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オールの小部屋から⑯ 高校生直木賞について

 ようやくオール讀物新年号を校了しました!
 雑誌って、現実の発売日よりも少し先の日付を表示するのが慣習になっていまして、12月21日に発売するオール讀物は、まだまだ年内なのですけれども【2024年新年号】ということになるんですね。

オール讀物2024年1月号の表紙

 実は、日本雑誌協会の定める「雑誌作成上の留意事項」というルールがあり、月刊誌については「16日発売日以降は2か月先までの月」までに限って月号を表示する、と決まってるんです(つまり12月21日発売の号は12月号でも1月号でも2月号でもOK。でも12月号と表記すると発売されて10日で年が明けてしまい古く感じられるし、2月号だとあまりに先すぎるので、ほどほどに新鮮な感じを出して1月号としているのだと思います)。
 新年号は「読書で元気!」特集と題して、佐藤愛子さん「しつこく生きている」五木寛之さん「活字は孤独の特効薬」東海林さだお×東海林さだお「オレオレ対談」といったお正月らしい愉快な随想・対談が満載。
 小説の目玉は、伊坂幸太郎さんの三越350年コラボ「Have a nice day!」、読むだけで幸運が舞い込む髙見澤俊彦さん新作短編「偏屈王」と、縁起の良さそうな2作が揃いました。

新年号の目次です

 1つ1つの企画については、また改めてご紹介します。今回は、目下、第11回の参加校を大募集中の「高校生直木賞」について。
 ポッドキャストから書き方講座まで、いろんなことをやっているオール讀物編集部。実は、高校生直木賞の事務局もやっておりまして、私、校了のあいまに高校生直木賞実行委員会の「収支決算書」「活動報告書」さらに来期の「予算書」などを作っておりました。
 高校生直木賞? 何それ? という方もおられると思います。今年で10年目を迎え、北海道から九州まで43の高等学校、のべ数百人の高校生が参加する、けっこう大きな読書イベントです。高校生の書いた小説を審査するのではありません。現実の直木三十五賞の受賞作・候補作(つまり書店に並んでいる小説の新刊)を高校生たちが読み、みんなで議論して「自分たちなりの1作」を選んでいく試みです。
 今年5月に開催された全国大会では、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』を第10回高校生直木賞に選び、8月には凪良さんを招いて夏休みイベントを開催。凪良さんと講談社の河北荘平さん(小説現代の編集長)とのコンビで、貴重なお話を高校生たちに聞かせていただきました(詳細はオール讀物11月号に掲載)。感激のあまり涙を浮かべる生徒さんもいて、私たちも胸がいっぱいになりました。

第10回高校生直木賞 全国大会の様子(©文藝春秋)
休憩時間も学校の垣根をこえて議論が続く(©文藝春秋)

 賞の準備や運営は本当に大変で、何度も「今年で辞めよう」と思いつつ、それでも続けられているのは、応援してくれる賛助会員企業のみなさんの熱意に加え、毎年、高校生たちの議論を聞くのが本当に刺激的だからです。私たちのほうが勉強になるんですね。
 第10回を記念した冊子をいま作っているのですが、こちらの〝あとがき〟に寄稿した文章を、ここでご紹介します(記念冊子は関係者限定配布なので)。

「高校生直木賞」の魅力とは何でしょう。
「本について語る」イベントとして「ビブリオバトル」がありますが、こちらは基本的に本の魅力を一方的に発信するものです。発信者のプレゼン能力が、見どころ、聞きどころと言えます。
 いっぽう高校生直木賞は、参加者全員が候補作すべてを読み、各校内で議論を重ねた上で代表者が集まり、一作ずつ順番に議論の俎上にあげます。ですから、「誰かが話して終わり」ではなく、肯定的な意見であっても否定的な意見であっても(発信者のプレゼン力が低くても!)みな丁寧に耳を傾け、それに対するリアクションが必ずあります。
 一冊の本に対する意見は、人によってびっくりするほど違うことがあります。同じ点を指摘しても、それをどう評価するかで正反対の感想が出てくる。自分とはまったく異なる〝読み方〟に接することで、参加している生徒は驚愕し、時には目に涙を浮かべて反論したり、逆に意見をガラッと変えて賛同したりして、さらに議論は続き、深まっていくのです。
 たとえば、ある歴史小説についての議論で、「ちょうど授業で習ったところだから面白く読めた」と、高校生らしい素朴な意見が出たことがあります。
 すると、「たしかに『プロジェクトX』みたいに面白く書かれているけど、それは歴史の題材の面白さであって、小説の面白さとは区別するべきではないか」と言う生徒が出てきます。そこから「高校生直木賞では〝題材の面白さ〟を評価するのか、それとも〝どう描いているか〟を評価するのか」といった、小説の読み方そのものに関わる問いが投げかけられたりします。
 さらに、「歴史を描くことの中に、現代の私たちに通じるメッセージが込められているのがいい」という意見に対し、「小説は何かを訴えるための道具ではない」と反論が出たりもする。
 当然、どちらが正しいということはなく、参加している高校生たちが議論を重ね、そのつどの答えを探していくことになります。
 こういう議論は実にスリリングで、聞いているとあっというまに時間が過ぎていきます。そして往々にして、最初の評価とはちがった結論が出ることになるのです。
「読んで終わり」ではなく「その先」まで。感想を同世代の高校生と語り合い、考えを深めたり、感動を新たにしたりするところまで含めての高校生直木賞。
 多くの方の力を借りて、十回まで続けることができました。心からお礼を申し上げます。

高校生直木賞実行委員会編「高校生直木賞の10年」より

 初期の高校生直木賞OB・OGはもう社会人です。参加をきっかけに活字にかかわる仕事に就きたいと思い、新聞社や出版社に進んだ子がいます。昨年にはついに作家が誕生しました。17歳で第3回京都文学賞(中高生部門最優秀賞)を受賞し、『ちとせ』(祥伝社)を上梓した高野知宙さんです。
「なかなか学校に来られなかった生徒が、高校生直木賞の議論には『みんなと本の話がしたい』と、頑張って参加していました」
「全国大会で他校の生徒と議論して刺激を受けたみたいで、『あの子たちと大学で再会してまた議論したい』と、急に受験勉強に取り組み始めました」
 など、先生からもいろんな声が届きます。
 どうですか? これを読んでくださっている高校生(あるいは先生)がいたら、高校生直木賞に参加してみませんか。
 来期の募集は、2024年1月12日(金)締切なので、もうあまり時間がありませんが、本を読んで議論する仲間が複数いればOKです。あとは監督、引率してくれる先生または司書の方をひとり見つけましょう。
 応募は、高校生直木賞公式サイトから簡単にできます(先生に申込みをしてもらってください)。
 次回が難しかったら、次々回からでも。ぜひ、多くの高校生のみなさんにご参加いただきたいです。最近では、大学推薦入試の活動実績にもなっているようです。立派な自己アピールになると思いますよ!

(オールの小部屋から⑯ 終わり)

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