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飛行機の本#11飛行士たちの話(ロアルド・ダール)

映画「チャーリーとチョコレート工場の秘密」の原作者でもあるロアルド・ダールは、実は第二次世界大戦時のエース・パイロットだった。作家のセシル・スコット・フォレスターの取材を受けた時に、話すのはめんどうだと渡したメモが作品レベルであり、そのまま出版されたのがデビューのきっかけだそうだ。「簡単な任務」という題で、この本に掲載されている。そのほかに10の短編が掲載されている。後に短編の名手として知られるロアルド・ダールの最初の短編集だ。ロアルド・ダールは小説だけでなく、映画「007は二度死ぬ」「チキ・チキ・バン・バン」の脚本も手がけている。

エース・パイロットというのは5機以上の公認撃墜記録保持者を指す。戦闘機のパイロットは生死をかけた果し合いをするような経験を重ねる。ほとんどのパイロットは最初の戦闘で撃墜されるが、生き残ったものが次の戦闘での生き残る確率を高くしていく。新人が次々とデビューするが一度でも勝ち残った者は断然強い、強いものが経験を重ねてどんどん強くなり、戦いに参加する新人にとって生き残るのが難しくなっていく。弱肉強食の世界なのだ。

しかし、ロアルド・ダールは心理面での怖れを描いている。戦争が終盤に近づいて来たことが明らかになってくると、それまで怖れをしらなかったパイロットが、死への恐怖を感じてくる。終わりが見えてきたことで生への執着が生まれてきたのだ。「ある老人の死」の話である。

短編集はおもに1940年から1941年にかけてのギリシア戦線での話になる。イギリスはまだ劣勢で、イギリス空軍もギリギリの戦いをしていた中でのエピソードである。ここでも爆撃後に取り残された少女の話が出てくる。

大戦初期の飛行機がわんさか出てくる。主に登場するイギリス軍機はグラディエイター、スピットファイア、ハリケーン、ドイツ軍機はメッサーシュミットBf109、Bf110、ユンカースJu87、Ju88。そのほかに、タイガー・モス、ブレニム、サヴォイアS-79、CR-42、ドルニエ、ランカスター、ハリファックス、スターリングー、ハムデン、マッキ200、ボーフィター、ソードフィッシュ、ハインケルという名前が出てくる。


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グロスター グラディエーター
イギリスの複葉戦闘機である。1930年の仕様でグロスター社が開発した。1934年に初飛行、1935年制式採用。第二次世界大戦の初期まで戦闘に使われた。胴体前半は金属製、密閉式の風防など複葉機としては優れていたが、すでに複葉機の時代ではなくなっていた。第二次世界大戦に備えてホーカーハリケーンやスピットファイアなどの開発増産が急速に始められており、それまでのつなぎとして踏ん張らねばならなかった。マルタ島やこの本に出てくるギリシアなどではイタリア軍と制空権争いをしていた。イタリア軍もCR-42などの複葉機を使っていたため、互角の戦いをすることになった。

表紙カバー絵は和田誠さんだ。味のある絵。

「飛行士たちの話」
ロアルド・ダール 作
永井淳 訳
ハヤカワ文庫  昭和56年





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