宮崎産マンゴー

宮崎産マンゴーがトップブランドになった理由【連載7】

5.東国原知事トップセールスで「太陽のタマゴ」全国区に

テレビタレント「そのまんま東」こと東国原英夫氏が2007年(平成19年)1月に宮崎県知事選挙に出馬し当選。当時日本一有名なタレント知事が誕生したことで宮崎産マンゴーがクローズアップされ、生産農家や関係者が予想もできない事態へ急展開した。


当時、宮崎産マンゴーは東京都中央卸売市場での取引は増えていたものの、宮崎産マンゴーの認知度は沖縄産マンゴーより低かった。知名度が高くメジャーだったのは、生産量日本一で価格が安く、市場で取扱量が多かった沖縄産マンゴーだった。


東国原氏自身、地元宮崎の知名度が低いことにコンプレックスをもっており、宮崎県を全国的にもっと知名度を上げ有名にしたいと考えていた。

出所:『宮崎県広報みやざき6月号』2017年6月

2007年「都道府県別魅力度ランキング」(ブランド総合研究所)で宮崎県は33位(沖縄県5位)。

◎都道府県魅力度ランキング
07年→33位


知事就任後、東国原氏が最初に取り組んだのが、宮崎県の知名度向上。東国原氏は、宮崎県のブランディング戦略の一つしてまだ知名度が低かった「太陽のタマゴ」を選択。メジャーな沖縄産マンゴーと低価格競争しても勝ち目はないことを理解していたので、富裕層をターゲットに、高付加価値で売る戦略を打ち出した。当時を回想した東国原氏のコメントが転職サイト「@type」に掲載されている。

「農業が、宮崎の基幹産業。だけど市場では、毎日、農産品の全国大会が行われているようなもの。その中でどうやって勝てるか。僕なりに分析し選んだのが、マンゴーでした」
「安いものを求める人は捨て、富裕層にターゲットを絞る。そして、その人たちが『高くてもこれが欲しい』と思う付加価値を付ける。宮崎マンゴーを贈られた人が『こんな高級なものを』とありがたみを持てるようなブランドにしようと考えました」
「僕がメディアでPRするとそれ自体が付加価値となって、『これが東国原が言ってたマンゴーね。高いけど、買ってみようかしら』と思ってもらえる。包装も一般のマンゴーが段ボールに詰められているのに対し、こちらは木箱に入れる。そうやって高級感を演出し、付加価値を付けていくんです」   
出所『転職サイト「@type」2015.2.26』

プロのマーケッターでも「安いものを求める人は捨て、富裕層にターゲットを絞る」ということを明言し実行できる人はなかなかいない。確かに、当時メディアでの東国原知事の発言を検証してみると高級、付加価値の高いマンゴーとしてPRしている。


東国原氏は自らマンゴーを選択し、富裕層をターゲットに付加価値の高い路線で意図的にメディアへ露出しPRをしたので非常に効果的だった。


当時、一般消費者にとっては「太陽のタマゴ」はマイナーな存在だった。
東国原知事の登場で全国の一般消費者にも「太陽のタマゴ」は広く知れ渡り、問い合わせが増え通販でもお取り寄せ商品として需要が一気に伸びた。
2008年の東京都中央卸売市場・大田市場初競りでは前年の5倍、史上最高額となる2個20万円で落札された。


東国原県知事が、メディアに露出し「太陽のタマゴ」をPRすることで市場取引も活発になり、空前の宮崎産マンゴーブームが起きた。宮崎産マンゴーブームに乗っかり一儲けしようと企む悪徳業者も横行し、他県産マンゴーや輸入マンゴーを宮崎産マンゴーと偽り高値で販売する詐欺行為も多々あった。風評被害もあったとおもうが、有名ブランドには必ずコピー商品、類似商品など偽物が存在するように、偽装販売は宮崎産マンゴー「太陽のタマゴ」がブランドして認められた証ともいえる。


東国原氏は、宮崎産マンゴー「太陽のタマゴ」をPRするためにメディアを上手く利用する方法をよくわかっていた。


東国原氏が知事として初登庁した2007年1月23日、県内3カ所で高病原性鳥インフルエンザが同時期に発生。東国原知事を本部長とする鳥インフルエンザ対策本部が急遽設置された。


実は、宮崎県において農畜産業出荷額2番目に大きかったのが、みやざき地頭鶏(じとっこ)などの宮崎県産鶏だった。2006年(平成18年)農林水産省生産農業所得統計によると出荷額1位は野菜で669億円、2位肉用牛613億円、3位はブロイラーで455億円。宮崎マンゴーの10倍も出荷額が大きいブロイラーが風評被害で出荷がストップすれば宮崎県全体の経済に及ぼす影響は計り知れない。


メディアは宮崎県で発生した鳥インフルエンザについて東国原知事の動向もあわせて連日報道されていた。養鶏場で飼育されている肉用鶏を何十万羽も殺処分しなければならない。鳥インフルエンザの風評被害で、宮崎県産鶏の販売への悪影響も考えられる状況だった。


就任間もない時期に最悪の事態に遭遇し、頭を抱えてしまうとおもうのだが、東国原氏は、その状況を宮崎産鶏PRのチャンスと考えていた。

「僕が知事に就任して間もなくということもあって、何度も全国ネットでこのニュースが取り上げられました。つまりそれは、宮崎が鶏の産地であるということをいろんなメディアが宣伝してくれているということ。おかげで、たくさんの人に地頭鶏(じどっこ)や宮崎地鶏を知ってもらうことができた。こんなにオイシイことはない。だから僕はこの状況をどう逆に利用しようかということをひたすら考えていました」
出所:転職サイト「@type」2015年2月26日

東国原知事は、芸能界にいたので、話題がネガティブな話題であれ、メディアで報道されるのはビジネスチャンスだと東国原氏は認識していた。ネガティブな話題だが大手メディアによる鳥インフルエンザ報道で宮崎県が養鶏産地であることが全国的に認知されたことは確かだ。


東国原氏は、鳥インフルエンザで起きた風評被害を収束させるため「人体に害はない」と安全性を繰り返しPRした。
宮崎産鶏が全国メディアで連日報道されたことで認知度が上がり、宮崎産鶏は宮崎市物産館で前年比約11倍、東京のアンテナショップで前年比約9倍という驚異的な販売を記録した。


東国原氏が知事を退任した後も宮崎産鶏は、順調に出荷量を増やし、2016年(平成28年)の産出額は730億円(対前年比101.7%)で全国1位。宮崎県農畜産全体の20.5%を占める重要な畜産となっている。


もちろん、宮崎産鶏関係者の取組、努力の賜物であるが、東国原氏の果たした役割も無視はできない。
当時、マスメディアでひっぱりだこで話題になっている「時の人」東国原氏が「宮崎産マンゴー」を宣伝すれば宮崎産マンゴーが売れ、「宮崎産鶏は安全です」と宣言すれば風評被害が収束し宮崎産鶏が爆発的に売れたのは、ロバート・ザイアンス「単純接触効果」で心理学的に説明できる。


テレビに露出が多い有名人はタレント候補と揶揄されながらも当選するのは「単純接触効果」で好感度が高くなっているからで有権者は無名な候補者(好感度が低い)よりタレント立候へ投票してしまう。東国原氏はタレント候補として知事選に出馬し当選したが「単純接触効果」が大きく影響している。


当時マスメディアで露出が多い東国原氏への好感度は非常に高くなっていたといた心理分析できる。


「単純接触効果」により好感度が高い東国原氏が「宮崎産鶏は安全です」と言えば、多くの人は「宮崎産鶏は安全だ」と受け止めてくれる。テレビコマーシャルで有名人が商品を宣伝することでその商品への好感度も高まり売上アップへ繋がる。


仮に、東国原氏が知事でなく全国的に知名度が低い、他の知事であれば、風評被害は長引いたのかもしれない。
宮崎県は2007年2月5日、東国原英夫知事の就任から1週間(07年1月23日~29日)で182のテレビニュース番組などの出演時間が、合計約22.5時間。CM広告費に換算し(電通)経済波及効果が約165億円にあたると発表している。ほぼ丸一日中テレビに出演していたという計算になる。


当時東国原氏は「時の人」だったことは間違いない。驚いたのは宮崎県庁が観光コースとなったことだ。2008年度の見学者は約42万人。県内有数の観光名勝が「宮崎県庁」となったことで県庁に隣接する「みやざき物産館KONNE」の2010年度の売上は約6億円に急増。 

2007年「都道府県別魅力度ランキング」(ブランド総合研究所)で宮崎県は33位だったが、東国原知事のPRで宮崎県の認知度が高まり2009年のランキングでは13位と短期間に20もランクアップしているのは驚異的。

◎都道府県魅力度ランキング
07年/33位→09年/13位

東国原氏が知事を退任した2010年は18位、11年は24位と順位を落とした。アップダウンを繰り返すものの20017年は19位で中位をキープしている。
東国原氏は知事就任後、最初に取り組んだのが、宮崎県の知名度向上だったので、その目的は達成したといえる。
タレント知事としての「宮崎県の知名度」を上げ「太陽のタマゴ」「宮崎産鶏」など
特産品を全国区へ押し上げたのは事実で数字にも表れている。

→連載8につづく


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