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「小さな歴史の詩」 (リーグ第26節・アビスパ福岡戦:4-1)

ベスト電器スタジアムでのアビスパ福岡戦は4-1で勝利。

去年、開幕から負けなしだった中で初黒星を喫した場所で、大量得点での白星を飾ることができました。

キックオフ時の気温は31.1℃、湿度は78%。記者席から観戦しているだけでも汗がまとわりつくような蒸し暑さだったので、ピッチで走り回る選手たちは息苦しさを感じながらプレーしていたのではないでしょうか。

 この日の主役は、なんといってもハットトリックを達成したマルシーニョです。

 この日はミックスゾーンが設置された試合でした。
遠目の柵越しではありしたが、選手と対面でやりとりが出来たのですが、ミックスゾーンに現れたブラジル人ドリブラーは、プロになって初めてだという1試合3得点に「ちょっと自分でも感動したような瞬間でした」と感慨深そうに話してくれました。

 直近の試合(ルヴァンカップ準々決勝2ndレグ・セレッソ大阪戦:2-2)では2得点を決めたにも関わらず、ヒーローになり損ねましたからね。マルシーニョの幸せな表情がみれて、こちらも幸せな気持ちになりました。

 そしてこのベスト電器スタジアムでの勝利は2006年以来、16年ぶりだそうです。僕が川崎フロンターレを取材するようになってから、この地で勝利したのを見るのは初めてでもありました。

クラブ在籍歴が長い選手もしかりで、試合後のチョン・ソンリョンは「福岡に遠征に来て、いい記憶がないので」と苦笑いの表情を浮かべていたのが印象的です。

彼は「最初は風間監督のときに優勝を逃した時でしたが・・・」と話していたので、その脳裏に浮かんでいたのは、去年の敗戦よりも、2016年のことなのでしょう。

 2016年は、勝てば初優勝の可能性もあった1stステージ制覇をかけて乗り込んだ一戦でした。ところが久しぶりの優勝争いのプレッシャーと緊張からか、チームの動きが固く、最下位のアビスパ福岡に立ち上がりに2点を先行される苦しい展開に。何とか首位の意地を見せて追いつくも、痛恨のドロー決着。土壇場で鹿島アントラーズに首位を譲る結果となり、結局、1stステージ優勝にも届きませんでした。大一番でデリケートなメンタルや勝負弱さを見せてしまう・・・・そんな苦い記憶が残った場所でもあります。

 そう考えると、現在の川崎フロンターレというチームは随分とタフな集団になってきたものです。前節の横浜F・マリノス戦では、大一番での勝ち切る勝負強さを示しました。この福岡戦も試合直前のメンバー離脱や、試合中には大黒柱のレアンドロ・ダミアンが負傷交代するアクシデントが起きたものの、終わってみれば大量得点での勝利。

 そうしたたくましさは、経験によるものだとソンリョンは言います。

最近はチームの中でもコロナがあったりで難しい状況がありましたが、それも一つの経験だと思います。誰が出ても誰がどのポジションをやったとしても、チームとしてできることをみんなが信じていると思います」

 リーグタイトルを獲ってきたことも、大きな経験の一つでしょう。色々な経験を確かに積み上げてきたからこそ、ちょっとやそっとのアクシデントでも崩れないチームになってきたのだと思います。この地での16年ぶりの勝利は、そんな強さを示した試合でもあったと思います。

 そしてもう1人。
この日のメンバーで、クラブの歴史を最も知っているのが小林悠です。

2010年から在籍している彼は、2011年の逆転負け(夏場の8連敗)、2016年の痛恨のドロー、2020年の初黒星と、このスタジアムで刻んできた歴史をピッチで体験している存在でもあります。

ちなみに2011年と2016年ではゴールを決めており、去年の初黒星直後に迎えた札幌戦でゴールを記録。試合後にこのストライカーが残したフレーズが「フロンターレは死んでいない」という言葉でした。彼にとっては、このスタジアムで4度目となる試合での初勝利です。

試合後のミックスゾーンで、少しやりとりをさせてもらいました。

■「それは覚えています!」。鬼門ブレイカー・小林悠が口にしたストライカーとしての記憶に思うこと。

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