ヘレディタリー/継承 やっと観た。

はじめまして、こんにちは。
ライターとして活動しているあけぼのばしです。
立て続けに映画を観たので、感想を書いていきたいと思います。
備忘録みたいなものなので、監督や作品のファンの方は読まない方が良いと思います。

タイトルにあるように、今回はアリ・アスター監督の『ヘレディタリー』です。


思っていた以上に「ほぅ…なるほど」という感心するレベルの内容でびっくりしました。不気味さ・気持ち悪さ(生理的な)・不条理さ・不健全さ…など、人の不快な部分を刺激する演出やストーリー展開が目まぐるしく、特に前半部分は非常に良いと思います。しかし、後半に差し掛かるといわゆる“ヒトコワ”から“オカルト”的になっていき、ブラックコメディ化していくのが気になってしまいました。海外のホラーはほとんどがスプラッタか悪魔で怖がらせるスタイルなので、正直「例に漏れない」という肩透かし感がありました。
『ミッドサマー』が明らかにカルト宗教的な設定だと知っていたので(後の作品だけど)、まさか『ヘレディタリー』も悪魔崇拝のカルト信者が関わってくる展開なのか…と。
“生きている人間が怖い話”だと思って当初視聴していたので、私にとってはそのギャップが良くなかったんだと思います。
高速ヘドバンもクスッとしてしまい、序盤のおぞましさと気持ち悪さと緊張感がラストまで続いてほしかったですね。
つまるところ、私が悪魔をいまいち身近に捉えられないことにも原因があります。あと、海外の悪魔崇拝者のガチな感じがあんまり飲み込めません。
ホラー好きがわりと絶賛していたので、期待値を上げすぎたかな。


さて、肝心なストーリーの考察ですが、公式サイトにあるのでいらないですね。
なんとなく考えたことだけちょこっと書いておきます。
ネタバレあるので、映画を観てから読んでください。


まず私が真っ先に気になったのはピーターです。明らかにスティーブとアニーとの血の繋がりを感じないような俳優があてがわれています。
ブログなど書かれている方が「他の男の子ども(シングルマザーのアニーとスティーブが結婚したのか、不倫したのかは謎)なのでは」と考察していました。まあ、あれだけ見た目が違うのだから当然でしょう。
しかし、私としてはそれは違ってほしいなと思っています。スティーブとの子どもなのに、明らかに異質な子が産まれたという状態だから家族にしこりが残るし、なんならDNA鑑定も受けていてほしい。その上で「絶対に私たちの子どもなのに何かがおかしい」と解釈する方がより怖さが増すかなと思いました。
また、アニーはピーターがお腹にいる時に堕胎しようとしていたことを告白しています。これは、アニーが子どもを愛せないのではなく、本能的に悪魔に対して抵抗し続けていたことの証明と言えるでしょう。愛する気持ちはちゃんとあるのに、本能が拒絶する……。母親から見ても子どもから見てもこんなに辛いことはありません。

そんなアニーですが、実は夢遊病に悩まされており、全体を通して精神的に不安定で感情的でやや狂った母親として描かれています。夢遊病を発症していた時に、子どもを殺そうと試みていた事実も明らかになりますが、やはり無意識下で悪魔(とその器)を葬らねばと思っていたのでしょう。そのことも相まって、チャーリーからもピーターからも信用されていません。
子どもたちだけでなく視聴者も、落ち着きがあって理性的な父スティーブがまともだと思わせるように描かれます。いやまあ、スティーブが常識人なのはラストまでひっくり返りませんが、ピーターがそもそも悪魔の器として誕生し、一家に呪いがかかっていたことが判明すると、狂っている母親だったアニーが“継承”の運命から逃れられなかった悲しい被害者に見えてきます。
しかし、結局は、チャーリーの死をきっかけにアニーは降霊術に魅了され、チャーリーに会いたいがためにまんまと悪魔・ペイモンを召喚。そして術式が完成してしまうというのが皮肉なポイントですね。

アニーに降霊術を教えたジョーンは、ずいぶん昔からアニーの母親と親交があり、カルト信者であることが判明します。
一見すると親身になってくれる優しそうな人には要注意という警告かもしれません。
果たしてカルトにハマる人は、最初からお節介なくらい親切な人なのか、ハマった後にどうしても人に“教え”を説き、引き込みたくなるのかどちらなんでしょうか。
悪魔に操られているより、自ら進んで行動している方が邪悪さがマシマシになると思いますが、作中では特に言及はなかったと思います。

そして、“ヘレディタリー”の意味ですが、“継承”なのでまんまですね。前半では何を“継承”してる(しちゃう)んだろうとワクワクしましたが、蓋を開ければ悪魔でした。
先祖からカルトを“継承”してきたことと、悪魔を“継承”すること、そしてこれからも“継承”されていく運命にある……。
そういった部分は素晴らしく、しっかりとげんなりさせられました。
それから、拍手喝采したいのがチャーリーです。
よくこんな独特な雰囲気の女の子がいたな、という。チャーリー役のミリー・シャピロがMVPでした。チャーリーは、行動も悪魔的(一応、仮の器的な役割があり、取り憑かれた状態で誕生している)なのはもちろんですが、とにかく顔が怖い。アニー役のトニー・コレットもまあまあ怖くて、女性に関する何らかの呪いが“継承”されていくというお話なのだと、勝手に思い込んでいたくらいです。
顔が怖いとか血が繋がってなさそうといったことがきっかけで、家族内でも差別や偏見って起こるので、あえて悪魔っぽい配役にしてみせて、実はチャーリーは普通の子だったことがわかる…という方が胸糞感があるし、そっちを狙ったのかと思ってしまいました。
しかし、シンプルだった。
ミニチュアやカメラワークなどの演出や音響が良かったので楽しめましたが、ストーリーとしてはまあまあ。

ちなみに、アニーの血筋であるグラハム一族は、昔からペイモンの霊媒として機能しているらしいのですが、回りくどくないですか?
いちいち儀式してからじゃないと人に乗り移れない上に、数世代ごとにしか上手くいかないの?と、ちょっと冷めてしまいます。
しかも、そうまでしてピーターにのりうつったところでただカルト内が盛り上がるだけじゃん、などと水を差すようなことを思ってしまったので、私には合いませんでした。

様々な作品や文献を鑑みても、悪魔は契約命なので大変そうです。人間界に降りてくるセールスマンといったところでしょうか。たくさん人の魂や肉体を奪えば、ルシファーに認めてもらえるのでしょうか。もしノルマがあるとしたら結構しんどいお仕事ですよね。何十年もかけてさ。
いや何の話。

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