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荒れ地の植物と遷移

生物が生きていくために、炭水化物とたんぱく質は欠かせない。植物は光合成して空気中の二酸化炭素を炭水化物(ブドウ糖やでんぷんなど)に変換する能力を持っている。これは動物である我々人間から見たら途方もなくすごいことで、じっとしているだけでご飯やパンが生まれてくる、みたいなことだ。しかし、残念ながら生物は炭水化物だけでは生きられず、たんぱく質も合成することが必要になる。たんぱく質の原材料はアミノ酸であり、その構成要素として窒素が不可欠。窒素は大気中にいくらでも存在する(大気組成の約80%は窒素なのだ)が、気体である窒素を、生物が吸収できる栄養分の形に変換するのはむずかしい。そのため、大部分の植物は、すでにその場所の土壌に存在していた窒素を利用することで、必要なたんぱく質を合成している。

ここで疑問が生じないだろうか。別の植物がくらしていた場所ならば、そこの土壌は落ち葉や枯れ枝などで覆われていて、これらの物体を微生物が分解すれば栄養分が解き放たれ、植物はそれを吸収することもできよう。しかし、もともと植物が生えていなかった場所には、先代から受けつがれた養分は存在しないのではないだろうか。そんな場所でもやがて植物に覆われていくのだが、いちばん最初にそこに定着した植物はどうやって生きていたんだろうか。

その答えのひとつが生物による窒素固定である(※ 別の答えとして、大気中の物理反応などで無機的に固定される窒素もある。)。窒素固定とは、大気中の窒素を、生物が利用可能な栄養分の形に変換することだ。少数派だが、窒素固定の能力を持った植物は存在し、彼らのおかげで荒れ地に栄養分が蓄積されていくのだ。

たとえばマメ科の植物。マメ科の植物は草のこともあるが、樹木になることもある。マメ科の植物は荒れ地を肥沃な土地にするために植えられることがある。レンゲソウやアカシアなど。しかし彼らは外来植物なので、問題を起こすことも多い。もともと荒れ地での生存に長けているので、日本の生態系をおびやかすこともあるのだ。ちなみに厳密にいうと、マメ科の植物そのものが窒素固定をしているのではなく、この植物と共生関係にある微生物が窒素固定をして、植物に窒素を渡しているのである。

日本に古来から生息する窒素固定植物もある。ハンノキやヤシャブシとよばれる灌木で、植物分類的にはAlnus属に分類される。この植物はとても目立つ葉っぱをしているので、いちど覚えると、野山でよく目につくようになる。彼らは灌木なので、まわりに背の高い木が生えていると、日かげになってしまい生きていけない。その代わり、栄養分の少ない場所でも自分で窒素固定できるから、荒れ地とか道端とか、工事のあと数年経った場所とか、日当たりのよい荒れ地が得意なニッチとなる。

ハンノキやヤシャブシを見かけたら考えてみよう。彼らはこういう環境でうまく生きられるよう進化していること、そして生物は、自分の得意なニッチでくらしているということを。

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