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「泣きたい日もある 」 (ルヴァンカップ第2節・湘南ベルマーレ戦:0-0)

前半終了後、両チームの選手たちがロッカールームに引き上げていく。

0-0で終えた前半はうまくいっていたのか。そうではなかったのか。

選手がどう感じていたかは、引き上げていく時の表情と足取りから、それとなく読み取れることが多い。川崎フロンターレの選手たちに関して言えば、湘南ベルマーレに比べると、狙い通りには進められていなかった振る舞いに見えた。

そんな中、小林悠が登里享平のもとに駆け寄っていき、何やら話しかけながら歩いている光景が印象的だった。センターフォワードと左サイドバックだ。なかなか崩せなかったゴール前のフィニッシュまでのすり合わせだろうか。

 試合後の小林悠が、この時のやりとりを明かす。

「『どう運ぶ?なかなかボールに触れないんだよね」』と、ノボリ自身も全然(ボールに)触れないと話していて。お互いに『どうしようか?』ということで、そういう話をしていました」

 話題は崩しの局面の話ではなかった。それよりも、もっとその手前で、そもそも「どうやってボールを運んでいくのか」という次元の話し合いだったようだ。つまり、前半はそこの段階で問題が起きていた、というわけである。

 試合後のミックスゾーンでの選手とのやり取りというのは、将棋でいう感想戦になることもある。

 選手が試合の反省点に触れながら、話しているうちに「こうすれば良かったのではないか」と、次の試合に向けた修正点を見出せることも多いからだ。

 この日の小林は最後まで打開策を見出せなかったままベンチに下がっていた。

「ちょっと映像を見ないとわからないですけど」と前置きした上で改善点を話そうにも、その表情には困惑が入り混じっている。そしてそれを正直に口にするのが小林でもある。

「どうしていいのか、わからなかったですね。前半、どうすればよかったのか。(自分がボールを受けに)下がった方が良かったのか・・・うーん。なかなかうまく相手陣地に入っていけなかった。守備も途中からはよくなったけど、うまくハマらなかった。後半は良い感じで受けられるようになったけど、与えられる時間で結果を残さないと交代になる。今は悔しいですね」

 では、あの前半終了後に話し相手となった登里享平はどうだったのか。試合後のミックスゾーンに現れたノボリにも率直な感想を聞いてみた。

 彼が開口一番で切り出したのは、やはり「ボールの運び方」についてだった。

「ボールの運び方、一つのポジショニングが気になります。相手のプレスに対して、どこが空いているのか。それを認識しながら、自分たちが運べるようなボール回しが必要でした。試合の全体像というか、それを頭に入れながら、もっとやらないといけないかなと感じました」

 後ろでのボールの運び方という意味では、この日はGKに上福元直人がいることで、数的優位も作りやすかったはずである。にもかかわらず、そのメリットを効果的に生かすことはできなかった。それはなぜだったのか。

 それは相手を見ながら、意図を持って動かせていなかったからだろう。次の展開が見えないままプレッシャーを受けた状態で回しているだけでは、どんなに後ろに人数がいてもあまり意味がない。

「もっとシンプルに使うところ。どこが数的優位になっているのか。それを見極めた中での動かし方ですよね。ただ単にボールタッチが多くなって、オープンに持っていって、矢印を向いた状態でパスをすれば、相手の思う壺だと思います」

 プレッシャーを「矢印」として認識する考えは風間八宏監督が言い始めたものだと記憶している。この日のフロンターレの選手たちの何人かは、湘南の矢印を真に受け止めていた。

 プレッシャーは、その圧力や強度が高いほど矢印が大きくなる。ハイプレスのチームは、矢印が大きく出ているが、その分、裏に蹴ればその矢印がひっくり返りやすくなるし、最小の動きでも相手を外しやすくなるだが、それができる選手が少なかった。

 ノボリは、そこにもどかしさを感じているようだった。
何せ相手の矢印に対する、彼自身のスタンスは「来てくれた方が楽しい」だ。こういうメンタルと技術を持っている選手が、この日のピッチに何人いたのか。長くチームを知る彼は、そこの難しさも感じているようでもあった。

「別にプレッシャーを感じずに、メンタルのところですよね。相手が(奪いに)来てくれる方が自分的にも楽しい。そこでどうボールを動かすか。いつ、というタイミング。そこはもうちょっと出来ればと思う。自信がある時はボールを動かせる。前プレを受けすぎた印象はある。もっと余裕を持って動かしたら良い場面もあった。ミスしても別に取り返したらいい。その辺で自分を(ビルドアップに)入れながら、数的優位をどんどん作る。そこの出口を見つけながらやっていくのは必要かな」

 昔話をしたいわけではないのだが、中村憲剛や大島僚太が中盤に同居していた時期は、中盤でプレスの矢印が出るように相手を動かして、そこをひっくり返すという駆け引きもよくしていた。ボランチ同士で横パスを繰り返すことで相手がボールを奪いにくる状況、つまり、矢印を出す状況を作って、その瞬間にワンツーで外せば相手を出し抜けるからだ。

 現在は、後ろからのビルドアップやそういう駆け引きも含めて、なかなか相手を動かすことができていない。だから、プレスにも捕まる側面もある。

でも、問題はそれだけではなかった。

もう少し具体的に掘り下げていこう。

※3月28日に追記しました。→■「リフォームではなく建て替え」、「一つ勝てば、チームの雰囲気も変わる。周りの見方も変わる」、「一つ獲れれば、二つ目、三つ目は早いぞ」。庄子春男前GMの言葉で振り返る、川崎フロンターレにおけるチーム作りの歴史。

■「今日は(後ろが)3バックっぽくなって、山根視来くんが中に入ってボランチ3枚のようになる。そこで中を使いながら展開していく。それが自分たちの理想ではあるのだけど・・・・」(大南拓磨)。窮屈なビルドアップはなぜ起きた?

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