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終わりは、はじまり。 ループするリズム。- - ティハイについて

「じゃあ、ソロの終わりにティハイやるから、サムから入ってね!」なんてうっかりクセで言ってしまうのだが、インド音楽家でないにもかかわらず応じてくれる奏者がいるのは、なかなかありがたいことだと思うと同時に、とても便利なシステムだとも思う。

インド音楽用語で「ティハイ」というのはあるひとまとまりの完結を提示するテクニックで、「サム」(ベンガル語ではちょっと訛って「ショム」)というのは1拍目のこと。
今日は、これをちょっと説明してみたいと思う。

「サム」の重要性

インド音楽は1拍目がとても重要である。
リズムサイクルはいつも、円を描いてループするようにイメージされていて、これは西洋音楽の楽譜のように左から右へと直線で表されるリズム概念とは異なる。
つまり、終わりの1拍は、始まりの1拍でもあって、必ず1拍目に戻ってくるということがとても大事なのである。

これは、輪廻転生の宗教観と結びついていると言い表されることもあるし、イスラム神秘主義の教団が行う宇宙の運行と共鳴し神と一体化することを目指してひたすら旋回するダンス(セマー)とも通じているかもしれない。北インド古典音楽がイスラム文化の影響を色濃く受けていることを考えると、少なからず結びつきがありそうだ。

さて、「サム」と「ティハイ」について解説しようと思っても、こういうのは感覚的な要素も含んでいて説明が難しい場合が多い。
わかりやすいように、みんなが知っている曲で考えてみるのがよいのではないかと思ったので、やってみる。

例えば、最近ヌーベルミューズのラジオ番組でもずっと話題にしている日本古謡「さくらさくら」を例にしてみる。

「さくらさくら」の曲の終わりは、

い・ざ・や・  ー  | い・ざ・や・ー |
み・に・ゆ・か・| ん・ ー   ー   ー  |

これ、どこで曲が終わるの?と聞かれれば、もちろん、最後の小節の終わり、ということになるだろう。

でも、インド音楽では、小節(インド音楽用語ではVibhag)の頭の1拍目で終わるのを自然としているので、「ん」のところで曲が終わるというようなリズム的認識がある。

つまり、

い・ざ・や・  ー  | い・ざ・や・ー |
み・に・ゆ・か・| ん

こういう考え方。
違いがわかるだろうか。

でもこれだと、8拍子で捉えていた場合に、前半4拍+1拍で終わってしまうのはリズムサイクル的に足らず、尻切れトンボ感が残る。「サム」は8拍のうちの1拍目なので、本来はそこまで戻ってこなければならない。
もし、よりインド音楽的な終わり方をするなら、リズムサイクルをキープしつつ、ティハイで締めくくって、1拍目すなわちサムで終わるだろう。

い・ざ・や・  ー  | い・ざ・や・ ー  |
み・に・ゆ・か・| ん・ ー  
み・に・|
ゆ・か・ん・ ー   | み・に・ゆ・か・|

うん、「ティハイ」も入って、「サム」に戻って来ていて、インド音楽的な終わり方だ。インド音楽家がさくらさくらを演奏するとこのように終わるだろう。

こんな感じ・・!!(結局感覚的ですね。。。)

では次に、この3回繰り返しているパート「ティハイ」の説明をしたいと思う。

「ティハイ」の目的

イントロダクションに書いたように、「ティハイ」というテクニックを用いる目的は、「完結」を相手に提示することである。即興で演奏されるインド音楽においては、なくてはならない合図なのだ。それは、あるひとフレーズだったり、ソロパートだったり、1曲の演奏だったり。「ここで終わりですよ」ということを、共演者や観客や、その場にいる人に伝えるための手段なのだ。

演奏者にとっては、「ティハイ」を提示するのは、手紙でいうと「結びの挨拶」のようであり、漫才でいうと「オチ」であり、なくてはならないものである。

「ティハイ」の特徴

では、「ティハイ」とはどういうものか。なぜ「ティハイ」を聴くことによって、共演者や観客は「完結」の合図を受け取ることがができるのだろうか。

まず、3回同じフレーズを繰り返す、という構造であること。
ティハイの意味自体が、ティン(3)から来ている(ハイの意味は不明)。

そして、ポリリズムをなすことが多い。
それまでに進行していたリズムサイクルとは違う分割のリズムが乗っかってくる。このズレ感のおかげで、「お!ティハイ来た!」と気がつくことができる。というか、気づいてもらうためにポリリズムを効果的に使う。

ポリリズムとは複数の拍子が同時進行する状態だが、どういうことかわかりやすいたとえで言えば、4拍子で進行している曲の中に、3拍ひとまとまりとか、5拍ひとまとまりのリズムがパラレルで乗っかって進行する。

これが基本リズム 
1234 1234 1234 1234
パラレルのリズム 
1231 2312 3123 1231
1234 5123 4512 3451 ・・・

perfumeの「ポリリズム」(2007年)でやられていたのはまさにこれ。
1234 5123 4512 3451 2345 ・・・
ポリリズ ムポリリ ズムポリ リズムポ リリズム ・・・
となって、言葉の頭がズレていく、アレですね。

インドリズム的な言葉で歌うと、「タカタキテ」の5拍で、
1234 5123 4512 3451 2345 ・・・
タカタキ テタカタ キテタカ タキテタ カタキテ ・・・

という感じになる。

 

それで、ここから。
おさらいすると、ティハイは、

「同じフレーズを3回繰り返す」
ということ、
「1拍目(サム)に戻ってくる」ということ、そして
「わかりやすく伝える」ということが大前提。

わかりやすくするためには、旋律的にとか、アクセントの位置とか、いろいろ方法があるけれど、一番簡単なのは、休符をいれる方法がある。

先の4拍の上に5拍をのっける例でいうと、

1234 1234 1234 1234 1
1234 5・12 345・ 1234 5

とやると、ちょうど最後の「5」が1拍目のサムにもどってくるので、大変都合がいい。なんだか、完結した!結びの句!って感じがするでしょう?
(結局感覚的ですね。。。)

実はこれが「ティハイ」の、一番シンプルで汎用性のある形状なのだ。

さて、なんとなく感じていただけたとして。
次回には、「ティハイ」をもっと構造的に説明したいと思う。


巨匠による、ティハイ合戦のすごい演奏を貼っておく。


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インド・リズム・サークル「タールマンダリー」を開催しています。こういったインドのリズム感覚、カウンティング方法、ティハイについてなどを体験しながら、学んでいます。




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