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「逃げたりしない」 (リーグ第7節・ジュビロ磐田戦:1-1)


 92分に訪れたセットプレーのチャンス。
そのボールがクリアされた後も、ロングボールをめぐる攻防は続いていた。

1点のリードを守るジュビロ磐田は必死だ。人垣を築いて、川崎フロンターレのパワープレーを粘り強く跳ね返していく。だが王者もなりふり構っていられない。カウンターになりそうな場面をギリギリで凌ぎ、1点をもぎ取るためにゴールに殺到していく。

 ターゲットはレアンドロ・ダミアンと知念慶の2人だ。
攻防戦が続く中、右サイドのペナルティエリア外で起点を作りながら、家長昭博が得意の切り返しからクロスをあげる。ダミアンの頭上を大きく超えていったボールを、空中で競り合いにいったのは知念慶。競り合いながら頭に当てたボールは、頭上に高く舞い上がっていた。

 その落下地点にいたのは、なぜか山村和也だった。
このアディショナルタイム中、ロングボールの3番目のターゲットとして、センターバックの彼が攻め残っていたのだ。セットプレーが終わった後も、味方がセカンドボールを回収するたび、自陣に戻りかけてはやめ、何度も敵陣のゴール前に向かっていた。

 ただ知念慶が空中で競ったボールのリバウンドは、相手GK三浦龍輝の守備範囲だった。山村和也はカバーに入る相手選手にしっかりブロックされる体勢となり、GKと競り合いにいくそぶりすら見せていない。

 ところが、このボールを三浦龍輝がまさかの落球。
試合中、冴え渡るセービングを見せてきたGKが掴み切れず、相手選手ともつれていた山村和也の背中にボールが溢れてきたのだ。舞い込んできた幸運を見逃さなかったのは知念慶。そのまま左足で流し込んでゴールネットを揺らした。

 敗色濃厚だった展開での同点ゴール。
GKのミスによって生まれたゴールだったことを思うと、まるでアウェイでのガンバ大阪戦を思い出すような土壇場での同点弾だ。

 どちらも「幸運だった」としか表現するしかないような気もするが、そんなに偶然ばかりが連続するものだろうか。

 サッカーにおけるそうした要素に関しては、試合翌日の鬼木達監督が興味深い話を述べていた。

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