見出し画像

花咲ける青少年: 光る君へ 36回「待ち望まれた日」


 今回は素直に見ている視聴者としては「よかったねえ♡」と嬉しくなることの多い回でした。
 が、その一方では、華やかな光をみては心に嫉妬の闇を宿す人々でした。




◾️咲き誇る花


 とにかくよかったと思うのは中宮さま、彰子さんですね。
 表情が違うし何より、やはり笑顔がすてき。
 年齢的にも成熟してきているし、何よりも自信というものがその心のうちに確立されているのがみて取れます。
 それでいて、まだ、一条帝に近づきたいと思い、そのための勉強を自ら望む健気さは健在。

 敦康親王を慈しむ心は変わらず――というより、今回見ていて、なるほどそうかと思ったのですが、猶子ということになった敦康親王は、彰子さんにとっても「心の支え」だったんですね。

「親王さまとわたしはここ(内裏)で一緒に生きて参りました」
「帝のお渡りもない頃から、親王さまだけがわたしのそばにいてくださいました」

 この言葉は、「実子が生まれたら自分はもう中宮さまには近寄れない」と思っている敦康親王を慰めるだけの言葉ではなく、彰子さん自身の想いなんでしょうね。
 敦康親王を自分の子として慈しむことが、彼女の、言いようもない深い孤独を癒していたのだな、と、思わずしんみりしてしまいました。

 表情も言葉も変わり、自らの意思を表明し、それでいて周囲の人をも慈しむ。
 本当に、大輪の花が咲き始めた姿が連想されますね。
 しかもまだまだこの花は、より大きく美しく咲いてゆく。今がピークではないってところがまたすごいなあ――と思いました。

 出産後、内裏に戻ったときには装束の色目も髪型も変わっていたのが象徴的でした。


◾️それぞれの嫉妬


 今回のテーマは嫉妬でしたでしょうね。

 道長の家の繁栄を見るにつけ、明子女王も嫉妬の炎を燃やしている。
 もはや道長すら、彼女にとっては敵でしかない。というのが、ちょっと悲しい。

 家同士の仇であることを超えて惚れた相手であったものが、結局、正妻(倫子)ほどには愛されないことに傷ついて、苦悩した末にまた敵に戻ってしまった。
 敵の意味がちょっと違うというだけで。

 実家に勢いがなく、倫子さんほどの財力もないせいで、本来の身分柄から行けば自分の方こそが正妻であるべきなのに。
 しかも、実家に勢いがなく財もないのは、道長の父親のせいなのにと思うと、これはもうねえ。
 愛憎入り交じって苦しい憎悪になっていくのは、理解できる気がします。

 伊周さんが道長さんを、嫉妬もあるけど憎悪するのはまあ(わかっているので)いいとして。
 清少納言ことききょうさんの胸に芽生えたものは、なんだったでしょうか。

 帝が「枕草子」よりは源氏物語に没入すると聞いて。
 その作者、まひろちゃんをよく知るだけに、驚きも大きかった。
 まひろちゃんはまた、ききょうさんの、皇后さま(定子)への愛情も忠誠も何もかも、よく知っている。
 なのに、定子さんの仇とさえ言える道長・彰子親子に力を貸したと知れば、これもまた――立場が入れ替わってしまったことも含めて、複雑な思いがあるでしょう。
 源氏物語とやらを読んでみたいという表情、怖かったですね。
 史実じゃなくてこのドラマで。今後どうなっていくのでしょうか。

 そしてこれが火種になりそうだ、というのが、まひろちゃんの朋輩。
 彰子さんからメンター的に頼みにされるようになったので、中宮さまの「おそば役」を、事実上解任された(彰子さん自身にはその認識はないかもしれませんが)左衛門の内侍。

 これはまあ、嫉妬となるのはわかりますよね。
 今のところは、嫉妬しているからといって何をどうしようという具体的プランはないようですが、しかし同じく指南役から遠ざかっている赤染右衛門に対して、
「悔しくはございませんの?」
 と告げる。

 これもある意味、悪魔の囁きかもしれません。
 自分も内心密かに思っていることを、それでも自らはなだめなだめておとなしくしているのに、誰かがそれを言葉にした瞬間に、曖昧だった何かが、具体的な姿になって現れてしまう。
 一度はそれを否定した赤染右衛門さんですが、一度形を得てしまった「それ」を、もはや無かったことにはできないだろうと思われます。

 そして倫子さん。
 若宮の五十日いかの祝いの席で、道長さんがツマンネーことを言ったせいで不快になって席を立った、というのは史実だそうです。
 実際には道長さんの発言のどこがどう気に障ったかは研究者の間でも見解が分かれているそうで。

 このドラマでは史実のほうとは異なる事情でした。
 若宮誕生を寿ぎ、まひろちゃんがまず和歌を披露した。そこまではいい。
 でも、そのまひろちゃんの和歌を踏襲して、答える和歌を読んだ道長さん。

 それはあたかも、ふたりが「ペア」であるように見せていました。

 倫子さんは、この二人の仲に、疑惑を持ったか。
 それでなくても、帝のお渡りを得ること、帝と真に夫婦となるにおいては、倫子さんよりもまひろちゃんの尽力が大きかったことはわかっている。
 そんな倫子さんとしては。
 若宮誕生の「功労者」に連れそうようにしている夫の姿をどうみたか。

 道長さんは倫子さんの後を追って行きましたが(これも史実通り)、あのあとはどんな会話が交わされたでしょうね。

 でも、嫉妬というならまひろちゃんも。
 誰に知られることもない秘密とはいえ、まひろちゃんはもうずっと、道長さんの正妻、倫子さんには嫉妬を感じ続けていたでしょう。
 あまり意識しないようにしていたでしょうけど、それでも。

 道長さんとたとえ結婚しても、まひろちゃんは彼の正妻にはなれないのです。
「いちばんに愛されている人」にはなり得ても、正妻にはなれない。
 単に道長さんと結婚しているというだけではなく、自分がどれほど欲しても手にすることができないものを得ている姿に、まひろちゃんの方こそ、切ない嫉妬心を抱えて生きているんですね。

 それを明かすこともまた、絶対に許されないことだけれど。


◾️若紫や さぶらふ


 さまざまな嫉妬が描かれた今回ですが、じつはいちばんそれで「やらかした」のは道長さんではなかったかと思っています。
 他の人々は、まだ内心にその思いを持っている、というだけですが。

 道長さんは、いちばんエライ人であって抑えてくれるものがなかったせいか、そのまんま、ストレートにやっちまいましたね。

 紫式部日記にもある、公任くんの(下手な)ジョーク。
「このあたりに若紫はいませんか」
 ドラマでは今回は
「若紫のような美しい姫はおらぬな」
 という失礼なことを言ってまひろちゃんに撃退されていましたが。

 その公任くんがまひろちゃんのところに近づき、なんだか話しているのをみてしまった道長さん。
 思わず声をかけてしまうのですね。藤式部、と。

 以下の流れは倫子さんのところで申しましたとおり。
 余計なことをしましたね(笑)

 寿ことほぐ歌を詠ませて「さすがであるな」と褒めるところでやめておけばよかった。
 なのになぜ、まるで相聞歌そうもんかのようにすぐにペアとわかる歌を詠んじゃったのか。

 そりゃあ、なんとなくでも不穏な空気になりますよね。

 ここんとこ、わりと気楽にまひろちゃんに会えるようになっていたから警戒心も薄らいでいたでしょうし、めでたく皇子も生まれたし、無礼講だし、酔っ払っているので理性は緩んでいるしで。
 つい、内心の思いのままに行動してしまったのでしょうか。

 

◾️何が問題か?


 ということで、赤染衛門さんに
「左大臣様とあなたは、どういうお仲なの」
 と詰められたところで今回は終幕となりました。

 ここで終わるか!? という相変わらず、すごい引きです。

 でも、何が問題なのかなあともぼんやり考えてみたり。

 仮に、藤式部が左大臣様と、いわゆる男女の関係にあったとしてもですよ。

 まひろちゃんの同僚(彰子さんの女房たち)の中に、いるんですよね道長の召人が。
 召人めしゅうど、つまり愛人です。
 これは正妻の公認するものだったとか。

 身分柄、道長くんが出世もしとらん若い頃ならまだ妾妻しょうさいはあり得ても、もはや、今のまひろちゃんでは妾妻も難しいところでしょう。
 けれども、結婚ではなく「主従関係」である召人は、べつに差し障りもない。

 考えてみればあんなにピリピリすべき理由はないよね……? と、そんなふうに思って、こちらまでドキドキして緊張してくるのを、自分でなだめております(笑)

 まあ、それぞれの人が抱く嫉妬心の現れ方次第では、悶着はいくつもおこりえますが、ただ、制度上では問題ないはず。

 そんなふうに自分に言い聞かせながら、今回は終了です。
 ドキドキしながら来週、次回をお待ちいたします。

 皆様はいかがご覧になりましたでしょうか。
 
 

この記事が参加している募集

筆で身を立てることを遠い目標にして蝸牛🐌よりもゆっくりですが、当社比で頑張っております☺️