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長期ひきこもり解決のヒントに〜アウトリーチの“今”と“危うさ”〜

この原稿は、2年ほど前(2018年)に洋泉社(現、宝島社)で出版した精神疾患の治療ガイドのような本に寄稿した原稿を元に、加筆修正したものです(ほとんど別原稿ですが)。アウトリーチについての、本来1000字足らずの小論でしたが、これは2800字ほどの文章となりました。もともと医療系ガイドの一稿なので、おだやかな文面となっていますので(笑)、安心してお読みください。(2020.01.30)

特に長期のひきこもり問題解決のヒントに
アウトリーチ(訪問サポート)の“今”と“危うさ”

 2000年頃から長期ひきこもりの家族や当事者を“家庭訪問”する活動をしており、ここ十年余りは年間800ヶ所を訪問しているだろうか。うまくいくこともあるし、なかなか会えないこともある。

 昨年の十二月には、15、6年前から訪問していた当事者の若者と初対面する幸運に遭遇した。相手の方から、僕の地元での面談に出向いてきてくれたのだけど、こちらは感動のあまり、思わず大量の鼻血を流してしまって、感動の一場面が笑いの修羅場と化してしまったのは言うまでもない(我ながら情けなかったです。どうもすみません)。

 さて、ひきこもりの当事者は、外出したり、他人と顔をあわせることに対して、人一倍大きな苦痛やとまどいを感じるのが特徴だ(ただ、この点については、タイプが異なると、自分から進んで他人との会話を積極的に求める人もいる。ひきこもりと一言で称しても、極めて多様な人たちだから。ようするに、普通の一般の人たちの範疇に大半が入っている存在で、少なくとも僕はそう思う)。

 このため、誰とも顔を合わせようとしなくなり、より深刻なひきこもり状態に陥ってしまうことが少なくない。時にはそのまま10年、20年、あるいは30年以上ひきこもってしまう人もいる。いったん元気になっても、また再びひきこもり状態がぶりっ返してしまう場合もある(こういう状態を“リバウンド”と言ったりする)。

 当然、医療や支援の機関や団体にアクセスすることがだんだんと難しくなる。

 そして、そんな孤立しがちな状況が進行すると、いっそうのひきこもり状態の悪化を引き起こすことがある。

 最近は孤立して疲弊する“ひきこもり”に追い打ちをかけて「やれ働」とか「やれ怠けるな」、「早く学校に行け」などの悪しき叱咤激励をするような、専門家と称する人たちの抑圧も減ってきた。

 ただ、一方で本人の年齢が30代以降になると、ただ放置、放任していても、それだけでは状態が改善することは少なく、ストレスの少ない支援が必要であると、僕は考えている。

 だから、ひきこもりの当事者に寄り添うことは、決して単純で簡単なことではない。人生経験豊かな包容力のある大人が、寄り添ってほしいと思う。

 現在、少なくとも日本には100万人以上が深刻なひきこもり状態に陥っていると考えられる。

 現代の日本にとって深刻な社会問題だ。そして“支援する人が当事者の家へ出向いて、いろいろな相談に乗ったり、改善のために一緒に試行錯誤したり、必要に応じて医療や福祉などの専門家につなげる”アウトリーチの活動が解決の一助となっている。

 長期ひきこもりの当事者は、うつ病や統合失調症など「何らかの精神疾患を患うケース」、アスペルガー症候群やADHDなどの「何らかの発達障害を持つケース」、それに「深刻な精神疾患や障害を持たないケース」と3つに分けられるという。

 そして、この3タイプに共通することは、誰もがかなりの生きづらさを抱えている、ということだ。

 当事者には、一般の病院を受診する患者と違い、病識がなく、非自発的な患者であることも多い。

 つまり「自分には何も悪いところがない」と頑なだったり、「誰にも助けを求めるつもりはない」と支援者や治療者との対面を拒んだりすることもあるのだ。

 この時に家族や支援者は、大きな葛藤に直面する。

 本人の言う通りに、放っておけばいいのか? それとも、本人の意思を無視して、“助けて”あげるべきなのか?

 この“助けて”あげようという意思のさらに奥に、周囲の支援者や家族が、もし“楽になりたい”の心があった場合、本人も家族も支援者も、暗い垂直な穴の中に真っ逆さまに落ち込んでしまうことになってしまうかもしれない。

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サポートしていただければ幸いです。長期ひきこもりの訪問支援では公的な補助や助成にできるだけ頼らずに活動したいと考えています。サポート資金は若者との交流や治癒活動に使わせてもらいます。