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あなたもこれで見たくなる!アニメ『映像研には手を出すな!』が面白い理由

普段あまりアニメは見ないんですが、NHKで放送している『映像研には手を出すな!』が面白いと聞いて、1話から4話まで一気に再放送していたのを見ました。

それが面白くて、それからは毎週録画してみているんですが、まあ毎週面白いわけです。それで、どうしてこのアニメは面白いと思うんだろうと素朴な疑問を持ったのでちょっと考えてみました。

オープニングのchelmicoの曲もとてもいいので、聞きながらお読みください。

最近のアニメは難しい

そもそもなぜ普段あまりアニメを見ないのか。大人になってからアニメを見る習慣がなくなったというのはあります。それでも映画ではジブリをはじめ見ないわけではないので、アニメ自体が嫌いというわけではありません。映画の一ジャンルとしてのアニメは今でも好きです。

その中で、TVアニメを見ない理由としてひとつ思い当たるのは、最近のアニメは「難しい」ということ。以前「ゴールデンカムイ」を少し見たのですが、その時「登場人物も多いし、設定も複雑だし、背景にある歴史の知識もあったほうが良さそうだし、これは漫画で読んだほうが良さそうだ」と思ったのです。まあ漫画も読んでいないんですが。

これはどういうことかというと昨今のアニメは情報量が非常に多くて一回見ただけではすっと消化できないということです。だからあまり気楽に見る気になれないのではないかと。このような傾向がいつからのものかはわかりませんが、TVアニメのターゲットが20代30代になったここ10年くらいのことなのではないでしょうか。

金森氏がいるから面白い

では『映像研には手を出すな!』はなぜ面白いのか。「映像研」も非常の情報量の多いアニメです。浅草さんは早口でまくしたてるし、アニメのいろいろな設定や、アニメ制作の様々な知識が無いと十全に理解することはできません。ちょっと追いつけないところもあります。

それでもこのアニメが面白いのは、まず「それがわからなくてもいい」というエクスキューズがあるからです。そして、それを体現しているのが金森氏です。

「映像研」を見ていない人に少し説明すると、この作品は芝浜高校の映像研というアニメ制作を行う部を舞台にした物語で、主人公は小さい頃からアニメの設定を書き続けてきた浅草みどり、一緒にアニメを作るのがカリスマ読モでアニメーターを目指す水崎つばめとアニメに興味も知識もないがプロデューサー役を務める金森さやか。

浅草さんと水崎さんの2人はマニアックにアニメやSF設定について話をするけれど、金森さんはそれに興味もないので聞き流します。金森さんが興味があるのはいい作品ができてお金が儲かるかどうか。非常に現実的なのです。そして、この金森氏(浅草さんの呼び方、この呼び方も青春を感じさせていい)の視点に立てばコアなアニメ視聴者でなくても、全てがわからなくてもこのアニメを楽しんでいいんだと安心できるのです。

むしろ、そういう人こそこのアニメを見るべきなのだと思うのです。その理由については後述します。

浅草氏の圧倒的な才能と映像のクオリティ

というわけで、金森氏がいることで誰でも楽しめるアニメになっているわけですが、作品としての面白さを支えているのは浅草さんです。浅草さんの観察力と想像力は圧倒的で、理解の範疇は超えていてもその凄さはわかります。

物語の中で映像研の作品にファンが付くわけですが、作品のクオリティが高くなければそれはありえないわけで、金森さんもそこは強調しています。そして、クオリティが高いということを見る側に証明するには、作品ができる過程で凄さを表現しなければいけません。できた作品を私たちは実際に見ることができないわけですから。

そのためにこの作品では、浅草さんや水崎さんの表現をこの作品自体に反映しています。説明を実際にアニメーションとしてみせることでその表現の力を直接示しているのです。それを見ると、この表現が必要な理由が(金森さんと一緒に)納得できます。そのようにして出来上がるアニメのクオリティが担保されるのです。

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物の価値を決めるものはなにか

この映画が描くのは浅草さんという圧倒的な表現者とそれをうまく使って社会から評価を得る金森さん(とそれを支える職人兼広告塔水崎さん)です。

それが意味するのは、クオリティが高い作品を生み出すクリエイターの凄さと、マネジメントやプロデュースの重要性でしょう。その2つが合わさってはじめて創作物は社会に評価されるのです。

これは物の価値を決めるものは何か、あるいは誰かということにも通じます。クリエイターがいくら素晴らしい作品をつくっても独りよがりのエゴではそこに価値は生まれません。それを社会に受け入れられる形にしなければ何にもならないのです。

そしてこの作品自体にもそれは言えます。原作の漫画からすでにその両方を併せ持っていたとは思いますが、アニメになる(さらにこのあと実写にもなる)ことで、新しいクリエイティブが生まれ、知名度も上がりました。それによって原作の価値も上がったことは間違いありません。

アニメの第9話は金森さんが宣伝の大事さについて子供時代の想い出を回想しながら語る「金森回」なのですが、私はこの回を見ながら、クリエイティブと宣伝あるいはプロデュースの関係について考えさせられました。それは言いかえるなら、何かを生み出すこととそれを広めることの関係です。

適切にものを届けるために

私はいま、いいものは世の中に沢山あるのに、それが求める人に届いていないのではないかかという疑問をいだいています。どうしてこんな面白い映画がヒットしないのか、どうしてこんなに美味しい店が潰れてしまうのか、こんなに良いサービスがなくなってしまうのか。

それは資本主義の歪みなのか、行き過ぎた情報化社会の悪影響なのか、おそらくそれらが複合したものが原因なのでしょうが、そういう現実があることが社会を不幸にしていると思うのです。

だからこのアニメを見ながら、クリエイティブが社会を幸福にする「最強の世界」をつくるにはどうすればいいか考えるのです。そして、そのためにはまずこの面白いアニメ作品を沢山の人に見てもらって、クリエイティブの力を感じてほしいと思うのです。

「第1話から見たい!」と思った方は、NHKの再放送を待つか、FODで見ることができますのでお試しで見てください。

湯浅政明の細部にこだわった演出の面白さについても書きたかったのですが、それはまたの機会に。

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