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黒猫氏、7歳のお誕生日 おめでとう。

先日、うちの黒猫宛に保険会社からバースデーカードが届いた。

黒猫氏、7歳のバースデーカード

バースデーカードには「3月1日」と記載されているが、
彼女の正確な誕生日は分からない。
7年前の5月3日、ゴールデンウィークの朝に出会って、
その時、動物病院で「推定生後8週」と言われたので、
雑に2か月遡って、3月1日を暫定誕生日にしているだけだ。

その日は、ゴールデンウィーク初日。小学生の娘とガラス工房の体験講座に行く予定で、楽しみにしていた。
ところが朝の6時過ぎ、繁忙期のため、連休お構いなしで働いていた夫に叩き起こされた。

「猫拾った」
「…………へっ?何?」
「だから猫拾っちゃったんよ、でも今から僕は仕事行かなあかんし、あと頼んだ、猫は玄関にいるから、それじゃ!」

夫は呆然としている私を置いて、さっさと行ってしまった。
玄関にはタオルを敷いた段ボール箱。寒いのか、黒猫がうずくまって震えていた。
いや、猫というか…小さい小さい毛玉みたいなものというか…、いやいやいやこの子、相当月齢低くない??やばくない??どうすんの!!?

5月3日。片手に乗る大きさだった。

急いで箱に毛布を入れて、ペットボトルにお湯を入れて湯たんぽ代わりにした。子猫は震えが止まったようで、ゴロゴロ喉を鳴らして毛布を踏みはじめた。よかった。

ギリギリ夫から聞き出したことには、早朝、というかほとんど深夜、夫の事務所でしきりに鳴いているのを見つけて助けたのだという。
ということは、一体いつから食べていないんだろう。そもそも食べられる月齢じゃなさそうにも見える。先住猫のちゅーるを差し出してみたが、興味を示さなかった。猫用ミルクも哺乳瓶も家には無いし、買いに行くにもまだ朝の6時台で、どこも開いていない。どうしようか。

砂糖をぬるま湯で溶いて、スポイトで少しだけ飲ませた。こんなに小さいのに、シャー!って全身の毛を逆立てて威嚇された。まあ、美味しくないよね。ごめんよ。

先住猫の白猫氏でお世話になっているかかりつけの獣医さんは、きっと連休中は休診だろうと思ったが、ダメ元で検索してみたところ、3日だけは開いている!

娘に相談して、ガラス工房の体験講座をキャンセルした。娘はかわいいなあホワホワだなあ小さいなあと言いながら、ずっと機嫌よく猫を見ていた。ゴールデンウイーク、遊びに行くよりも面白いことを見つけたようだった。

獣医さんに予約はないが、診てもらえることになった。待合室で長く待った。子猫はキャリーの中でずっと鳴いていた。明らかに子猫の鳴き声だから、他の飼い主さんたちが、こちらを見て表情を緩ませるのがわかる。

「子猫?すごく小さいですね!」
「今朝、夫が拾ってきたんです」
「助けてくれたのね。ありがとうございます」

話しかけてくれた女性は、たまたま地域で猫の保護活動をしておられる方だった。お礼を言われるようなことをしているつもりが無かったので、少し面食らったけど、そう言ってもらえるとうれしい。

診察室に入っても、先生も、看護師さんも、何となくウキウキで浮ついている。小さくてホワホワでかわいい生き物のパワーは凄い。先生が、僕も最近猫を拾ったんですよ、とお話しくださった。

「まだ臍の緒が付いてるくらいの子猫でね。この子も小さいけど、まあ生後8週くらいは経ってるかな。このくらいになってれば何とかなりますよ、大丈夫大丈夫!」

体重は330gしかなかった。生後8週という見立ての割にはガリガリに痩せている。ビールの350ml缶より軽いってことか…と思ったのを覚えている。あごの下から首にかけて、大きな怪我の跡があったが、新しい傷ではなさそうだった。

砂糖水を飲ませたことを褒められた。身体が小さいので、長時間飲まず食わずでいると低血糖になる恐れがあるそうだ。威嚇されながら飲ませた甲斐があった。

折悪く、動物病院でも子猫用ミルクの在庫を切らしていて、離乳食のような缶詰が食べられるかも…と看護師さんがスプーンで給餌を試してくださった。ガツガツ食べて、おかわりをした。3分の1ほど食べた缶詰の残りにラップをしてもらって、買い取った。

一応、離乳食を口に運んで食べられるなら、ミルクオンリーよりもかなり楽だ。ミルクと併用するように教えてもらった。先住猫の感染予防のために、しばらく2匹を会わせず離して飼わなければいけない。我が家はボロだがサイズだけは大きい古民家で、なんとか隔離して飼うスペースはある。

2、3日もすると、黒猫は私にすっかり懐いて膝の上で眠るようになった。1階を先住の白猫氏、2階を新参の黒猫が使うようになった。

我が家に来て数日ほど。小熊みたいだった。

あとから夫に詳しく聞いた話では、この子は元々、夫の事務所によく出入りしていた顔見知りの黒猫の子どものようだ。夫の事務所は隙間だらけの倉庫兼事務所で、たくさんの野良猫が出入りしている。その中でも、この子のママは常連の部類だったそうだ。

一度、夫が在庫の段ボール箱を開けたら、その中で子猫が寝ていたことがあるらしい。それが、おそらく今の、うちの子になった黒猫氏だと思う。その時点で、すでに子猫は1匹しかいなかった。黒猫のお母さんはおそらく初めて子育てする若いママで、子育てが上手くなかったらしい。

その日、夫が深夜に出先から事務所に戻り、荷物を置いて家に帰宅しようとしたら、事務所の中から明らかな子猫の鳴き声がしたそうだ。声を頼りに探すと、子猫は2階の床のわずかな亀裂から下に落ちてしまい、1階の天井の裏というか、2階の床下から上がれなくなって助けを求めていた。

亀裂は人間の手がギリギリ通るか通らないかの隙間だ。黒猫ママの姿はあたりになく、たぶん、運ぶ途中で落としてしまい、助けられなくて、諦めてこの場を離れてしまったのだろう。

夫は床板を少し剥がして手を伸ばし、子猫を助けて段ボール箱に入れてタオルに包んだ。「……で??」ここからどうしたらいいの、となって、とりあえず自宅に運んだという話らしい。ここで冒頭に繋がる。

我が家には先住猫がいて、気難しい10歳のペルシャ猫だった。そこそこ高齢だし、先住猫を一番に考えると、簡単には子猫をそのままうちで飼う決心がつかなかったが、子猫の検査で病院に通ううち、2週間目くらいで先生に名前が決まったことを告げた。

「お名前が決まった?…ということは?つまり??」
「はい、うちで面倒見ることにしました」
「やったー!!よかったねえ、いい名前だね!」

診察室が沸いた。のちに、先住の白猫氏の闘病でもお世話になったが、本当にいい病院だ。

というわけで、黒猫氏はガツガツ食べてすくすく大きくなって、今に至る。

黒猫氏と先住の白猫氏とは、ずっと仲良くなれなかったものの、それでも適度な距離感を保ったまま6年ほど無難に同居して、私と一緒に白猫氏の最期を静かに見送ってくれた。

2021年。たまに小競り合いはあったが、おおむね平和。


ところで、黒猫ママのほうは相変わらず夫の事務所で時々姿を見かけていたそうだが、1年後くらいにぱたりと姿を見せなくなった。外で暮らす猫ちゃんだから、交通事故か、病気でもしたのか…と心配していたが、さらに1年後くらいに突然また姿を見せた。今まで見たことのない、赤い首輪をしていたそうだ。

わざわざ挨拶に来てくれたのかもしれない。そういうことなら、よかった。

あなたのお子さん、元気にしてますよ。
7歳になりました。
黒猫氏、お誕生日(仮)おめでとう。

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