自分の子供の所見が他の子のコピペだったら 働き方改革
学校における働き方改革は、何としても推進しなくてはならない。具体的な数字を示さないでも、その勤務実態がいかに過酷なものかは、今は多くの方がご存知のことである。
しかし、だからこそ、学校、教師は気を付けなくてはならないことがあるように思う。
このシリーズで見てきたように、学校、教師には、「手段」と「結果」をいとも簡単に結び着けてしまう傾向があるからだ。
ノーチャイムにすれば、子供の主体性が育つはずだ。
学校にきまりを作れば、教育の質が上がるはずだ。
というように、そのつなぎ方は、単線的である。
だから、例えば、「個別最適な学びの実現」をしたい。それなら「ICT化」だと、簡単に方法に飛び付いてしまう。
例えば、かつて、重松鷹泰氏が奈良女子大付属小で進めた「学習法」、加藤幸次氏の愛知・緒川小学校における個性化教育、そして、上田薫氏の教育哲学や静岡・安東小などでの一人一人を生かす教育について、その成果と課題を精査することはおろか、参照しようともしない。
そうした考え方が、学校の「神話」を生む要因の一つであった。
そもそも「働き方改革」とは、その関連法案の内容からも分かるように、労働時間に関する取組だけではなかった。だが学校現場では、その勤務実態や労働条件などから、労働時間を短縮することに注力している。そして、その主な方法は、業務の明確化・適正化によって業務量を減らすことである。
これらは、国や地教委の指導によるものなのだが、学校や教師はその指導を受けて具体的に「手段」を考える段階で、その「悪い思考の癖」を滑り込ませがちだ。
業務の厳選・削減の過程で、「業務量を減らせば働き方改革が進む」という単線的な思考を働かせてしまう場合があるのだ。
その一つが、成績評価における「所見業務の見直し」である。
今回は、このことについて考えたい。
小学校では、子供・保護者に渡す通知表に、所見欄がある。
学校による違いはあるが、「総合的な所見」「総合的な学習の時間についての所見」「外国語活動についての所見」「道徳についての所見」の4種類について文章表記で伝えるというところが、多いのではないか。
この所見の作成作業は、教師にとってかなりの負担になっている。
そのため、前期末には所見の記入を無くし、保護者との面談時に具体的な状況を口頭で伝えるという学校が増えているように思う。
だとしても、後期末の所見の作成は簡単な業務ではない。
そこで、業務量を減らすためにすることは、所見の文章のコピペである。
例えば数パターンの所見の文章を作り、それを子供に割り振る。
あるいは、他の学級で使われた文章を、自分の学級の子供に当てはめて使うという教師も存在する。
もちろん、文章に多少の変更を加えたりする場合もあるが、これは、かなりの時間の節約となる。
コピペは、簡便だ。
働き方改革のために校内のICT化も進められ、パソコンによる教職員間の情報共有が可能になったため、こうしたことが容易にできるようになったという背景もある。
確かにこれで、業務量が減った。
さて、だが、これが働き方改革なのか。
見直す業務の優先順位が間違っているのではないかと言いたいのではない。
むしろ、「次はこれしかない」という状況なのかもしれない。
では、この「道」を選択した時に、これはたとえるならば「大量生産方式」の教育方法・教育観ではないのかと思わなかったのだろうか。
日頃、一人一人の子供に目を向けた指導をしておいて、いざ「所見」の段階になると、子供を無名の存在に貶めてしまっている。
自らを裏切るような真似をしているのではないかと、考えなかったのだろうか。
子供の側からしたらどうだろう。
自分についての所見と、隣の席の子の所見が同じなのである。
教師や学校に対して不信感を抱いてもおかしくない。そして、その不信感が学習への意欲を減退させることは、想像に難くない。
また、「所見欄の自分」を受け入れられないという子も出てくるかもしれない。これは、アイデンティティの問題に発展する心配もある。
もちろん、一人一人の子供に向けて文章を考えても、それが的確であるという保証はない。しかし、自らの指導を振り返りながら、その子の姿を捉えよう、表そうという行為は、所見本来の意義に合致している。
子供を捉えるという行為に更新可能性が開かれている。
第三者の作った所見文を参考にするということは、あるだろう。
若い教師ほど、そうだと思う。
だが、それは、コピペで済ませればそれでいいという発想とは次元が違う。
だが、熱意ある青年教師も、「所見コピペ」の同調圧力にすぐに染まっていくのだろう。
やがて、「業務の量を減らすためなのだ。所見とは、『大量生産方式』で十分である。」という考えが常識となり、広まっていく。
では、どうしたらいいのか。
次回に、考えたい。
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