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この恐怖はどこから来るのか、映画『エヴォリューション』をアートとして見たら怖くなった

UPLINK Cloudの60本以上見放題の18本目になります。

毎日せっせと配信映画を見ている内に世の中の状況はどんどん変わってきまして、オンライン公開の映画なども出てきました。中でも配給会社東風が立ち上げた仮設の映画館が大注目です。

小さな配給会社もかなり大変だと思いますので、存続のために少しでも力になれたらと思います。

さて、とりあえずはUPLINKということで、今回は『エヴォリューション』です。

女性と少年しかいない島を舞台に、そこで起きる奇妙な出来事を描くというSFなのか、ミステリーなのか、ファンタジーなのかという映画。ラインナップの中では異色で、なかなか怖い作品です。

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いるべきものがいない怖さ

女性と少年しかいない島に母と暮らす10歳の少年ニコラは、海に泳ぎに行き少年の死体を発見するが、母に見間違いだと指摘される。その島の少年はみな毎日薬を飲まされ、ときには町外れの病院で医療行為を受ける。その島の様子に違和感を覚えたニコラが夜中に家を抜け出した母の後を追って海へゆくと、そこで奇妙な光景を目にする。

何から何までが奇妙なこの島。いるのは成人女性と少年だけ。大人の男性もいなければ少女もいません。その少年たちは毎日なにかの薬を飲まされ、一定の年令になると町外れの病院でお腹に医療処置を受けます。

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これがいったい何なのかというのがこの映画のミステリー部分ですが、結論から言ってしまうとはっきり何だという答えは出ません。

でも、最後まで見ればある程度推測できて、全体的には「こうなんじゃないかなー」と思えます。ただ、細かい部分、一つ一つの行為の意味についてはよくわからないまま終わります。

映像の美しさと、そこしれぬ恐怖と、謎解きのスリルで引き込まれはするので、これで映画としてはいいんだろうし、まあとりあえず見てくださいという気持ちになります。

恐怖の源泉を辿らせる芸術の力

そんな感想ですが、ここから私たちは何を感じ取ればいいのかという疑問は残ります。

ひとつ思ったのは芸術として鑑賞するアート作品ではないかということ。最初にニコラの母親が登場する後ろ姿のシーンからして、絵画のような構成美があり、他のシーンでも映像として鑑賞するだけでも面白かったり見とれてしまうようなものがあります。

病院のシーンにも、水中のシーンにもそのようなシーンがたくさんあります。そのような芸術が喚起するものは何かというとまず感情です。芸術が芸術足り得るのはそれが見るものの心に何らかの感情を呼び起こすから。喜びであれ、怒りであれ、嫌悪感であれ、笑いであれ。

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その意味で、この映画は見るものに「恐怖」の感情を呼び起こす芸術であると私は思いました。そして、その先にあるのは、映画に呼応して恐怖を呼び起こす自分の内なる要素は何なのかという疑問です。

なぜこの映画を見て恐怖を覚えるのか、それを考えていくことがこの芸術と向き合っていくことなのだと思います。そこはもう見た人それぞれのプライベートな営為なので触れませんが、ひとつ根源的なものとしてあるのは閉じ込められることへの恐怖でしょう。

もっというと、閉じ込められていることがわからない恐怖、外の世界があることすら知らない恐怖。そんなところから自分の恐怖の源泉のひとつに触れることができる映画なのかもしれません。

さらに考えていくと、異界への恐怖と異界の存在に気づかないことの恐怖の複雑な関係の考察に進んでいきそうですが、今日のところはここまでということで。

『エヴォリューション』
2015年/フランス/81分
監督・脚本:ルシール・アザリロヴィック
脚本:アランテ・カバイテ
撮影:マニュ・ダコッセ
音楽:ザカリアス・M・デ・ラ・リバ、ヘスス・ディアス
出演:マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエ

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