【勅使河原先生の縄文検定】 第6問

『縄文時代を知るための110問題』(11月8日出荷開始)の刊行記念。
著者勅使河原彰さんが本書から厳選した10の「問題」。
https://www.shinsensha.com/books/4447/

「縄文時代に弱者のケアはあったか?」
 縄文時代にもケガをしたり、病気になった人はいたはず。こうした人たちは・・・。

  ↓
答え
縄文人は、社会的弱者のケアをおこなっていた。

 縄文人骨は、骨折例が多いことで知られている。その頻度は五パーセント前後と高く、男女比では、男性の方が五倍前後と圧倒的に高い。これは男性の方が狩猟などの体力を使う激しい活動が多かったことを示している。
 その骨折例で注目されることはその多くが自然治癒をしていることで、なかには後期の岡山県倉敷市の涼松貝塚から出土した熟年男性のように、大腿骨を骨折した後で添え木をあてて患部を固定するという、いわば整復的な措置がとられた例すらある。こうした骨折をした人は、それが自然治癒するまでは、当然、激しい労働などはできなかったはずなので、縄文社会は、そうした弱者をケアしていたことは間違いない(鈴木隆雄『骨から見た日本人―古病理学が語る歴史―』講談社、一九九八年)。
 社会的弱者のケアといえば、後期の北海道虻田郡洞爺湖町の入江貝塚九号人骨が注目される。この人骨は、幼児期にポリオと思われる病気にかかり、四肢のすべてが麻痺して、ほとんど寝たきりの状態であったと考えられている。推定年齢は、二〇歳前後ということなので、ほぼ寝たきりの状態であったにもかかわらず、成人に達するまでの長い間を生きてこられたことになる。
 また、ポリオの症例の疑いがある縄文人骨は、栃木県宇都宮市の大谷寺洞穴遺跡で前期の事例が報告されている。古病理学の鈴木隆雄は、このポリオで手足がなえた縄文人骨こそは、「原始社会とみなされている縄文時代にあって、障害者とその介護にたいする精神世界と社会構造を知る」貴重な証人と指摘している。
 こうした社会的弱者のケアをおこなえたのも、縄文時代が定住社会であったことと、こうした人びとを養えるだけの余剰があったからである。


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