ショートショート1「登山」
ミカは女子大に通う、瘦せ型のスレンダー美少女。
今日は友人のトモコと共に、初の登山に挑戦していた。
登山といってもハイキング程度のノリであり、目的も森林浴によるリフレッシュという他愛ないものである。
しかし、何事にも手を抜かない性分のミカの取り組み方は真剣そのもの。
姿勢よく一歩一歩を踏みしめるように、テンポよく淀みなく前へと進んでゆく。
「ミカ、そんなに飛ばして大丈夫?」
「ん。普段からよく走ってるし、平気だよ」
絞られたスタイルを維持するためには日々の運動が必要不可欠。
ミカは女子力向上のための努力を惜しまない意識高い系であった。
「おおー! 絶景だよ、ミカ!」
「じゃあ、この辺で休もうか」
やっとこさ頂上へと到着した彼女らは、景色を見ながら一息つこうとリュックの中身を取り出して広げる。
「ねえミカ、見て見て! 元々ぺしゃんこだったのに、こんなに大きく膨らんでる!」
「……へ?」
「山ってすごいねえ~! きゃはははは♪」
トモコは子供のようにはしゃぎながら、気圧の変化でパンパンに膨張したスナック菓子の袋をミカに見せつける。
それに一瞥をくれたミカは、恨みがましいような表情を浮かべたかと思うと、下を向いて何やら低い声で呟きだす。
「どおして……どおして……」
「ええと、ミカ?」
危惧するトモコを尻目に、ミカは山の新鮮な空気を全身に満たすがごとく大きく息を吸いこみ、腹の底から叫ぶ。
「どおして私のオッパイはこうならないのよぉー!!!」
たゆまぬ努力をもってしても、乳房のサイズだけはどうにもならない。
そんな残酷な運命をミカは、ほぼ真っ平な胸をのけぞらせながら力いっぱい嘆いたのであった。
その後、やまびことなってミカの「オッパイ」発言が山全体を響き渡ることとなりましたとさ。
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