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ジョン・オーツがうたう樋口さん

 かつてはクセモノ的存在としてJ1リーグを引っ掻き回してきた大宮アルディージャ。ただ、昨今の低調ぶりはとてもじゃないが見ていられないほどだ。ここ何年かは守備が酷く、得点以上に失点を重ね、なかなか勝ち点を積みあげられない状態が慢性的に続いている。J1昇格どころか、J2からの陥落も危ぶまれるいまの危機的状況にチームはどう対処するのだろうか? はたして救世主は現れるのだろうか?

 などと、”昔はシーズンチケットを買っていたけどいまはまったく試合を観に行かなくなったファン”がなんだかんだ言うのも差し出がましいが、でもこの曲をたまたま耳にする機会があると、つい在りし日の大宮を思い、懐古的な気分に浸ってしまうのだ。

 ホール・アンド・オーツの「Back Together Again」は5枚目のアルバム『Bigger Than Both of Us』収録の、彼ららしいポップなソウル・ミュージック。軽やかで洗練された、フィリー・ソウルそのものといっていい曲には、彼らのルーツとそこに向けた愛情がよくあらわれている。

 甘いムードたっぷりなサックスからスリリングかつ粘っこく煽るイントロ。そこにコーラスが滑り込んでくると、ホール・アンド・オーツ流のソウルポップの始まりである。コーラスの中に溶け込んだホールのヴォーカルはとても控えめ。ミックスの段階で彼の声は低く抑えられ、あえて目立たないようにしている。そのぶん、男っぽく、艶っぽくうたうメインヴォーカルのオーツの存在感が高まり、ホールのコーラスと掛け合うと豊かなソウルポップが芽吹いていく。

 いい曲である。ホールとオーツは対等に、二人の鉄壁のチームワークをみせ、味わい深いポップ音楽を奏でている。ごくごく自然に、ポップ音楽を生み出す二人の才能とその相性の良さを実感するばかりだ。のちにホールの存在感ばかりが目立って、まるでホールの太刀持ちのようになっていくオーツではあるが、実はホールよりオーツの方が自らのルーツに忠実で、それがこういったタイプの曲で浮かび上がってくるのはおもしろい。

 と、聴き進めていくと、オーツが突然、元大宮の監督の名前を連呼するのだ。

 大宮が樋口靖洋監督を迎え入れた時期、自分はこのアルバムをよく聴いていた。オーツがしきりに樋口監督を称えているように勝手に思い込んでほくそ笑んだりもしていた。樋口はけして名将ではなかった。が、策がはまったときの勝ち方はとにかく気持ちよかった。前任のロバート監督の守備理論を基に攻撃サッカーを標榜した樋口采配の爽快さ。それを評価する大宮ファンはそんなに多くはないのかもしれないが、自分はそれが好きだった。

 樋口は、2008年のたった1シーズンでチームを去った。彼はやる気満々で、その次のシーズンのチーム作りも考えていたようだが、フロントはあっさりと彼を切ってしまった。もし樋口があの後も監督を続けていたらどうなっていただろう? 少なくともあと1シーズンは樋口采配を見たかった……。

 そんな自分の思いをジョン・オーツははっきりと口にしている。

”ヒグチサン、ヒグチサン、ヒグチサァン!”


  いまの大宮の状況を横目に見つつ、そんな昔のことを考えていると、そういえばこの曲のタイトルも自分の気持ちにぴったりあてはまることに気づく。

”またもう一回、一緒にあのころに戻ってみようぜ”

ジョン・オーツ、わかってるじゃないか! いや、もちろん曲の由来はまったく別のところにあるのは知っている。しかし、曲は作者の手元を離れたときに聴いた人のものになる。自分にとって、この曲はフィリー・ソウルをベースにした優れたポップソングであると同時に、2008年の樋口アルディージャをあらわす讃歌でもあるのだ。


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