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『ダーダオチェンの夢』のやさしさ

Netfrixでたまたま見出したla garande chaumière violette(ダーダオチェンの夢)が面白い。いや面白いという言葉で表してはいけない深みがある。台湾のお茶のような奥深い味わいがあると言った方がいいのかな。日本統治時代の1920年代の台湾、「迪化街」に住む絵が好きな2人の少年ととりまく人たちの群像劇。日本統治からの独立への欲求、東洋と西洋と日本が混在する台湾の文化など織りなすテーマの背景は複雑だ。

「ダーダオチェン」は「迪化街」のこと。「迪化街」は台北の問屋街。ガイドブックには「ディーホアジェ」と読むと書いてある。「民藝」文化が残るおもしろいお店があって、私がいつもビールを飲むグラスは「迪化街」のあるお店で買った。ウィスキーのショットグラスみたいだけれど、これグイと飲むビールはうまい。ドラマの中でも同じようなグラスでビールを飲むシーンがでてきて、「あ、これこれ」と思った。

タイトルの”la garande chaumière violette”はフランス語で、原題は「紫色大稻埕」。七色に輝く青春の夢という意味らしい。このタイトルではなかなかヒットしないよな。でもじわじわくる良質のドラマなので目立たないタイトルもまたこれはこれでいいかも。

ともかく出てくる人がすべてみなやさしい。通りすがりの人や近所の人もみなやさしい。こんなにやさしい人ばかりでドラマが成り立つのかというくらいやさしい人ばかり。韓国ドラマを見たあとなのでかえって新鮮だ。こんな風に演出してもドラマができるんだと思ってしまう。

台湾のお茶もテーゼとして流れている。それで思い出したのは先年、大学の仕事で台湾に行った時にガイドをしてくれたとてもやさしい青年のことだ。彼は仕事でガイドをしているというよりも台湾のお茶をわれわれに伝えたくてガイドをしてくれているような青年だった。自らとても優雅に台湾茶を入れてくれ、台湾の奥深い茶道を教えてくれた。またさまざまな台湾茶の文化に触れるような場所を案内してくれた。彼がドラマの中にでてきても違和感がないだろうな。「やさしさ」という文化が根本にあるんだと思う。

日本が統治したことを声高に訴えているわけではない、それでいて日本の統治に対する憤りや台湾自治への思いがしっかり描かれる。見ているうちにじわじわとその思いが伝わってくるのだ。また、日本の文化、東京の新しさにあこがれをもっていることも繰り返し出てくる。これは昔のこと描いているだけでなく、現在の台湾の置かれている風景でもあるのだあとで気づく。

とりわけ、つつましく暮らしながら画家をめざすジンフォの母親がとてつもなくやさしい。ジンフォは茶行(お茶の会社)で働いている母親との二人暮らしだ。母親は字も読めないが、美しい刺繍が得意で内職として仕事をしており、ジンフォを画家にするために朝から晩まで仕事をしている。少年ながら画家をめざして厳しい人生を歩もうとしているジンフォに対してはげまし、褒め、いつも美味しいものを食べさせ、笑顔を絶やさない。どんなに苦境になっても笑顔いっぱいでジンフォを応援する。「123休み、123休み・・・。あなたは絵の中につめこみすぎよ。休みがあることが大事」と、展覧会に出す絵に苦しむジンフォにアドバイスをする。ジンフォの絵の素質はあきらかに母親の刺繍の才能から引き継がれたものだと感じてしまう。「ジンフォの母さん」・・・素敵だ。

かなり実在の人物が登場人物として描かれているらしい。ジンフォは若かりし頃の郭雪湖(カクセッコ)。郭雪湖さんは、台湾を代表する画家で西洋画の要素を取り入れた日本画という独特の境地を切り開いた。晩年はアメリカで暮らし、104歳まで生きて台湾の文化を世界に伝えた。もっと調べたかったが日本語でのwikiはない。

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若き日の郭雪湖さん。

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1930年に描かれた迪化街。この絵は台湾永康街のカフェにポスターとして飾ってあったのを見て、とても印象に残っていた。もともとは郭雪湖さんの絵だったのだ。見たことがある人も多いと思う。

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晩年の郭雪湖さん。

台湾は日本の文化を源流にもっている。今の日本と今の台湾の源流は同じ。むしろ、台湾にこそオリジナルの日本文化が残っている。ドラマを見ていて何度もそう思った。ドラマだけでない、実際に台湾に行くたびにそう思う。

実はドラマをすべて見終わっていない。12話まで見たところだ。最初何気なく見てから1週間・・・残りのエピソードを大切に味わいたい。228事件まで描くそうだ。暗い時代に入っていくのが心配だが。

・・・・・最後まで見た。

そうか。そうだったのか。このやさしい登場人物たちだからこそ、228事件での悲しさや辛さが際立ってくるのだ。深い政治的メッセージがこめられているのだ。

そして、ドラマで投げかけられた課題は、現代の台湾の人々にそのまま渡されているんだ。

台湾と中国の問題は、ますます深刻になってきている。そして、台湾の自治独立が静かにそして強いメッセージとしてこのドラマの基底に流れるテーマなのだ。

コロナが収束したら、まずが台湾に行きたい!



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