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ジェイムス・テイラーのライヴはすごかった

これほど不安たっぷりで臨んだライヴというのもない。待ち望んでいたステージとはいえ、はたして最後まで楽しむことができるのだろうか。彼の歌すべてをしっかりと感じとることができるのだろうか。それはなんてことはない、個人的な理由によるものである。

この日のライヴに向けて、最近はずっと、彼の曲を聴くようにしていた。朝昼晩と、まとまった時間があればひたすら彼の歌に耳を傾けた。ところが、忌々しいことに、彼の歌を10分も聴くと必ず睡魔がやってくる。それも十中八九などという確率ではない。それは"必ず"やってくるのだ。聴き始めて2〜3曲もすれば睡魔にさらわれ、もう夢の中である。せめてアルバム1枚はとおして聴きたいものだが、それはまず叶わない。どうあがいたとしても睡魔は許してくれず、目を開けていられなくなるのだ。

春になると自分は大抵眠くなる。この時期はどんなタイプの音楽であっても長く聴いていられず、ついつい眠くなってしまう。そんななかでも彼の歌の催眠効果、その即効性は格別だ。彼の歌声にはなんらかの特別な、メディテーションとかリラクゼーションとか、言葉にすると陳腐だが、そんなものがある。春の季節に聴く彼の歌には抗しがたい魔力があって、その心地いい波動に抗おうとしてもそれはなかなか難しい。

そういったわけで不安だったのだ。彼のライヴをはたして眠らずに、通して観ていられるのだろうか、と。


ジェイムス・テイラーの新しいツアー、その初日がこの日の東京公演だった。初日なので当然セットリストはわからない。もちろん定番曲は不動だろうが、それ以外になにがうたわれるのか。オールスターバンドと名づけられたバンドでどういった曲を、どういった演奏で聴かせるのか。興味津々、わくわくしながらこの日を迎えた。気がかりだったのは彼の歌声の調子がどうなのかという点。ネットでここ1年間のライヴ映像をかいつまんでみてみると、日によってコンディションがよくないときもあった。ジェイムスも76歳。年齢からくる歌声の老齢化は独特のコクや味わいを生み出しもするが、それが澱んだり濁ったりしたものになったりするとやはり不穏である。彼のコンディションが気になりつつ、ツアー初日のジェイムスのステージを観た。

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