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始まりはささやかに: 光る君へ 37回「波紋」感想
光る君へ 37回「波紋」感想です。
◾️倫子様、いかに
最初はささいな、なんでもないことに見えたものが、あとへ行くほどに大ごとになっていく。
という気配満載の37回でございましたが。
前回のラストでは、赤染右衛門さんに
「左大臣様とはどういうお仲なの」
と詰められたまひろちゃん、どうなる?! と思ったら特にどうもなかったようで。
衛門さんはまひろちゃんの答えを聞かず、
「そういうこともわからないではないけれど」
と一気に決めつけ、真に言いたいことはこっちだったのだなと思ったのが
「お方さま(=倫子さん)だけは傷つけないでくださいね」
とはいえ。
これ理不尽ですよねえ。
釘を刺すとしたらまひろちゃんにではなくて道長さんにでしょう。本来は。
他人をいじめる奴は、虐めやすい人(文句を言わない、おとなしい、反撃しない人)を狙っていじめるそうですが。
いじめじゃなくても人間てこういうもんだよなーと思って見てました。
主従の関係にある以上、まひろちゃんの側からのNOは非常に言いにくい。というより、言ったところで無視される可能性が大。
であれば諸悪の根源は道長さんであり、釘を刺すなら道長さんにすべきところです。
この衛門さんの行動、言動は理不尽ですね。
衛門さんは道長さんにも釘をさす機会はあったけど何も言いませんでしたものね。
見送った後でいかにも忌々しげに表衣を翻していたけど、それだけ。
倫子さんは。
――むしろ気になるのは、あの問題の五十日の祝いの宴席で、倫子さんが退席したあと、道長さんとどんな話をしたのかですが、こちらは今のところ描写はありません。
ただ今回の冒頭(アバンタイトル)で、彰子さんが、
「藤式部の物語を、帝へのお土産にしたい」
と言ったときの、凍りついた表情と抑制の効いた声が、非常に気になりました。
お気の毒な立場にいることは、間違いない。
しかし実際には、左大臣様と藤式部は、みんなが思っているような関係では(現在は)ないし。
道長さんとまひろちゃんは、実は倫子さんに出会うよりもずっと以前からの関係である、ということは。
倫子さんにとってはどっちの方が「マシ」なんでしょうね。
彰子さんの女房になって以後、親しくなって男女の関係になった、というのと。
倫子さんに会うよりもずっと以前から、子どもの頃からの、複雑な関係として繋がっている、というのと。
ペケのほうでは
「単純に肉体関係があるだけなら許せても、精神的に深い繋がりがある、という方が許せない」
というご意見を見かけまして、まあそういうもんだろなー……と思いました。
倫子さんは今後、何をどこまで知っていくのか。
それとも知らずに通すのか。
いずれにしてもお気の毒なことになりそうです。
◾️御物:源氏物語
帝に献上するべく準備された源氏物語。
これは見ているだけでドキドキしましたねえ。
豪華装丁本なのはもちろん、能書家で知られた人々の手による本文とは。「これが実際に残っていたらどんなにか……!」
と思わずテレビの前で悶絶。
御物(=天皇の持ち物、所蔵品)として正倉院にあってもいいレベルだぞこれ!
あったらよかったなあ本当に。
とはいえモノが物語なので、実際にこんな豪華装丁本が献上されたとしても、物語自体は基本、軽んじられているので、一条帝ご本人がいなくなってしまったら、誰も大事には残してくれなかっただろうことも考えられますね。
かえすがえすも残念なことです。
で、今回、この時点ですでに三十三帖を数えておりました。
これはちょっと意外。
執筆は、もうちょっとゆっくりペースかと思っていました。
三十四帖は「若菜」で、光る君の晩年編が始まります。
じつは源氏物語は、作者が二人いた、という説がありまして。
この「若菜」から宇治十帖は、紫式部本人が書いたのではないという説です。
現在、研究の結果、この説は否定されています。
しかしながらわたしはしつこく、「作者が二人いても不思議じゃない」と思っているんですね。
それくらい、この若菜以降は面白くない。
和歌の巧拙はわたしには判断できませんが、別人が書いたんじゃないのかと思う理由は、とにかくツマラナイということと、何よりも「描写が下品」。
これに尽きます。
前半であれば同じく不義密通の場面であっても、品位を保った描写なのに、若菜以後は、途中でその描写の下品さにげんなりして
「あたしゃゴシップ週刊誌なんて読む趣味はないんだよ!」
つって本を放り出したことさえあります。
――この文章の生硬さ、描写の下品さ、とても紫式部本人が書いたとは思えん。
というのがわたしの思うところ。
今回、
「紫式部による草案が残っていたのを、別人が本文を書いたのではないか」
という話も聞いて、ああそれなら納得いくわ、と思いました。
下書きか、プロットのメモのようなものが残されているのを、誰かが小説の形へと書き起こした。
――だれが?
可能性として高いのは、やはり、娘の賢子さん(大弐三位)ですね。
ともあれ元々、そんなふうに思っていたので、今回
「えっ、もうそこまで書き終わってたの?」
と、ちょっと意外に感じておりました。
◾️非難は妥当なものであったのか?
わたしは今回ちょっと出遅れているので、今のところあまり目につかないのですが、今回の「母としてのまひろ」ちゃんについては、ずいぶんな非難が聞こえたそうですね。
小耳に挟んだ、まひろちゃんへの非難ですが、これはわたしにはあまり妥当なものには思えません。
たぶん、そういう非難を投げつけている方々は、ご自身の内側にある何かを刺激されて、悪罵となっているのでは? という気がします。
とはいえ。
まひろちゃんの「里帰り」は悲しいことになってしまいました。
女房づとめにもなれたつもりでいたのでしょうが、やはり久々に自宅に帰った安心感は大きかったでしょう。
その自宅が「みすぼらしく見えた」のも、素直な心情と思います。
多くのお土産も、みやげ話も、まひろちゃんにしてみれば、自分が受けているそれらを家族にもシェアしたい気持ちだったでしょう。
あいにく、受け取る方はそうは受け取れなかった。
以前なら、為時さんも惟規さんも、まひろちゃんのリラックスしたおしゃべりを楽しんで聞いたでしょう。
でも今は、賢子ちゃんがいる。
何をどう理屈では理解したとしても、賢子ちゃんにしてみれば「放置されている自分」という認識を解消できるはずもない。
まひろちゃん以外は、賢子ちゃんの寂しさを理解しているので、どうしても、賢子ちゃんの物言いたげな、でも頑なな表情の方が気になってしまう。
いとさんたちはまひろちゃんに「ドン引き」していたのではなくて、そこに漂う不穏な空気と、緊張感を、本当は、どうにかほぐしてあげたかったのではないでしょうか。
でも、どれほど探り続けても、硬い空気をほぐす糸口はとうとう見つからなかった。
賢子ちゃんにしても、寂しいなら寂しいと言えればいいのですが、それもできない。
自宅に戻っているのに、深夜、ひとり執筆を続けるまひろちゃんの姿を見ては、賢子ちゃんは近寄る隙間も見つけられないのですね。
これは、確かに悲しい。
わたしはまひろちゃんは悪く言われすぎだと思ってこれも悲しいし。
賢子ちゃんの心情を思うと、これもまた悲しい。
そんな場面でした。
◾️強盗事件
実際にあった事件だというのですから驚きですよね。
藤壺の強盗事件。
女官ふたりが装束を丸ごと「引き剥ぎ」されたとのことで。
ドラマでは被害者は下着姿でしたが、実際には丸裸にされたというのですから酷い話です。
大晦日のことであり、確かに警備は通常よりは手薄になっていたとはいえ、宮中の、そんな奥まった場所に容易に賊が入る?! とびっくりです。
これはある程度、中に入ることができる身分の人が、何を血迷ったか知りませんが強盗事件を起こしたということのようですね。
道長さんは警固を強化すると言っていましたが、本来はその任にあたる人が強盗に変じていた可能性が高い。
警固にあたる人とはつまり、侍、武士ですね。
彼らがどんな性質の人々だったかは「鎌倉殿の13人」を思い出していただければ、それも納得していただけるかと思います。
新年を迎えるにあたって何かと物入りの時期のことですから。給料が足りなかったんでしょうかねえ。
この時代、本当に法治も秩序もへったくれもあったもんじゃないです。
史実としても、紫式部さんは被害者の悲鳴を聞いて自ら駆けつけている。
多くの人が怯えて動けなかった状況でしょうに、なかなか立派なことだと思います。
紫式部日記によれば、蔵人である惟規さんがいるはずだから呼ぼうとした、という話だったんですけど、そこはドラマには採用されませんでしたね。
ところで、為時パパが年明けて昇叙されていましたが(正五位下)、これって、まひろちゃんが盗賊から中宮様を守ろうとした褒美なんでしょうか? 関係ないのかな?
◾️ブラックな貴人たち
伊周さんの呪詛もだんだん板についてきたようです。
板につきすぎて、もはや爽やかな好青年の面影はありませんね。
(役者さんはすごい)
そして、史実と違ってホワイトでいくと思われていた道長さんですが。
相手がまひろちゃんだからつい油断したのか、ポロリと漏れた言葉。
次の東宮は敦成親王、という爆弾宣言をしてしまった。
伊周さんのブラックぶりは以前からでしたが、とうとう道長さんも「ブラック道長」に変じていくのでしょうか。
位階では伊周さんは道長さんと同じ正二位になって、(位階では)互角。
道長さんも、ブラックぶりで伊周さんと互角になっていくのか、どうか。
◾️清少納言
今回、脩子内親王に仕えているというききょうさんが、源氏物語を読んでいる場面がありました。
着ているものが、定子さんの衣料だったとのこと。
形見分けとして衣類をもらっていたということなんでしょうね。
そして、源氏物語を読んだ、と言ってまひろちゃんの前に現れたわけですが。
読んでいるときの表情が、なんとも怖いものに思えました。
清少納言は光る君の物語をどう読んだか。
聞いてみたい気持ちは山盛りですが、恐ろしい決裂もやってきそうな気がして。
ハラハラしながら、また日曜日まで過ごすことになりそうです。
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