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演歌バッグ購入記(2)

前回の続きです。

それからは毎日、必死にそのバッグを買う理由を探した。
バッグを買い慣れていない私は、それが何がなんでも買わなくてはいけないバッグなのか、かわい〜〜❤️❤️、くらいのバッグなのかがわからない。

伝記を読み、映画を観て、解説動画も観てどんなデザイナーでどんなブランドかを知ろうとした。
なんとか共通点を見つけ出して、まごうことなく私にふさわしいバッグであると思いたかった。

共通点はほとんどなかった。

裕福な家庭に生まれ、ファッションが好きなお母さんに育てられ、幼い頃から才能を発揮して若くして一流ブランドのデザイナーに大抜擢された。
私は徴兵されて祖国に銃を向けてもいないし、精神病院に収容されてないし、もちろんドラッグもやっていないし、同性愛者でもない。ひとつも私と被らない。

ただ、内面には共感できる部分もあった。

ひとつはあのヌードの広告。
恥ずかしがり屋なのに目立ちたがり屋なところは私にもある。
もし私がブリジット・バルドーなら、毎日裸で写真を撮って世界中に発信している。私だからやらないだけで。

もうひとつは「スモーキング」。
私は女性が男性っぽいファッションをすることに、人間らしい魅力を感じる。
かと言って、男性社会で男性に勝ちたいわけでも、男性になりたいわけでもない(子供の頃は男の子になりたかったけど)し、どちらが優れるとか劣るとかではなく、どちらも同じく美しい人間という動物だと思っている。
その意味で、女性のものは男性っぽく、男性のものは女性っぽく作ってあるのが、琴線に触れたと思う。
(だけど、女性と男性をハッキリ分けることに怒っても悲しんでもないのですよ)

でもそれだけでは購入には至らないと思った。
私は欲張りで優柔不断なので、どのブランドコンセプトを見ても、どのデザイナー/創始者の人生を知っても、共感する部分は必ずあるし、ブランドが望む世界になればそれはそれは素晴らしいと思ってしまう。

そこで基本に立ち返って、自分のコンセプト(の形容詞の部分)と、機能の希望を満たしているかを考えてみた。

コンセプトは、「色気があって凛として本格的な、大好きなものを突き詰めて家族に喜んでもらう三日職人」。

色気がある・・・◎
 ありすぎる。むしろアブノーマルなフェティシズムまである。
凛とした・・・◯
 解釈次第かもしれないけど、余計な装飾はなく、エレガントさと可憐な無骨さを感じる。
本格的な・・・◎
 これが本格的じゃなかったら何が本格的なんだと問いたい。

機能
カッチリしすぎてない・・・◯
すべすべの革・・・◯
マチが広い・・・◯
A4が入る・・・△(ちょっと飛び出る)
開口部がファスナー等でぴったりと閉まるタイプじゃなく、出し入れしやすい・・・◯
フラップ部分にハンドルがついているタイプじゃない・・・◯
できればワンハンドル・・・◯

A4以外全部◯だし、A4だって入らないわけじゃない。

それならば、私のYAZAWAに聞いてみよう。

私の両肩には、パリのカフェキツネの看板マダム、石井庸子さん(通称ナミさん)と、怪談師・オカルトコレクターの田中俊行さんが鎮座している。

お二人とも、「欲しいなら買えばいいじゃない〜(買ったらええやん〜)」と言うだけ。
やはり自分で決めるしかない。

2回目の試着から8日後、まだ理由を探していた。
かわいいから、好きだから買うで充分だとは思うけど、もうひとつ、買わずにいられない理由が欲しかった。可愛いのポジティブ一本釣りだけで買うにはあまりに高すぎた。

毎日手帳やノートにバッグの絵を描いていたので、だんだん上手くなってきた。
いつものように写真を見ていると、このバッグにはフェティシズムを感じるなぁ、と思った。
それまでは色気があるとは思っていたけど、「フェティッシュ」「フェティシズム」という言葉はそれまでは出ていなかった。
そういえば、「フェティッシュ」「フェティシズム」って、自分のイメージでは、(やや特殊な?)性的嗜好、性的執着、くらいのとらえかただけど、本来はどんな意味だろう。

調べた。

呪物!?

呪物コレクターの田中さんが私の肩でニヤリと笑った。
対応してくださった店員さんに、お取置きのお願いと来店の約束のDMをした。

(続く)



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