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「真夏の女神」 (リーグ第24節・横浜F・マリノス戦:2-1)

 等々力陸上競技場での横浜F・マリノス戦は2-1で勝利。

 首位との直接対決を、あまりに劇的な展開で勝ちました。前半終了間際に追いつかれても、慌てず、騒がず、たじろがず。一進一退の攻防が続く後半、木村博之主審が負傷交代するというアクシデントがあった中で迎えたアディショナルタイム8分のラストプレーでした。

 右サイドからボールを運んだ家長昭博は緩急をつけた切り返しで、左足でクロス。ときに気まぐれなサッカーボールが、緩やかに、しかし明確な意思を持ってゴール前に。

そこに飛び込んでいったのは、全身を攣っていたことで前線にいたジェジエウ。打点の高いヘディングでポストに当てながらねじ込んで、この死闘に終止符を打ちました。

頭でボールをねじ込んだというよりも、タマシイでねじ込んだような一撃。

・・・うわぁぁぁぁーー!!!!

 地鳴りのような轟音が響き、等々力が揺れていた。人は嬉しすぎると、歓声を通り越して声にならない声が出るというか、スタジアムにはいろんな感情が爆発していました。

 僕がいる記者席の前のエリアは、メインスタンドのサポーター席だ。
全員総立ちだった。ガッツポーズする人、拳を突き上げる人、とにかく拍手しまくる人、みんながタオマフをぶん回して、喜んでいた。どちらかといえば大人しくて行儀の良い層がいる座席なのだけど、若い男性サポーターは、アウェイゴール裏に向かって、「どうだ!」と言わんばかりに2-1のスコアを指で作っていた。

 スタジアムのボルテージが最高潮に達する中、殊勲のジェジエウはというと、Gゾーンではなく、逆側のメインスタンドに走っていくのが見えました。僕のいる記者席からは、彼の姿がどうなったのかは見えない角度です(あとで映像で確認したら、サポーターにもみくちゃにされていた)。

なので、その間はピッチにいる選手たちの振る舞いに目を向けていたのだけど、センターサークル付近で倒れこんでいる選手が目に止まった。

 谷口彰悟でした。
チームのキャプテンである彼には、味方がゴールを決めた際には、どんなに遠くてもその場まで駆け寄っていき、セレブレーションの輪に加わるというポリシーがある。

 しかし、この時はその気力も体力すらも残ってないほど、疲れ切っていたようでした。日本代表のキャプテンとして日韓戦を終えて中二日でアウェイ・浦和戦に臨み、中三日でルヴァンカップでアウェイ・セレッソ大阪戦。そしてこれが中三日での首位・横浜F・マリノス戦でした。

 特に過酷だと言われている夏場の連戦、それも緊張感と強度が高い試合を4試合連続でフルタイムで出続けていた。とっくにすでに限界は超えている中でプレーし続けていたのだと思う。もはや意識すらないのではないだろうか。そんな心配すらしながら、彼の姿を追い続けていた。

なぜここまでやれるのか。

谷口彰悟を突き動かしているものの正体は何なんだろうか。

というか、サッカーって何だ。

そんな大げさなことまで考えてしまった。

きっと、誰もが何かを噛みしめた真夏の夜になったと思う。

そしてジェジエウのあのゴールは、きっとみんなの心に矢のように突き刺さったと思う。心に刺さると、なかなか抜けないんだよね、あの矢は。

■「ロングボールを普段のショートパスのような感覚でしっかりとつなぐというか、それがひとつの形になればすごく有効な手段になります」(鬼木監督)。前半から積極的に選択したロングボール。意図して相手を引き出しながら繰り出した攻撃の狙いとは?

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