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演歌バッグ購入記(3)最終回

前回の続きです。
今回はいよいよ購入編です。

2023年12月24日。
約束の時間に伊勢丹3階のサンローランに到着した。

前回対応してくださった方が、私の購入するバッグを手に忙しそうにしていた。
「今スクラッチの部分をアレしてますのでお待ちください」

ちなみに彼女は中国の方で、対面で話す時のイントネーションや、ショートメールでのやり取りでも片言の日本語やたまに混ざる英語が可愛い。サイトで見たジュエリーを試着させてもらったり、水をもらったりして待っていた。

サンローランの水は味がなくて美味しい。

実は最初に試着させてもらったとき、スレがあるな、と思っていた。
ガールズさんのnoteで、購入前に傷や汚れがないかチェックして、取り替えてもらったという記事を何度も読んでいた。
しかし、伊勢丹新宿店にはこれが最後の一点と聞いていたので、私は買うならこれを買うしかないのだ、と思っていた。
とはいえ、バッグは店頭に並んだ瞬間に経年変化が始まるものだと思っているし、細かなスレなのでそこまで気になるわけではない(気にする人は嫌かも)し、使い込まれたヴィンテージ感はむしろ大好きなので、仕方ないと思っていた。
それよりもスレがあるというだけでこのバッグを逃してしまうことの方が嫌だった。
それなのに磨いてもらって、スレが消えるかもしれないのはありがたいな、と思って待っていた。

30分くらい待った後、
「スクラッチが思うように消えないので、他店から取り寄せるので見比べてもらえないか。到着までは1時間半かかる」
という内容を伝えられた。

確実にその日演歌バッグを買うつもりで来たので面食らった。
後に時間の決まった予定があったわけではないが、早めに帰って翌日納品の仕事を仕上げようと考えていた。帰宅が遅くなるのは都合が悪い。
もしかして、これは今日買うべきではないというサインでは? とも思った。
しかし、もう買うと決めたし、今日買わないと二度とこのバッグは買わなくなる気がした。仕事は今晩徹夜でもして明日の朝納品しよう。1時間半後、また戻ってくることにした。

移動中考えていた。
ハイブランドの常識はわからないが、磨く必要があるとわかっていて、私が来店する日がわかっているのならそれまでに磨いて準備しておくべきではないだろうか。

ここ数年、同じ気持ちになることが何度かあった。
予約したのに忘れられたり、予約を直前で変更されたり、店頭で長時間待たされたり。要は、客として蔑ろにされている。私にも何か問題があるのだと思う。ハイブランドでも同じなのかと思うと涙が出て来た。やはり今日は買わない方がいいのではないだろうか。

合間の時間に向かったのは、銀座三越だった。
ちょうどその時、激推しジュエリーブランド、mmm jewelryさんがポップアップで出店していた。
本当はバッグを購入した後にお邪魔する予定だった。
気になっていたイヤークリップ、ピアス、リングを試着させてもらった。なんと自問自答ガールズのゆとりさんにもお会いすることができた。
これから演歌バッグを買うことをデザイナーの茉莉華さんに言うと、エムアイカードの入会をおすすめしてくださった。

エムアイカードの入会手続きが終わり、茉莉華さんにご挨拶をして新宿に向かおうとすると、バッグの到着を知らせる連絡が入った。全てのタイミングが完璧すぎた。

移動中また考えていた。
もともと在庫がなくて比較できないと思っていたのに、わざわざ他店から取り寄せて比較させてもらえるのは、ものすごいホスピタリティなのでは?
普通なら、残った1点を売ってそれでおしまいだろうに。
前もって準備した方がいいような気は、やはりするけども。

再訪して見せてもらったもう一つのバッグは、どこにもスレも汚れもなく、革も真新しくいかにも新品という感じだった。そちらを買わせてもらうことにした。

私は中学生のころから、音楽も、ファッションも、車も、60年代70年代のものが大好きだった。
現代のものにはないデザインに惹かれるし、革製品や家具は使い込まれて古くなって初めて価値が出ると思っている。その雰囲気を求めて、数年前までは高円寺、下北沢、吉祥寺の古着屋さんでしか洋服を買っていなかった。
その好みに変わりはないが、ここ最近は、誰かが使い込んで味が出た物よりも、味が出るまで自分が使い込みたいと思うようになった。遠い国で誰かがどんな想いで使っていたのだろうと想像するのもロマンがあるけれど。
あと自分自身がヴィンテージになりつつあるせいもあるかもしれない。

それに、上で「(スレがあるのは)仕方ない」と言っている通り、できればスレがないのが欲しいというのが本音だった。

支払いを済ませて伊勢丹から新宿駅に向かって歩いていた。感情が振り切れて、無になってしまった。
買うと決めてからは、特大ヘルペスができたり、倒れそうになるほどずっと頭がくらくらしたり、全ての食べ物の味が変わってしまったように感じたりして、実際に買ったらどうなるんだろうと思っていたけど、何の感情もわかなかった。ような気がしたけど、買った後に今度は特大口内炎ができたので、身体は何か感じ取っていたのだと思う。
自分でも恐ろしかったのは、「またハイブランドのものが欲しくなったら、仕事頑張って買えばいいじゃん」と思ったことだった。買うまでは一生に一個で十分だと思っていたはずなのに。

翌朝、パジャマのまま開封動画を撮ってみた。

あきやさんと自問自答ガールズの皆さまへの感謝が込み上げた。
私でも、演歌を歌っていいんだ。
私でも、ハイブランドのバッグを買ってもいいんだ。
私と、私の服と、私の人生は自由なんだ。

最初に自問自答ファッションに興味を持ったのは、なんとなく服がいい感じになればいいな〜くらいの軽い気持ちだった。
最初は、「ブランドバッグ? 高価だし、私はいいよ〜。アクセサリー? うーん、つけないというアイデンティティでいいかなぁ」と思った。

それが、あきやさんやガールズさんたちのnoteを読んで気持ちが少しずつ変わっていった。

前にも書いたが、私は私の人生を軽んじていた。
私の人生なんて、波瀾万丈でも紆余曲折でもなく、人に話して面白いものではない。かと言って順風満帆でもない。
実際に人から、「そんな程度ならまだいいじゃん、私なんてあーでこーで地獄なんだから! そんなことで悩めるなんて、平和で羨ましい」と言われることは何度もあった。
傷つきつつも、そうか私の人生は取るに足らない、つまらないものなのだと考えるのが当然になっていた。

私の人生に起こったことを、詳細に語る予定は今のところない。
ただ、私には私の地獄がある。
同情されたいわけでも、共感してほしいわけでもない。
ただただ、「私と言う人間が、私の思う地獄を体験したということ」を認めて“だけ”ほしい。わからなくていい。

そのことを、初めて自分で認められた。
その気持ちに気づいた時、もうバッグを買うしかなかった。

自分の服に向き合うこと通して自分に向き合うことで、人生が動き出した。
あきやさんと自問自答ガールズの皆さまには本当に感謝です。
ありがとう。大好きです。

(終)

最後に。
途中少し販売員さんへの愚痴っぽく書いてしまいましたが、そんなつもりはなく、今となっては感謝でいっぱいです。
なんせ忙しいクリスマスイブにわざわざ他店から取り寄せてもらったのですから。
私だったら、来店すること、購入することがわかっているのなら事前に準備しておくかなと思ったのですが、それはハイブランドのお店の常識かどうかはわかりません。
お忙しいでしょうし、無理なことなのかもしれません。
聞くところによると、パリのエルメスではレザーを見せてもらうアポイントメントを取ること自体が超狭き門で、予約が取れたとしてもお店の都合で当日に時間を変更される(今から20分後に来て、とか)こともザラだと聞きました。
それは私としては「え、それ迷惑じゃない、、、?」と思ってしまうのですが、それが当然というかそうして空いた時間に別のお客様を招いたりできるから、結局お客様のためなのかなとも思います。
きちんと磨いて、綺麗な状態で購入してもらいたいとううホスピタリティだったのかなと思います。

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