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宇ち多゛

京成立石の駅前、有名なもつ焼のお店に勇気を振り絞って入ってみた日。
聞いていたとおりまさに初見殺し、違う意味で敷居の高いことこの上ない。

回転が比較的早いので常時行列が出来るほどではないみたいだけれど、店内は常にぎっしりと混み混み。両隣のオジサンたちと肩を擦れ合いながら、なんとか煮込みの大鍋と焼き台の前のカウンターに滑り込ませてもらう。

このお店の高いハードルは、なんといっても注文方法が素人には皆目わからんというところ。
店の壁には「もつ焼(一皿200円)」と書いてあるのみ。 なんの説明もなし。アマチュアには厳しい。

肉の部位(ツル、カシラ、ナンコツ、ハツ、ガツ、アブラ、シロ、レバ)からまずは選択し、焼きか生か(生で出るのはタンナマ、コブクロ、テッポウ、ハツ、ナンコツ、シロ、ガツ、アブラ)焼きならば良く焼きなのか若焼き(レア)なのか、タレなのか塩なのか、或いは素焼きお酢、素焼きお酢入れないで、ミソなのかを、まるで呪文のような節回しでよどみなくコール(注文)しなければならないのだ。

例えば「レバタレ、良く焼きとアブラを若焼き、お酢で」みたいな感じで。



席に着くなりお飲み物は?とすぐ聞かれ、これまた即座に答えなければならないが、お肉同様に壁には「ウーロン茶、サイダー、宝焼酎、電気ブラン、蜂ぶどう酒、清酒一級、清酒二級、ビール小、ビール大、ウイスキー」としか書いていない。これまたなかなかハードルが高い。

とりあえず、じっとビールの小瓶を手酌で呑みながら、もつ煮(これもまたマニアックな注文方法があって、「ハツ元のとこ掬ってくださいとかフワ入れて」みたいな)をつつき、周りの常連客たちの注文方法にひたすら耳を澄まし、その法則性とルールを頭に覚え込ませることにした。

心地よい酔いとともに、だんだんその法則が頭に入ってじんわりと沁みてくると、最初はなんだか違和感があった店内の雰囲気や、疎外感や賑やかな下町の空気が、徐々に自分の身体に馴染んでくる感覚があって、ある種の一体感みたいなものを感じはじめる。

これはドリンカーズ・ハイか。(いやただの酔っ払いだ)


店の規模に対してビックリするほど小さな焼き台では、光浦靖子的なメガネの女性が1人で超人的なペースで怒濤の注文を一心不乱に焼き続けている。いやはや、凄いお店だなぁ。恐れ入りました。

しどろもどろながらも、ちゃんと注文が店員さんに伝わるようにできるようになり、もつをほうばりながら、宝焼酎の梅割りをいただく。
一升瓶を小脇に抱えてきて、分厚いガラスのグラスに、受け皿までこぼす勢いでそそがれ、その上にちょろりと色が付くか付かないかくらいの梅シロップを垂らされる。
まあ、ようするに焼酎原液ですわ、なんにも割ってない。これは回ります。


いい気分でお店を出て、まだ明るい駅周辺をふらつく。
楽しい、立石、呑んべ横丁、本当に楽しいなぁ。

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