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「ボクらの新しい歴史」 (カタールW杯GS第1戦:日本代表 2-1 ドイツ代表)

ハリファ国際競技場で行われた日本代表対ドイツ代表戦は2-1で勝利。

 1点ビハインドで迎えた75分、三笘薫が起点となり、南野拓実の折り返しをGKノイアーがかき出すと、詰めていたのは堂安律。同点となるゴールネットを揺らしました。

 そしてその8分後に逆転弾。後ろからのロングボールを、浅野拓磨が最高としか言いようがないボールコントロール。そこからドリブルを仕掛けて世界屈指のGKであるノイアーも防げない肩上コースを打ち抜きました。

 決めた浅野に絶妙なロングフィードを届けたのは、右センターバックの板倉滉でした。

 浅野拓磨と板倉滉。
この2人は、リハビリで長く戦線離脱していた2人でもあります。11月1日の本大会のメンバー発表時に名前はあったものの、本大会までにコンディションがどれだけ戻っているのかが不安視されていた存在でもありました。スラムダンクの田岡監督(陵南高校)の言葉を借りれば、日本の不安要素でもあったはずです。

 でも、日本の歴史的勝利を生む決勝弾をもたらしたのは、この2人。田岡監督(陵南高校)の言葉を借りれば(2回目)、日本の不安要素にもなりかねなかったこの2人が、実はドイツの不安要素にもなっていた・・・・というのが、こういう舞台で勝負を分けるのが面白いところです。

 逆転後、アディショナルタイム(7分)も含めて、最終的に残り時間は約15分ほどありました。

 果たしてドイツ相手に日本が守り切れるのかどうか。

 実は過去のW杯で日本代表が逆転勝ちをした経験はありません。
そもそも逆転した展開自体が非常に少なくて、2002年の初戦ベルギー戦で稲本潤一のゴール以来、20年ぶりの逆転劇だったんです。この試合では逃げ切りに失敗し、2対2に終わっています。

 前回のロシア大会では、ベルギー代表相手に2点のリードを守り切れませんでした。

・・・・あれから4年。今度は逆転してから勝ち切れるかどうか。言い換えれば、「W杯で自分たちの新しい歴史を作れるかどうかを、まるでサッカーの神様から日本代表は試されているような時間帯が始まりました。

 そんな未知の領域であるピッチから伝わってきたのが、日本の選手たちのたくましさです。身体を張って身を投げ出し、そして集中を切らさずに守り続ける。ピンチでも決して慌てない。ベンチにいる控えの選手たちも、ワンプレーごとに大きくガッツポーズし、ピッチにいる選手たちにパワーを与えていきます。

そしてドイツの猛攻を丹念に跳ね返していく守備陣の1人には板倉滉がいました。

 優勝候補のドイツの勢いを真正面から受ける展開。たったひとつのミスが試合の流れを悪化させかねない局面でも、その重圧に決して負けない。ミスも恐れない。オランダやドイツでの経験の集積を、日本代表というチームで堂々と表現し続けていて、その光景に僕はひどく感動していました。

 川崎フロンターレを長く取材している自分にとって、板倉滉はプロになった2015年から見続けてきた選手です。

 プロになったばかりの18歳の彼にロングインタビューする機会もありました。その時の昔話を少しさせてもらいます。

 新人として意識して取り組んでいるメニューを聞かせてもらったときに感じたのは、身体作りを含め、自分自身の現状をしっかり認識して、先を見据えて取り組んでいる選手だということ。天才肌ではなく、コツコツと積み上げていく努力肌のタイプである彼は、プロになってから感じた周囲との力量の差も、想像していたよりも遥かに大きかったと話していました。

「試合に出るという目標はありますが、まわりのレベルが高いですし、自分に足りないところもわかってきているので、まずは焦らずにじっくりとやっています。毎日『慌てるな。落ち着いて。今、やるべきことはやる』と自分に言い聞かせています」

 そうやって麻生グラウンドでやるべきことをコツコツとやり続け、2年目にはプロ初先発を果たしています。川崎での公式戦初出場は、2016年の5月、ヤマザキナビスコカップ・グループステージ第6節・ベガルタ仙台戦でした。

「滉機到来!見せてやれ川崎魂!!!」

これは試合前のウォーミングアップに出てきたとき、Gゾーンのサポーターから板倉に向けられた激励の横断幕です。好機到来のコウと、板倉滉のコウがかかっているわけです(説明せんでいい)。

「試合前のほうが緊張していました。サポーターが横断幕を出してくれたし、それで鳥肌がたった」(板倉滉)

 大事にしていた試合の入り方ですが、「一発目にガツンといきたいですね」との公言通り、ウィルソンに対して後ろから強く「挨拶」にいくなど、気合いも十分。空中戦での競り合いでは安定感があり、ディフェンスラインの背後を突かれたときは井川祐輔のカバーリングをこなし、試合終盤に谷口彰悟が入ってからは、ボランチとして最終ラインの前で防波堤として相手の攻撃を弾き返し続けました。先輩たちのサポートも受けながらやり切り、デビュー戦は勝利を飾っています。

 あのデビュー戦から6年半。
W杯の舞台で日本代表のスタメンとしてドイツ代表相手に渡り合っている板倉滉の姿がありました。

悔しい思いもたくさんしてきた彼が、海外に渡ってずっと積み上げてきたモノ。それがあのピッチで表現されているのだと思うと、冷静に跳ね返し続ける姿がとても
頼もしく、そして尊く見えました。

 さて。
では、試合を振り返っていきたいと思います。

■意外だったゲームプラン

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