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さよなら、わたしのお姫様(1)

2023年10月13日、愛猫を亡くした。
16年間、一緒に生きて生活した家族だった。

私は商業ライターで、
「ブログかnote書かないんですか」と時々聞いてくださる方もいらっしゃるのだが、ずっと仕事以外の文章を公開する場所は持っていなかった。
でも、ついに猫のためにnoteのアカウントを取ってしまった。

文章にアウトプットしなければ、私の思考は常にとっ散らかっている。
感想も、アイデアも、思い出もなにもかも
書き残さなければぐちゃぐちゃに混じりあって消えてしまう。猫のことをちゃんと覚えていたいなら、その方法は、私にとっては書くことしかないと思ったのだ。

それに、猫の闘病と介護をしている間、よその猫ちゃんや飼い主さんの闘病記をとても参考にさせていただいた。SNSでも、たくさんの方が私の猫を心配して、ときに助言を下さった。私の経験が、もしも誰かの役に立つことがあるのなら喜んで提供したい。そう思って、闘病の記録としてもある程度詳細に書き残すことにした。

気高く、強く、美しく、
いくつになっても我が家のお姫様だった

うちには2匹の猫がいた。
片方はチンチラシルバーの白猫16歳、もう1匹はmixの黒猫6歳。

白猫氏は、うちのお姫様だった。
中学生の娘は「うちで一番えらいのは、白猫ちゃん」だという。

白猫氏、11歳の頃


人間が何をやっていようと動じず構わず、撫でられたい時に人の膝に乗り、家の中のいちばん良い場所で眠り、食べたい時に好きなだけ食べる。
15歳を超えてもほとんど病気せず(8歳の頃に、一度だけ尿路結石をやったけど)、頑健で気が強く、年に一回のワクチンで動物病院に連れていけば、暴れて抵抗して、手が付けられなかった。

ここ数年は、尿の比重が低いことを指摘されていて、
何か月かに一度は尿検査をしていた。
高齢のこともあるし、年1度くらいは血液検査をしたい…と獣医先生は仰ってくださっていたが、毎度あまりにも抵抗が激しいので、無理には採血できないでいた。

彼女を動物病院に連れて行くと、いつも空気がピリッとした。先生が看護師さんを何人も呼んで、院内がにわかに騒がしくなり、診察室には緊張感が……。ただの予防接種になんでここまで、という大騒ぎだったが、彼女にとっては許しがたい仕打ちだったのだ。先生と、こんな会話をしたのを覚えている。

「もう15歳になるんですね!」
「はい、おかげさまで。毎度お手間かけてスミマセン」
「いえ、いいことですよ。15歳でこれだけ気力充実してるなんて、大したものです。ただ、この子が大きい病気したときにどこまでやらせてくれるか心配ですけどね……」

2023年6月9日

もともと食べムラが強くて、お皿に入れたフードが夕方までほとんど減らない日もあれば、午前中のうちにウェットフードのお皿と置き餌のカリカリを両方空っぽにしてしまうこともあった。
だから、食欲が薄いのはいつものことだった。
ところが、その日はフードに全く口を付けないどころか、夕方から夜にかけて、何度も吐いていた。通常は胃腸の強い子で、毛玉以外で吐くのは珍しい。

折悪く当日診が終わってしまう時間だったし、翌日は休診日だった。前述の通り、彼女を病院に連れて行くのは大仕事になる。慣れた先生に診ていただくのが一番いい。

翌日は、不安な一日だった。水以外は何も口にできず、水を飲んでも結構な割合で吐いてしまう。特に、首を低くかがめると吐き気が来るようで、何度も水を飲もうとするが、やめてしまう。
水入れの高さを調節して、首を下げずに飲めるようにすると、ようやく少しだけ飲めるようになった。それでも普段の飲水量よりはずいぶん少ないようだ。

この日、彼女はぐったりして、普段の居場所とは違う部屋の隅で丸くなってじっと耐えているようだった。「明日診てもらおうね、もうちょっと頑張って」。そう言葉をかけながら、ずっとそばにいて撫でていた。辛そうでかわいそうだ。いつもは少し触っただけで喉を鳴らすのに、ゴロゴロ音も聞こえてこない。

翌朝、病院が開いてすぐに受付に電話をした。
予約はないが、長く待っても構わないので診て欲しい旨を伝える。

問診のあと、血液検査をすることになった。いつもは暴れるが、ろくに食べても飲んでもおらず、さすがに今日の彼女は暴れる気力もない。看護師さんに保定されるがままになっていた。

「血液検査の結果が出るまで、少しお待ちください。でもまあ、高齢ですからね。吐いて脱水してると思うし、今日は点滴して帰ってもらったほうがいいと思います」
「はい、お願いします」

血液検査の結果を見ると、やはり腎臓がかなり悪くなっていた。
どのくらい悪いのか、尿検査だけではハッキリわからないものの「悪い」という事実だけは薄々でもずっとわかっていたことだ。今回は、それが血液検査の詳細な値で現れただけのことではある。

あとどれだけ、一緒に居られるか分からない。
その覚悟を、私はこれまでにも少しずつ蓄積してはいた。
だって、何といっても16歳だ。

2023年6月9日の血液検査

血液検査の結果を見ながら、先生が説明をしてくださった。

腎機能の低下は、人間の場合と同じで不可逆性のものだから、残念ながら、この先、腎機能が回復することはない。治療方法もない。
ただそれでも、先生はこのとき、
「長い目で見て、腎臓ケア用のフードに切り替えを」と言ってくださった。「長い目で見て」と仰ったことに力付けられた。

皮下点滴をしてもらって家に帰ると、彼女はみるみるうちに回復した。トイレに何度も行って、せっせとおしっこをして(毒素を排出して!)、食べられなかった数日間を取り戻すように、ごはんをがつがつ食べた。

翌日、私は仕事の都合で行くことができなかったが、夫が皮下点滴のために病院へ連れて行くと、昨日のしょんぼりした姿は嘘のように、いつもみたいに先生やスタッフさんを激しく威嚇して暴れたという。

「今日はいつもの様子ですね!
 昨日、よっぽどしんどかったんでしょうねえ」
先生は苦笑いだったそうだ。動物病院には、まったく足を向けて眠れない。
先生、いつもいつも、ありがとうございました。

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