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「あの青をこえて」 (リーグ第10節・北海道コンサドーレ札幌戦:6-1)

札幌ドームでの北海道コンサドーレ札幌戦は6-1で勝利。

後半にギアを上げて5得点を叩き出し、終わってみれば圧勝の結果となりました。

6得点はどれも語りがいのあるものですが、この試合はやはり小林悠の2ゴールでしょうか。4−1の状況でダメ押しとなる5点目を決めた際、彼は天に向かって指を差すゴールパフォーマンスをしました。

・・・その瞬間、「あっ、ジュニーニョ!」と気づきました。
8月に入ってから得点がなかったので忘れかけてましたが、ジュニーニョが川崎フロンターレで記録していたクラブ通算得点数に小林悠は並んでいたのでした。

つまり、このゴールは、ジュニーニョの110ゴールを超えて川崎フロンターレでのクラブ通算得点数で単独の最多得点者となった瞬間だったんです。それに気づいた瞬間、このゴールパフォーマンスの意味に感動してしまいました。そしてラストプレーでも決めて2ゴール。川崎フロンターレでのクラブ通算得点数は112になっています。

ジュニーニョを越えたときにやろうと決めてたパフォーマンスです」

小林悠は試合後のリモート会見でそう明かし、安堵の表情で言葉を並べます。

「数字に並んでから長かったし、なかなか超えさせてくれないなと思っていました。今日、超えられてホッとしてます」

この言葉を聞いて、ふと思い出した試合があります。

それは去年7月、味の素スタジアムでの第19節・FC東京戦。首位だった相手を攻守で圧倒して3-0で勝ったゲームで、個人的には昨年のベストゲームだとも思っています。

 実はこの試合で、小林悠はJ1通算100ゴールを達成したんですね。奇しくも、彼が師匠と呼んでいたジュニーニョがJリーグ通算100ゴールを達成した時と同じ場所である味の素スタジアムです。ジュニーニョは、2010年の試合で記録したわけですが、ゴール裏に仕込んでいた横断幕をサポーターに掲げるゴールパフォーマンスをしていました。

 なお小林が川崎フロンターレに入団したのも2010年。ほとんどの期間をリハビリに費やしていましたが、シーズン終盤には復帰しており、この時のFC東京戦では小林もベンチに入っています。出場機会はなかったものの、小林悠にとっては初めて間近で体験する多摩川クラシコでもありました。

・・・となれば、ジュニーニョが100ゴールを達成した場面も見ているはずなのですが、試合後に聞いたら、全く覚えていませんでした・笑。

せっかくなので、想い出話を続けましょう。

そもそもなぜ小林悠がジュニーニョのことを師匠と言っているのかというと、転機となったのは、彼が入団した翌年の2011年のことです。

 2年目の小林は背番号11に変更したことで、背番号10のジュニーニョとはロッカールームが隣になったんですね。当時のクラブハウスのロッカールームは狭いことで有名で、いつも近くにいるジュニーニョとも日常的に接する機会が多くなって、ある日、こう告げられたそうです。

「俺のことをよく見ておけ。練習中も、自分の近い場所にいてプレーを見ろ」

なぜあのときの自分に、そんな声をかけてくれたのか。ジュニーニョの真意は、小林本人はいまだによくわかっていないと言います。そこで理由を聞くのも野暮ですからね。ただ、何か光るものを感じ取ったのでしょう。

 そしてこの言葉をきっかけに、小林悠はそのプレーぶりをつぶさに観察し始めるようになり、その2011年は12得点をあげてブレイク。その年限りでジュニーニョはフロンターレを退団することになったわけですが、その時にかけてもらった言葉は小林の心に今も深く刻み込まれています。

それが「チームが苦しいときにゴールを決めるストライカーになれ」です。

 その教えを小林が大事にしているのは、語るまでもありません。そして様々な試合でそのことを示しました。

そうそう。

去年のFC東京戦の試合後のミックスゾーン。J1通算100ゴールということもあり、小林はたくさんの記者に囲まれていました。ようやく囲みの輪が解けたところで、彼にジュニーニョのことを少しだけ聞くことができました。

味スタでジュニーニョが100ゴール目を決めていることは全く覚えていなかったわけですが、100ゴールという節目を迎えたことで、「J1通算116ゴールを決めている師匠の背中も少しだけ見えてきたのかもしれないのでは?」と、そんなことを尋ねると、彼はこう笑ってくれました。

「ジュニーニョは点を取りすぎているから、まだ先は長いです(笑)。頑張ります」

 あれから1年。偉大な師匠の背中を追いかけていた彼が、ようやく「超えられてホッとしています」とコメントしていたわけで、サラリと言っていましたが、それはとても意味のある、重い言葉にも思いましたね。

・・・とまぁ、長々と書いてしまいましたが、レビューはここからが本番ですよ・笑。今回のラインナップはこちらです。

■オールコートマンツーマンを仕掛けてこなかった札幌守備陣と、打開に欠けた川崎の展開力。序盤に繰り広げられた攻防戦を読み解く。

■試合前の脇坂泰斗が口にしていたキッカーとしての責任。そして今季の車屋紳太郎がセットプレーでゴールに絡む仕事ができる理由。

■「先制点を取りましたが、もう一段、二段、ギアを上げていこうと思ってました」(鬼木監督)。「後半はギアを上げたところがあったと思う」(三笘薫)。そもそも「ギアを上げる」とはどういうことなのか。自分たちの土俵に持ち込み、違いを見せつけた後半のピッチで起きていたこと。

■「自分の特徴を活かしやすい状況が多くできているというのは要因かなと思います」(三笘薫)。2年目の小林悠の雰囲気が漂う、三笘薫の止まらない香り。

■「ずっと貪欲にゴールを目指してやってきたのが、フロンターレでのジュニーニョ超えにつながったと思っています」(小林悠)。ジュニーニョを超えて、これから見据えて欲しいもの。

■(※8月17日追記)「あの形を狙っていて、自分がジェジエウの後ろに入ってヘディングを狙うトレーニングもしていました」(車屋紳太郎)。「写真が送られてきて、『愛するチームでゴールを決めた時はこのパフォーマンスをしているんだ。頼むから、このパフォーマンスをしないでくれよ』って冗談半分で言われて、『じゃあ、それをするよ』って言いました(笑)」(L.ダミアン)。それぞれの得点シーンに込められていたもの。

以上、6つのポイントで冒頭部分も含めて、全部で約15000文字のレビューです(※8月17日追記)。ここでしか読めないであろう話も、たっぷりと盛り込んでおきました。

なお、プレビューはこちらです。→試合をディープに観戦するためのワンポイントプレビュー(リーグ第10節・北海道コンサドーレ札幌戦)

では、スタート!

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