄県国頭村の辺戸岬周辺で米軍機による低空飛行が確認されているのだ。
沖縄県議会は二月十六日の本会議で「米軍機による低空飛行の即時中止」などを求める意見書・抗議決議を全会一致で可決した。ところが、菅政権はアメリカに抗議するどころか、事実上米軍の低空飛行にお墨付きを与えるような発言をしている。菅総理は二月十七日、米軍機の低空飛行訓練に関し「米軍の飛行訓練は日米安保条約の目的達成のため重要だ」との認識を示したのだ。
この問題について、沖縄の新聞は詳しく報道しているが、一般紙の扱いは小さい。また、保守派からはほとんど声が上がってこない。
もちろん、中国の軍事的プレゼンス拡大に対して、当面わが国は日米安保条約を十分に機能させることによって対処するしかない。そのための米軍の飛行訓練が重要であることは認める。しかし、国家が主権侵害を黙認していいはずはない。
日本の航空法は「最低高度基準」(人口密集地で三百メートル、非人口密集地で百五十メートル)を規定している。しかし、日米地位協定に基づく特例法で、米軍には航空法は適用されていないのだ。日米両政府は、一九九九年の日米合同委員会で、国際民間航空機関(ICAO)や航空法に規定された最低高度基準を米軍の訓練にも適用することに合意している。しかし、その合意も踏みにじられているということだ。ドイツ、イタリア、ベルギー、イギリスなどは、米軍機の飛行に国内法を適用している。わが国も地位協定を改定して、米軍に国内法を適用すべきだ。
一方、沖縄では米兵による凶悪犯罪が何度も繰り返されてきたが、一月末には在沖米海兵隊員が強制わいせつ容疑で逮捕されている。米兵の犯罪が後を絶たないのは、米兵に日本の裁判権が及ばないからだ。治外法権が認められているということだ。
わが国は、幕末の安政期に欧米と不平等条約を結ばざるを得なかった。そのため、わが国は明治維新後、陸奥宗光や小村寿太郎らの努力によって、ようやく治外法権と撤廃と関税自主権の回復を勝ち取ったのである。しかし、大東亜戦争で敗れたわが国は、再び安政期に逆戻りしてしまった。
一九五二年四月に発効した日米行政協定では、「公務中」「公務外」を問わず、米兵や軍属らによる日本国内の犯罪全てについて、アメリカ側に裁判権が与えられていた。この行政協定について、若き日の中曽根康弘氏は「これは安政和親条約以下であります。このような不平等条約をわれわれが黙認して承認するとすれば、われわれは再び明治年代の条約改正運動の方に進まなければならぬのであります」(一九五二年二月二十六日の衆議院予算委員会)と述べていた。
日本の主権が踏みにじられてきた背景には、敗戦国日本に対する懲罰的な意味とアジア人に対する白人の侮りがあったのではないか。行政協定における裁判権の規定をめぐり、アメリカの統合参謀本部は、日本人は「征服された東洋人」であると主張し、裁判管轄権を日本に渡すことを頑なに拒んだ。
わが国は、アメリカへの依存から脱した自主防衛体制の確立を急ぐべきである。ただし、当面は日米安保に頼らざるを得ない。そのためには、アメリカへの配慮も必要かもしれない。しかし、国家主権に関わる問題で一歩も譲ってはならない。わが国が国家主権を疎かにする国とみなされることは、我が国の安全保障を脅かすことにもなるからだ。
菅政権は、地位協定の抜本改定をバイデン政権に求める時ではないのか。
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