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「そしてサッカーを作る」 (リーグ第4節・名古屋グランパス戦:1-0)


「ホームゲームで勝つというのは、そのチームがホームタウンに払うべき家賃のようなものである」

 そんなフレーズを、昔に何かの記事で読んだ記憶がある。確か浦和レッズ関連の記事か何かだったと思う。当時「なるほど、そういう考え方もあるのだな」と思ったものだ。

 この日、名古屋グランパス戦の勝利で、川崎フロンターレはホームゲームで25試合連続負けなしとなった。浦和レッズ、ガンバ大阪が記録したJリーグ最多記録に並んだ。次のホームゲームで負けなければ、Jリーグ新記録だ。

 「等々力で負けてはいけない」

 自分が川崎フロンターレーを取材し始めてから、その言葉を最初に聞いたのは、たぶん伊藤宏樹さん(強化部)だ。

 2001年から川崎フロンターレ一筋でプレーしていた彼は、J2リーグで戦い、等々力の観客もまだ3000人ぐらいの時代も知っている。「あのときの目標は、J2優勝と等々力を満員にすることだったからね」と、当時を懐かしんでくれたこともある。

 その後、J2優勝、J1昇格、ACL出場、J1優勝争いなど、クラブが急激に成長し続けた時期を肌で知る彼が口にしていたのが「等々力で負けてはいけない」という言葉だった。

  実際、等々力では簡単には負けなかった。

J1優勝争いを初めて演じた関塚隆監督時代には、中村憲剛のスルーパスにジュニーニョが抜け出す高速カウンターでゴールを量産。守っては伊藤宏樹、寺田周平、箕輪義信の川崎山脈で相手の攻撃を弾き返し続けるのが必勝パターンだった。

 先人たちによる「等々力で負けない」というハートは、それから「等々力なら何かを起こせるんじゃないか」という熱をこの場所に生むようになり、試合終盤の「等々力劇場」も生み出してきた。この時代からの雰囲気なのだから、一朝一夕で作り上げてきたものではない。

「等々力で負けてはいけない」

そんな伊藤宏樹の意思は、中村憲剛にしっかりと受け継がれた。等々力劇場を何度も経験してきたバンディエラは「等々力には神様がいる」と口にすることもあった。

そして中村憲剛が引退して迎えた最初のシーズンとなった2021年にホームゲーム無敗を達成。そしてシーズンをまたいだ2022年、ついに25試合連続負けなしである。

「等々力で負けてはいけない」

現在、その意思を継ぐものであるキャプテンの谷口彰悟は、その思いをこう口にした。

「記録ありきでやっているわけではないですが、自分たちのホームは何が何でも勝たないといけない。なおかつ、負けてはいけない。そういうスタジアムや、そういう場所にしたい。それは選手もそうだし、監督、スタッフを含めて、そういう思いで取り組んでいます」

 等々力で負けない理由を科学的に証明するのは、たぶん不可能だろう。でも、うまく説明できないところに、積み上げてきたことの強さがあるような気もする。

谷口が言葉を続ける。

「今日も苦しい時間帯がありましたが、等々力に来てくれたサポーターの皆さんにパワーをいただけるというか、頑張れる要因になっている。みんなで作り上げていく空間だと思っているし、これからも続けてやっていきたい。ここに乗り込んでくるチームが、等々力でフロンターレとやるのは絶対に勝てないよ、無理だよと思わせる場所にしたいし、そういうチームになりたい」

そんな思いを聞くと、いつもとは少し違う味のする勝利だったような気もする。

■(追記:3月15日)。麻生取材で感じたこと。「川崎フロンターレのサッカーは、どこで作られているのか」という話。

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