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OUTREACH(アウトリーチ) 〜ひきこもり訪問記①〜 脱ひきこもり三つの壁

この記事は2018年の11月に書いたもので、大阪府高槻市の<やまと茶坊>の発行している機関誌に寄稿したものです。

僕は主に長期ひきこもりのアウトリーチの支援活動を2000年頃からやっているのですが、その活動の中で気づいたものです。年間約800件くらいしているでしょうか。トータルでは1万件は越えているのですが、数が多ければいいというわけではありません。

なんか自爆してしまったような書き方ですね。実際、とても訪問した人全員が自立できるようになるわけではなく、まだ半分程度のところでもがいています。ただ、長く長く関わり続けることができれば、公的な支援や、医療などの様々な機関と連携できれば、ほぼ生きていける状態にもっていくことは十分可能です。ですから、あきらめたりしないでください。

さて、アウトリーチとは、訪問をともなう支援のことです。

ひきこもりの当事者の場合、様々な理由で外に出たくてもでられない人が多いのが特徴で、アウトリーチは活用の仕方によってはかなりひきこもり問題の解決に寄与すると思います。

ただ、最近は暴力的支援の問題や、なかなかアウトリーチを実施できる専門家が少ないなどの問題もあって、全国的にはまだまだ不十分と言えるのではないでしょうか。そんな閉塞状況を打開する参考にでもなれば幸いです。

内容はシステム論というものではなく、現場での活動の試行錯誤といったものが中心です。

僕もそうでしたが、アウトリーチを試みる支援者は、まず最初、家族や本人から相談があったところから、ある種の戸惑いに直面します。マニュアルなどを用意して活動しているところもあるかと思いますが、人間一人ひとり違うわけで、それはひきこもる人たちも、そうでない人たちも同じです。

だからすぐにマニュアルなど通用しない状況に直面するわけですが、そのうえで、できればマニュアルなどに頼らなくてもいい支援ができるようになればいいと、僕は考えています。

購入費などは、ひきこもり支援活動、特にアウトリーチに活用させていただきます。よろしくお願いします。


OUTREACH(アウトリーチ) 〜ひきこもり訪問記①〜
脱ひきこもり三つの壁

                           石川清

●初めての家庭を訪ねるということ

 二一世紀になってからというもの、僕は日々、ひきこもりを抱える家の家庭訪問を繰り返しているように思える。

 気づいてみたら、累計でとっくに一万回を突破していた。大半が口コミで訪れたクライアント(?)だと思うと、ありがたい限りである。ちょっと睡眠不足になることもあるのだけれども。先日NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に取り上げてもらったのだけど、その後は特にそう感じるようになっている。

 さて、先日、訪問サポート(ひきこもりを抱える家を家庭訪問して支援する手法のこと。最近ではアウトリーチともいう)の依頼のあった家庭を初めて訪問する機会があった。

 一万回以上の家庭訪問を繰り返しても、最初の訪問の時は、今もとても緊張してしまう(もちろん、そんな素振りは見せないのだけれど。これは見栄のようなものかもしれません、笑)。

 とりわけ、僕が訪問サポートをする際、七割がたは、当のひきこもり本人が会ってくれようとしない。つまり、本人は必ずしも僕の訪問サポートに同意していない。むしろ逆に「親の手先」の敵のような存在がやってきたと思われているかもしれない。

 緊張感はマックスとなる。

 多くの場合、ひきこもり訪問サポートの作業は、ゼロからというより、マイナスからのスタートとなる。

 ちなみに“ひきこもり”とは、社会や他人、時には自らの家族との関わりを絶って、孤立した生き方を何年も、何十年も継続している人たちのことをいう。日本に百万人以上いると言われているが、問題の性質上、なかなか正確なデータは集まっていない。

 先日、第一回目の訪問をした埼玉県内のA君(三〇代)。彼は僕の家庭訪問(アウトリーチ)に対して、同意していなかった。親御さんの相談があって、とりあえず訪問を決めたケースだった。

 僕は本人が同意していなくても、そのひきこもり状態が長期間に及んでいたり、セルフネグレクト状態に陥って入れば、できるだけ訪問サポートや家族への支援をすることにしている。

 セルフネグレクト状態とは、ひきこもり状態が超長期にいたった場合、たまにみられる事態というか、症状のことだ。自分で自分の状態を引きこもらざるを得ないように追い込んでしまうのが特徴だ。自傷行為だけとは限らない。よく“頑固”と表現されて、医療や支援を頑なに拒み、ひきこもり状態が長期化に陥る大きな要因となる。自分で自分の置かれた状態や環境を悪化させたり、改善と真逆の言動をとってしまいがちで、自分でもコントロールできない状態に陥ることもある。多くの場合、放置しておいたら悪化する。

 とはいえ、だからと言って、僕は何が何でも強引に訪問して、ひきこもる部屋のドアをこじ開けたり、暴力的に当事者を追い立てて、遮二無二事態を変えようとすることはしない。

 それはかえって逆効果になることが多いからだ。心の傷になったり、本人の症状を悪化させることが極めて多い。そもそもそういった手法にはセンスもなければ、インテレクチュアル(理知的)とも言い難い。

 ここで言っておかなければいけないことは、ほとんどのひきこもりはある種の“被害者”の面があって、それを忘れてはいけないということだ。

 だから、訪問支援は難しく、またおもしろい。

 A君の場合、まずは僕自身が家庭を訪ねることに意味がある、と考えた。

●忖度(そんたく)家族の憂鬱

 屋外で親御さんなど家族と面談しただけでは、家の中の実際の家族関係や緊張状態を把握できないことがある。

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