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Alan Lancaster逝去と、いま考えるFrantic Four Reunionの意味

 2012年、ステイタス・クォーがとある発表をした。翌2013年、彼らが1977年にリリースしたライヴ・アルバム『Live!』を再現するツアーを行うという。しかもその当時のメンバーが再集結するというのだ。"フランティック・フォー"と呼ばれる4人、フランシス・ロッシ、リック・パーフィット、アラン・ランカスター、ジョン・コグランという、いわゆる黄金期のラインナップがなぜいま集まってツアーを行うのか? 脱退して久しいランカスターとコグランをなぜこのタイミングで呼び戻すのか? 特にランカスターと組むことは、ロッシにとって神経をすり減らすストレスフルなミッションのはず。それを覚悟のうえで、なぜロッシはリユニオンを決意したのか?  いろいろな疑問が頭をもたげてくるが、しかしこれはかつてのハードブギに強い愛着をもつファンにとっては垂涎の企画である。自分にとっても、これは大きなニュースだった。彼らがなぜいま集まるのかという疑問も強く感じつつ、それよりそのライヴがいったいどんなものになるのか、どんなパフォーマンスをみせてくれるのか、そちらの方ばかりが気になった。

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 後日、"フランティック・フォー"・リユニオン・ツアーの日程が発表され、4人の写真が公表された。それを見て驚いた。バンドを離脱してから長らく目にしていなかったランカスターが別人のように変わっていたのだ。かつては、小柄ながらもがっちりしていた彼の頑強な身体はすっかり痩せ細り、髪も真っ白。立っている姿も弱々しくなっていた。なにかの病気だろうか? 過去の不摂生から急激に老け込んでしまったのだろうか? 

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 ツアーが近づくにつれ、ユーチューブなどにリハーサルの様子もアップされ始めた。しかし、そこに映るランカスターはほとんど自分の楽器を弾けていない。現役バリバリのロッシとパーフィットはシャープに演奏している。ランカスターと同じく、元メンバーのコグランは、まだすぐステージにあがれるほどではないが、感覚が戻りさえすればOKといった按配だ。そんななか、ランカスターは動きが心許ない。そのためセッションはヨレヨレだ。はたしてツアーは成功するのだろうか?

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 結果からいうとツアーは大成功に終わった。バンドの音はリハーサル映像とは違いしっかりしていたし、パフォーマンスには迫力も熱気もあった。心配だったランカスターも、かつての力強さは減退していたものの、破綻なく演奏していた。自分の不安を吹き飛ばす、まさにフランティック・フォーここにありといった貫禄のライヴを繰り広げたのだ。
 幸運にも自分はツアー最終盤のハマースミスでの演奏を観ている。このときのライヴ音源はオフィシャルでも出ていて、その模様を追体験できるが、それを聴くだけでもバンドのエネルギーのほどがわかるだろう。しかし実際の音はそれをはるかに上回るものだった。4人の結束したアンサンブルはとても丁寧で、さらにとても誠実だった。特にコグランの、柔らかくうねり、深みのあるドラムと、そこに絡んでいくメンバーのナチュラルな交わりの恍惚はライヴ音源からはなかなか感じとれないものだ。このリユニオンはとても充実していたのだ。

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 ランカスターが多発性硬化症の合併症により亡くなったというニュースを見て、最初に思ったのはそのリユニオン・ツアーでの彼の痩せ細った姿だった。ニュースによると、彼はそのツアーのときにはすでに多発性硬化症を患っていたという。ということは、あのリハーサル映像で見たランカスターはかなり厳しいコンディションで臨み、日によっては相当無理をしていたのだろう。それでもライヴに向けて、相当なガッツをもって演奏に挑んでいた。それがあのときの彼だったのだ。
 当時、彼の病気についての公式なアナウンスはなにもなく、メンバーからもなにも語られなかった。あの身体を見れば体調になにか問題があるのでは? と誰しもが思うだろうが、誰もそれについて話すことはなかった。でも、いまさらながら考えてみるとそういうことだったのだ。

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