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音楽は私たちの生きる力を呼び覚ます。映画『ソウル・パワー』の45年前の伝説的パフォーマンスが教えてくれる音楽の力。

今回の新型コロナウイルスでもそうですが、危機が訪れるたびに音楽の力を感じます。東日本大震災の後も音楽の力に救われたことが何度もありました。

なぜ音楽にはそんなにも力があるのでしょうか。人の感情を喚起し、心を揺さぶり、今までと別のなにかに目を向けさせる、なぜそんな事ができるのか。

その理由はわかりません。でも、人類は古来から音楽を奏で、歌い、聞き、踊ってきました。それだけ音楽は人間の体と密接な関わりがあるものなのは確かです。

アメリカとアフリカの音楽

映画『ソウル・パワー』は1974年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)の首都キンシャサで行われた音楽ライブを記録したドキュメンタリーです。モハメド・アリのタイトルマッチにあわせて行われるはずだったものがボクシングの試合だけが延期になり、ライブだけが行われました。

出演者は、ジェームズ・ブラウン、B・B・キング、ビル・ウィザース、ザ・クルセイダーズなど今ではレジェンドと言うべきミュージシャンたち。

映画はこのイベントの準備段階から、ライブの当日の様子まで全てに密着してあますところなく伝えます。そこでの伝説的なミュージシャンたちを見て楽しむのがこの映画の全て。45年も前にこんなすごいことが起きていたんだと驚嘆させられます。しかも、映像も音響も質が高いので、しっかり入り込めます。

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ライブにはアメリカから渡ったアーティストだけでなく、現地のアーティストたちも参加し、これがまたいい。劇中でアメリカのアーティストのひとりが、アメリカの黒人とアフリカの黒人との間には400年の隔たりがあるということをいい、音楽性にははっきりした違いがあります。でもどちらもいいし、そこには本当にパワーが有るのです。

ビル・ウィザースだったと思いますが、この滞在で何かを得られるというようなことを言いますが、本当にルーツに触れることで彼らはさらに力を得たのではないか、アフリカのアーティストたちのパフォーマンスを見るとそんなことを感じます。

ブラック・パワーは反白人ではない

この映画のもう一つのテーマはやはり黒人ということです。1974年というと、公民権運動も落ち着き、アメリカの黒人たちは形式的な平等は手に入れた頃。かたやザイールは独立を手に入れたばかりで軍事独裁政権下にある時代。どちらも白人支配の軛から逃れたばかりと言えます。

それでも、あまり反白人支配という空気はこの映画にはありません。唯一、モハメド・アリだけが黒人の力、黒人の美しさを強く主張していますが、ミュージシャンたちはあまりそのことに言及しません。

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ここにも音楽の力が現れているのかもしれません。ボクシングやスポーツは勝ち負けがあるけれど、音楽にはないことも関連しているかもしれませんが、ミュージシャンたちは白人に対抗する必要はないのです。自分たちの魂(=ソウル)の叫びに耳を傾け、アメリカとアフリカのルーツを共有する人たちが共鳴し合えば自ずと力を持つことができる。それは対白人の話ではなく、自分たちがどうあるかの問題なんだと言っているかのように私には思えました(多分考えすぎですが)。

同じ音楽をいいと思えて、同じように身を任すことができて、そこから湧いてくる感情を言葉なしでも共有することができるような人達の間には目に見えないとしても何らかの絆があって、それは生きていく力になるはず。危機にひんしたときに聞く音楽に力を感じるのは、それを乗り越える力を私たちがそもそも持っていたことを音楽が思い出させてくれるからなのかもしれません。

『ソウル・パワー』
2008年/アメリカ/93分
監督:ジェフリー・レビィ=ヒント
原案:スチュワート・レヴァイン
出演:モハメド・アリ、ジェームズ・ブラウン、B・B・キング、ビル・ウィザース、ミリアム・マケバ

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