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「FACES PLACES 」(リーグ第14節・サガン鳥栖戦:0-0)

 ミックスゾーンに一番最後にやってきたのは、小林悠だった。
最後になったのは、ロッカールームから出てくるのが遅かったからではない。ミックスゾーンの入り口のエリアで、元チームメートである森谷賢太郎と長く談笑していたからである。

 森谷賢太郎に関しては、試合前の選手紹介で名前がアナウンスされると、川崎フロンターレのサポーターからも温かく、大きな拍手が響いていた。

長く愛された選手だったことを示す、優しい拍手だったように聞こえた。出場することはなかったが、試合後には中野嘉大と宮代大聖とともに川崎のゴール裏に行き、挨拶していた。

 ついでに言うと、ミックスゾーンを通る際には、川崎の番記者がいたこちらに向かって会釈してくれた。他の選手の取材中だったので話は出来なかったが、この辺の律儀さも森谷らしかった。

■無得点に終わった小林悠から返ってきた、少し意外な言葉。

 サッカーには勝ち負けだけではなく、引き分けという着地点がある。

ただ引き分けたゲームというのは、捉え方が少し難しい。追いついた引き分けもあれば、追いつかれた引き分けもある。結果に満足できるかどうかは、内容と展開次第でもあるからだ。

 今シーズン、川崎フロンターレがここまでのリーグ戦で引き分けた試合数は「2」。第3節のガンバ大阪戦と第7節のジュビロ磐田戦だ。この2試合には、敗色濃厚だったアディショナルタイムに相手GKのミスを突いて追いついた引き分けという共通点がある。「土壇場で引き分けに持ち込んだ」という意味では、タイムアップ寸前に掴み取ってきた勝ち点1だった。

 一方で、このサガン鳥栖戦は、最後までスコアが動くことのないまま試合を終えた。「勝ちに来たのに勝てなかった」と言えるし、「退場者が出たのに負けなかった」とも言える。試合が終わったばかりの記者席で、なんとも複雑な思いが交錯していた。

 この結果をどう捉えるべきなのか。
試合後のミックスゾーンに現れた川崎フロンターレの選手たちの表情は、実に様々だった。

 通りがかる選手を呼び止めて、いくつかの質問を投げかけていく。柵越しではあるが、一定の距離を保った上で対面取材だ。試合直後とは違い、一息ついて冷静になってから現れる場所でもある。表情をつぶさに観察しながら、やりとりしていく。

 頭の中と感情が少し整理しにくい試合だったのか。小林悠はこちらが試合の感想を求めると、「そうですね。あまり、うーん・・・・」と、いつもよりも考えてから、前半を振り返ってくれた。

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