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ギルバート・オサリバン 2023年来日公演で感じた熱い現役感

 アーティストの多くは加齢とともに新作リリースのペースが落ちてくる。とりわけ70代ともなると、新曲だけのアルバムリリースは十数年ぶりだとか、或いはそれ以上のインターバルを要することも多く、新曲をつくることを辞めてしまうアーティストも少なくない。ベテランアーティストの活動の軸は、過去のヒット曲で構成されたライヴが主となり、創作は途絶える場合が多い。

 そんななか、今年77歳を迎えるギルバート・オサリバンは、精力的なライヴ活動に加え、今もなお、コンスタントなアルバムリリースを続けている。昨年発表された新作『Driven』は彼がまだまだ瑞々しい新曲をつくれることをしめした快作で、年齢を感じさせない軽やかなポップ作品集だ。『Driven』で個人的に最も驚かされたのは「Let Me Know」という曲。その感性はあまりに若々しく、まるでティーンエイジャーのような溌剌さがある。彼のクリエイティヴィティはまったく枯れてなどおらず、その瑞々しさに驚愕するばかりだ。また、KTタンストールと共演した「Take Love」では、ベテランの風格やら貫禄など露ほども見せず、自分の娘のような年齢のタンストールの才能に大きな刺激を受け、それを糧に嬉々とした歌声を聴かせている。老成などどこ吹く風、彼がここにきてここまでアグレッシヴになるとはなかなか信じがたい。


 2018年頃から、彼はビル・シャンリーをサポート・メンバーに従え、2人だけのライヴ・ツアーをおこなっている。これまで親しんできた曲がかたちを替え、違う趣きで鳴らされていること。そしてそのライヴが5年もの間継続し、オサリバン自身にじゅうぶんな手応えを感じさせていること。シャンリーとのコラボレーションが『Driven』という若々しい作品が生み出される背景ともなっているという興味は今回のライヴを観る大きな動機となった。


 オサリバンのリズミカルなキーボードと、シャンリーの温かく豊潤なギターで成り立つライヴ。場数を踏んでいるだけに2人のコンビネーションは絶妙だ。シャンリーのギターの絡みの素晴らしさは想像以上で、彼の演奏が曲の印象を左右し、決定づける、とても重要なものとなっていたのは驚きだった。それがたとえある一定のイメージで固まった昔のオサリバン・クラシックであったとしても、シャンリーはそれを刷新し、新たなインスピレーションを注ぎ込み、そっと差し出していた。その職人技はあまりに的確で、過去の曲をリメイクするというよりも、別次元のものにしていたと言っても過言ではない。

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