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ある偏微分方程式のオイラーによる解き方がやばい件

どうしてこの記事を書いたか

※この記事は微分方程式アドベントカレンダーの1日目のために書きました。

高瀬正仁先生による『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』という本を読みました。この本はオイラーが1768年から刊行を開始した『積分計算教程』に収められた微分方程式のいくつかを解説したものです。おかげでオイラーによる微分方程式の解法をいろいろ学ぶことができました。線形微分方程式、完全微分方程式、積分因子(乗法子)といった、現代の大学数学でも学ぶ事柄がすでにオイラーによって研究されていたことに驚かされます。また、リッカチの微分方程式、弦の振動方程式なども載っています。

オイラーの解法はどれも驚嘆のテクニックでした。そのうちの1つの偏微分方程式について、自分でも別解のようなものを見つけられたので是非紹介したいと思い、本記事のテーマに選びました。

オイラーの解法は、不勉強な私にとっては「え?そんな計算していいの?」と思ってしまうような、びっくりするようなものもあるのですが、出てくる解は確かに微分方程式を満たしており、まるで魔法のようです。正直に言って厳密性や、なぜ解けるのかというメカニズムはまだ理解できておらず説明ができないのですが、まずは味わっていただければと思います。

なお、以下で『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』を参照する際は[オイラー]と記します(本来は著者である高瀬先生にちなんで[高瀬]とすべきだとは思いましたが今回はご容赦ください)。

本題の偏微分方程式

それでは早速、本題の偏微分方程式にとりかかります。それは[オイラー]のp.196に、第II部 第2章 問題2.5として掲載されている次の偏微分方程式です。

$$
\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2=1 ①
$$

$${x, y}$$の関数である$${z=z(x, y)}$$で①を満たすものを求めよ、というのが解くべき問題です。すぐに分かる解として、$${z(x,y)=\pm x+C}$$($${C}$$は定数。以下同様)や、$${z(x, y)=\pm y+C}$$が見つかります。

また、偏微分方程式①は回転対称性がありますから、$${x,y}$$を$${\alpha}$$だけ回転し、$${z=x\cos\alpha-y\sin\alpha}$$や$${z=x\sin\alpha+y\cos\alpha}$$も解となります。

さらに、極座標への変換により、
$${\frac{\partial}{\partial x}=\cos\theta\frac{\partial}{\partial r}-\frac{\sin\theta}{r}\frac{\partial}{\partial\theta}}$$、$${\frac{\partial}{\partial y}=\sin\theta\frac{\partial}{\partial r}+\frac{\cos\theta}{r}\frac{\partial}{\partial\theta}}$$となりますが、このことから$${z(x,y)=\pm r+C=\pm\sqrt{x^2+y^2}+C}$$も解であることが分かります。

これらすぐに分かる解以外に解はないか、[オイラー]に従って探索していきます。偏微分方程式①を見ると、次のようにおけることに気がつきます。

$$
\frac{\partial z}{\partial x}=\cos\phi,\quad\frac{\partial z}{\partial y}=\sin\phi\quad(0\le \phi <2\pi). ②
$$

そして、$${z}$$は$${x, y,\phi}$$の関数として全微分可能であるとします。したがって、次のように書けます。

$$
dz=\cos\theta dx+\sin\theta dy+f(x, y, \phi)d\phi ③
$$

ただし$${f(x,y,\phi)=\frac{\partial z}{\partial \phi}}$$です。

実は[オイラー]では$${p, q}$$という2個の変数によって計算を進めていたのを、本記事では$${\phi}$$という1個の変数で済ます変更をしています。変数が$${\phi}$$の1個で済むことは、関数形を$${\cos, \sin}$$に限定できることによります。この点は私が考案したアレンジです。とは言っても解法の根本はオイラーによるものです。以下でも基本的にはオイラーの解法に沿って説明します。私のアレンジによる利点は後述の解の探索がしやすくなることです。

オイラーによる驚嘆のテクニック

それではオイラーによる解法を見ていきます。まずは全微分の式③を次のように変形していきます。

$$
\begin{align*}
dz &= \cos\phi dx+\sin\phi dy +f(x, y, \phi)d\phi \\
&= d(x\cos\phi)-xd(\cos\phi)+d(y\sin\phi)-yd(\sin\phi) +f(x, y, \phi)d\phi \\
&= d(x\cos\phi+y\sin\phi)+x\sin\phi d\phi-y\cos\phi d\phi +f(x, y, \phi)d\phi \\
&= d(x\cos\phi+y\sin\phi)+\left\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\right\}d\phi. ③'
\end{align*}
$$

この変形後の全微分の式を積分すると、次のようになります。

$$
\begin{align*}
z &= \int dz \\
&=\int d(x\cos\phi+y\sin\phi)+\int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi \\
&=x\cos\phi+y\sin\phi+\int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi ④
\end{align*}
$$

(積分定数は左辺に移して$${z-C}$$などとしてもよいですが、簡単のため0としています)

この④式の
$${\int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi}$$の部分は「$${\phi}$$のみの関数」となります。実際に④式を$${x, y}$$で偏微分すると

$$
\begin{align*}
\frac{\partial z}{\partial x}&=\cos\phi+\frac{\partial}{\partial x} \int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi, \\
\frac{\partial z}{\partial y}&=\sin\phi+\frac{\partial}{\partial y} \int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi
\end{align*}
$$

となり、②式と比較すると両方とも第2項の偏微分は0となります。したがって、
$${\int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi}$$は$${x, y}$$によらず$${\phi}$$のみの関数です。

[オイラー]の解法のポイントは、この積分部分が$${x, y}$$によらないことを見つけることです。これにより様々な解を探索する足掛かりができるのです。ここがオイラーのやばい点です(いい意味で)。

解の探索

さて、上記のことから次のように$${\phi}$$の関数$${g(\phi)}$$を定義します。

$$
g(\phi)=\int\{x\sin\phi-y\cos\phi+f(x, y, \phi)\}d\phi.
$$

この式は$${x, y, \phi}$$の関係に制限があることを示しています。以下では$${g(\phi)}$$の形を適当に仮定して、微分方程式の解を探索してみます。また、$${z}$$は$${x, y}$$のみで表されて欲しいので、結局は$${f(x, y, \phi)\equiv 0}$$とします。
(注意: [オイラー]ではこのような$${f(x, y, \phi)}$$の導入はしておらず私の勝手な変更です)

よって、次のようになります。

$$
\begin{align*}
z &=x\cos\phi+y\sin\phi+g(\phi), ④' \\
g(\phi) &= \int(x\sin\phi-y\cos\phi)d\phi, ⑤ \\
g'(\phi) &= x\sin\phi-y\cos\phi. ⑥
\end{align*}
$$

④'式はパラメータ$${\phi}$$を導入して$${z}$$を書き表したものであり、⑥式は$${x,y,\phi}$$が満たすべき関係式です。ただし、$${g(\phi)}$$の形はいろいろ仮定してみる必要があります。
④'式をさらに変形して

$$
\begin{align*}
z &=\sqrt{x^2+y^2}\left(\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}}\cos\phi+\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}}\sin\phi\right)+g(\phi) \\
&=\sqrt{x^2+y^2}(\cos\theta\cos\phi+\sin\theta\sin\phi)+g(\phi) \\
&=\sqrt{x^2+y^2}\cos(\phi-\theta)+g(\phi),  ④''\\
\theta &=\arctan\left(\frac{y}{x}\right)\quad(0\le \theta<2\pi).
\end{align*}
$$

また、⑥式を変形して

$$
\begin{align*}
g'(\phi) &=\sqrt{x^2+y^2}\left(\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}}\sin\phi-\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}}\cos\phi\right) \\
&=\sqrt{x^2+y^2}(\cos\theta\sin\phi-\sin\theta\cos\phi) \\
&=\sqrt{x^2+y^2}\sin(\phi-\theta). ⑥'\\
\phi-\theta &=\arcsin\frac{g'(\phi)}{\sqrt{x^2+y^2}},\\
\phi &=\arcsin\frac{g'(\phi)}{\sqrt{x^2+y^2}}+\theta\\
&=\arcsin\frac{g'(\phi)}{\sqrt{x^2+y^2}}+\arctan\left(\frac{y}{x}\right). ⑦
\end{align*}
$$

④''、⑥'式を用いて、次の変形をします。

$$
\begin{align*}
\{z-g(\phi)\}^2 &=(x^2+y^2)\cos^2(\phi-\theta),\\
\{g'(\phi)\}^2 &=(x^2+y^2)\sin^2(\phi-\theta),\\
\{z-g(\phi)\}^2+\{g'(\phi)\}^2 &=x^2+y^2,\\
z &=\pm\sqrt{x^2+y^2-\{g'(\phi)\}^2}+g(\phi). ⑧
\end{align*}
$$

よって、$${g(\phi)}$$に何らかの関数形を仮定して⑦式によって$${\phi}$$を書き表し、それを⑧式に代入すれば解$${z=z(x,y)}$$が得られることが期待できます。以下でいくつか試してみます。

自明な解

まずは$${g(\phi)\equiv C}$$(定数)としてみます。すると、
⑧式から$${z=\pm\sqrt{x^2+y^2}+C}$$という、最初に得ていた自明な解が再度得られます。実際に偏微分方程式①を満たします。

非自明な解

次に、$${g(\phi)\equiv a\phi+b}$$($${a,b}$$は定数)の場合を考えてみます。⑦、⑧式から即座に次が得られます。

$$
z =\pm\sqrt{x^2+y^2-a^2}+a\arcsin\frac{a}{\sqrt{x^2+y^2}}+a\arctan\left(\frac{y}{x}\right)+b. 
$$

極座標であらわすと、

$$
z=\pm\sqrt{r^2-a^2}+a\arcsin\frac{a}{r}+a\theta+b. ⑨
$$

ただし、実数の範囲に限定するため、$${|a|\le r}$$とします。

⑨式が偏微分方程式①を満たすか確かめてみましょう。
$${\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)^2+\left(\frac{\partial z}{\partial y}\right)^2=\left(\frac{\partial z}{\partial r}\right)^2+\frac{1}{r^2}\left(\frac{\partial z}{\partial \theta}\right)^2}$$ですから、まずは$${\frac{\partial z}{\partial r},\frac{\partial z}{\partial \theta}}$$を計算してみます。

$${\frac{\partial}{\partial r}\arcsin\frac{a}{r} =\mp\frac{a}{r\sqrt{r^2-a^2}}}$$ですから、$${\pm}$$を適切に選べば

$$
\begin{align*}
\frac{\partial z}{\partial r} &=\pm\left(\frac{r}{\sqrt{r^2-a^2}}-\frac{a^2}{r\sqrt{r^2-a^2}}\right)=\pm\frac{\sqrt{r^2-a^2}}{r},\\
\frac{\partial z}{\partial \theta} &=a,\\
\left(\frac{\partial z}{\partial r}\right)^2+\frac{1}{r^2}\left(\frac{\partial z}{\partial \theta}\right)^2 &=\frac{r^2-a^2}{r^2}+\frac{a^2}{r^2}=1.
\end{align*}
$$

よって、以下が解の1つであることが分かりました。

$$
z=\pm\left(\sqrt{r^2-a^2}+a\arcsin\frac{a}{r}\right)\pm a\theta+b\quad(複号任意). ⑨'
$$

私はこの解が得られた時、最初は半信半疑でしたが①を満たすことを計算で確認できた瞬間には大変感動しました。ただし、$${\pm}$$は辻褄が合うように選ぶ必要があります。また、⑨'式は"長さ+角度"のように見えるため、物理的な意味は見出せていませんが、結構綺麗な式だと思います。

そして、$${a\equiv 0}$$とすることで、さきほどの自明な解も得られるため、その点でも大満足です。極座標表示の⑨'式は回転対称性を満たすのがすぐ分かる点もgoodです。

移動した解

今度は$${g(\phi)\equiv c\cos\phi+d\sin\phi}$$($${c,d}$$は定数)としてみます。

このとき、④'式より
$${z=(x+c)\cos\phi+(y+d)\sin\phi}$$です。

また、⑥式より
$${-c\sin\phi+d\cos\phi=x\sin\phi-y\cos\phi}$$です。

したがって、$${X=x+c, Y=y+d}$$とおくと

$$
\begin{align*}
& z =X\cos\phi+Y\sin\phi \\
& X\sin\phi-Y\cos\phi=0
\end{align*}
$$

となります。
したがって、これまで$${x,y}$$に対して行った議論を$${X,Y}$$に適用することで$${z=\pm\sqrt{X^2+Y^2}=\pm\sqrt{(x+a)^2+(y+b)^2}}$$
という自明な解を移動したものが得られます。

さらに、$${g(\phi)=a\phi+b+c\cos\phi+d\sin\phi}$$とすれば、非自明な解⑨を移動した次の解が得られます。

$$
\begin{align*}
z = &\pm\left\{\sqrt{(x+c)^2+(y+d)^2-a^2}+a\arcsin\frac{a}{\sqrt{(x+c)^2+(y+d)^2}}\right\}\\
&\pm a\arctan\left(\frac{y+d}{x+c}\right)+b. ⑩
\end{align*}
$$

他にはない?

$${g(\phi)=\tan\phi}$$を試してみましたが、うまく計算できませんでした。それ以外にも、$${g(\phi)}$$の形をうまく仮定して⑦、⑧式から$${\phi}$$を消去できればよいのだと思いますが、綺麗に解析解が得られるものは私はもう思いつきませんでした。

本記事で得られた自明な解と非自明な解は、⑦式の$${\phi=\cdots}$$の式の右辺で$${g'(\phi)}$$が定数となるため、計算がうまく進んだのですね。

もし他の解が存在することをご存知でしたらご教示ください。

まとめ

  • オイラーが『積分計算教程』で解法を記した偏微分方程式①を、オイラーの方法に従って解きました。ただし、パラメータは$${\phi}$$1個で済ませました。

  • $${z}$$は$${x,y,\phi}$$の関数であると仮定して、後から$${\phi}$$を消去するという方法でした。④式の末尾の積分部分が$${\phi}$$のみの関数であることを見抜くオイラーのテクニックがやばいと思いました。

  • $${g(\phi)}$$の形をいくつか仮定して解を探索しました。割と綺麗な解⑨’式や、⑩式が得られました。

(おしまい)

参考文献

  1. 『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』(高瀬正仁著、共立出版、2018)


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